ミラクルな大学生が語るリアルな受験体験記【海外大学院受験記2024-#4】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2024年度の第4回である今回は、この秋からペンシルベニア大学の博士課程(生物学)に進学予定のSHIONさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

• 名前
結城史音(ゆうきしおん)  

• 専門分野
栄養学、神経学、生物学  

• 奨学金
大学院:村田海外留学奨学会55期、JASSO (学位取得型) 
大学:トビタテ!留学JAPAN、G-7奨学財団、戸部眞紀奨学財団

• 経歴 
2024- ペンシルベニア大学 (UPenn) 生物学部博士課程 
2023-2024 徳島大学医科栄養学科 学部4年 
2022-2023 Duke大学 Bohórquez研究室 研究員 
2019-2022 徳島大学医科栄養学科 学部1-3年  

• 合格体験記を読んでくれる人へ 
この合格体験記は、「読んでくれる人にカッコよく思われたい」という黒い思いと、「読んでくれる人に貢献したい」という純粋な思いに板挟みになりながら、執筆させていただきました。結果、フラットな目線から、自分の合格体