二度の挫折を経てアメリカへー物理学徒の自由な楽園ー【海外大学院受験記2022-#4】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2022年度の第4回である今回は、この秋からアメリカのUniversity of Illinois at Chicagoの博士課程(物理学)に進学予定の古川さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

私は現在、中央大学大学院の博士課程に在籍しており、今秋からアメリカのイリノイ大学シカゴ校で物理学のPh.D.コースに進学(転学)をします。出願・合格にいたるまで多くの挫折を経験しました。挫折はどれもとても辛い経験だったのですが、得られた学びも沢山ありました。この場をお借りして、これから留学を目指している方や漠然と留学に興味を持っている方にシェアさせて頂きたいと思います。

2. 米国大学院留学を志した理由

私が大学院留学を志した理由は、大まかには以下の3点です。

2.1. 欧米諸国の方が在学中の財政サポートがしっかりしている

近年、日本の大学院生に対する財政支援制度はとても厳しいものとなっています。給付型奨学金はどれも競争率が高く、たとえ給付型奨学金を受給できたとしてもアルバイトに制約がある場合や学費を支払わなければならない場合が多いです。私のように私立大学に通う人は学費が高いため、貸与型の奨学金を借りてローンを組むか、家族から支援してもらう必要があります。

一方、欧米の大学院では理工系の学生は手厚いサポートを受けることができます。ティーチングアシスタントやリサーチアシスタントに従事しながら研究を行うことで学費が全額免除され、給料が支給されることが多いです。

2.2. 欧米諸国は博士号取得後の選択肢が多い

修了後に就職する場合、日本における博士号取得者の環境は、欧米諸国に比べるとまだまだ恵まれているとは言えないと思います。分野・就職先によっては、博士号取得者の初任給の平均は日本とアメリカで2倍以上の差があることも珍しくないようです。

2.3. 高校・大学学部でアメリカ留学を経験していたので海外生活に抵抗が無かった

私は高校時代にボストンとニューヨーク、大学時代にハワイへそれぞれ短期留学していました。そのため、アメリカで生活することに他の人より抵抗が無かったと思います。

3. 出願までに経験した苦労・挫折

私は当初、2020年度に留学することを考えていましたがTOEFLのスピーキングが思うように伸びず、また当時提出が強く推奨されていたGRE Subject (Physics)も目標スコアの950/990を取れなかったため、出願を見送ることとなりました。また、2021年度はコロナ禍による混乱で出願を延期せざるを得ない状況でした。

また、私の場合、国内の修士課程から博士課程に進学する段階で研究テーマを変えたため、出願時点で論文を投稿できていませんでした。GradCafe1などで合格した人の情報を見ると多くの人が論文投稿の経験があるようなので、論文を出している人の方が当然有利だと思います。

4. 英語の勉強法

次に、TOEFLのスコアが伸び悩んでしまった中で、どのように学習を続けていったのかをお話しします。TOEFL の対策や勉強法については多くのブログや動画などで紹介されているため、ここでは以下の3点に絞ってお話ししたいと思います。

4.1. 常に目標を持ちながら勉強する

語学学習に対するモチベーションを維持するために、常に目標を設定してそれに向かって走り続けるのが良いと思います。

TOEFL の学習は精神的にも負担が大きいです。検定料は1回あたり245ドルと高額なため、短期間で何度も受験するのはあまり現実的ではありません2。また、勉強時間と点数の関係も単純に比例するものではないと思います。それでも留学のためには目標スコアを取れるまで勉強をし続けなければなりません。「最終的にTOEFL iBTで100点を取る!」という長期的な目標と「次の試験でリーディング27点以上取る!」という短期的な目標を両方定めて、モチベーションを保ちながら対策を進めて行くのが効果的です。

4.2. 日本語における国語力・ディベート力を上げる

ライティングやスピーキングの得点を上げるためには、母国語での表現能力を上げることも重要だと思います。

母国語で表現できないことは、当然外国語で表現できません。ですので、ライティングの点数が伸び悩んでしまっている人は、その文章を日本語に直して読み直してみたときに良い構成になっているのかを見直してみるのも良いと思います。

4.3. 試験での得点を最大化することに焦点を当てる

TOEFL やIELTS の足切り点を突破するまでは、試験で高得点を記録するためにはどのような対策をすれば良いのかという視点で学習を進めていくことが大切だと思います。

大学院留学を目指す場合、多くの人は語学学習の最終的な目標として、不自由なく研究の議論がこなせることを掲げると思います。それは勿論大事なことなのですが、試験の得点を効率良く上げるための学習とは噛み合わない場合があります。

5. 出願書類作成に関して

5.1. 志望動機 (Statement of Purpose, SOP)

SoPを書く際は文章全体で一貫したストーリーを作って、自分が他の出願者と比べてどこが優れているのかを客観的な指標をもとにアピールする必要があります。学部時代の成績や受賞経験、研究の経験などを盛り込んで自分を売り込みましょう。

また、志望動機は最低1か月以上時間をかけて何度も練り直すことをオススメします。推敲の期間に頼れる人に見せてアドバイスをもらうと良いと思います。私は現在の所属の指導教官と英語ネイティブの共同研究者に見せた後、英文校閲のサービスにも出しました。

5.2. 推薦状

欧米の大学院に出願するためには基本的に推薦状が3通必要です。長期的に自分と接していて自分のことをよく知ってくれている人、具体的には指導教官や共同研究者などにお願いすることになると思いますが、多くの人にとって推薦者を3人探すことがそもそも大変だと思います。信頼関係は一朝一夕に成り立つものではありませんし、幅広くコネクションを持っておくことが大切だと思います。

6. 合否結果と進学先

私はアメリカの大学院を9校受験して、2校合格することができました。また、2校は面接をしていただいた後に第1志望群の大学から合格を頂けたため辞退しました。幸い1月末には最初の合格を頂くことができましたが、もしアメリカの大学院で全落ちしてしまった場合は、イギリス・スペイン・シンガポールの大学にも出願するつもりでした。

大学名合否志望度
テキサス大学オースティン校不合格 (2/9)第一志望群
イリノイ大学シカゴ校合格 (1/28) 進学!
アラバマ大学辞退 (3/1)
シカゴ大学不合格 (1/28)第二志望群
アリゾナ州立大学辞退 (3/1)
ハーバード大学不合格 (2/18)第三志望群
ワシントン大学不合格 (3/1)
パデュー大学合格 (2/21)
ニューヨーク市立大学面接辞退 (2/8)
出願先と合否結果

7. これから米国大学院に出願する人へのアドバイス

7.1. 最低でも1校合格することを意識する

まず、欧米の大学院の入学審査は日本の大学院入試と比べて非常に倍率が高いです。日本では大学院入試全体の倍率は高いところでも3倍くらいの印象ですが、欧米の倍率は5倍以上です3。そのため、どんなに優秀な人でも常に全落ちのリスクがあります。分野の人気度、大学のランキング、支援制度など様々な側面から志望校を決めるようにしましょう。繰り返しになりますが、倍率は非常に高くなります。

7.2. 不合格は否定されているわけではない

前述の通り入学審査は非常に競争率が高いです。そして、筆記試験だけで合否が確定するわけでもありません4。多くの優秀な学生が出願してくるため、どうしても不合格を出さざるを得ません。不合格は自分のこれまでの努力やキャリアプランが否定された訳ではないということを理解して、あまり深く考えすぎないようにしましょう。

7.3. 自分がアウトプットしたものに責任を持つ

前節で「不合格通知を受け取っても気にし過ぎないようにしましょう」というお話をしましたが、一方で、志望動機などをよりブラッシュアップしようという気持ちは常に持っていたいものです。面接を終える度にもらった質問を参考にしてプレゼンのスライドや話す内容を推敲していきましょう。

8. まとめ

正直、大学院留学のための準備はとても辛いです。英語の能力は誰にでも伸び悩んでしまう時期があります。志望動機は何を書いたら良いのか悩んで何度も何度も推敲し直すことになります。煮詰まってしまって自分が何をしてきたのか・何をしているのか分からなくなってしまう時もあります。それでも自分の目標を忘れずに、とにかく気持ちを強く持ち続けて少しずつでも前に進んでください

大学院留学を決意してから合格に至るまで多くの方にお世話になりました。特に、「日本で博士号を取得せずに海外に移りたい。」という希望に理解を示して何通も推薦状を書いてくださった現在の指導教官、修士2年で能力的にも精神的にも未熟だった頃から共同研究を始め推薦状を作成してくださった共同研究者の方、そして日頃よりサポートしてくれている家族・パートナーには心から感謝しています。本当にありがとうございました。

(注)

[1] 出願者が海外大学院出願の結果を投稿している掲示板のようなサイト。その性質上、掲載されている情報を鵜呑みにはできないものの、結果通知日や合格条件などの目安にはなる。(編集注)

[2] 勉強が進んできて、例えば、目標が100点で今の得点が98点の場合は何回か受ければ上振れして100点を取れるかもしれないので、もちろん数を撃った方が良いと思います。(執筆者注)

[3] 辞退の連絡をした後にワシントン大学から不合格通知が届いたのですが、「毎年600人以上からの出願がある。」と書かれていました。大学のホームページを見ると1年あたりの入学者が20名程度だということが分かるので、倍率は10倍前後でしょう。(執筆者注)

[4] 日本の大学入試や大学院入試は筆記試験の結果が合否を大きく左右するため、試験の出来で受かっているか落ちているか大方見当がつきますが、アメリカの大学院入試は筆記試験のスコアは出願者の1つの側面として評価されます。従って、テストのスコア以外の様々な要素も含めて総合的に考慮する”holistic approach” というアプローチで合否を判断されます。(執筆者注)

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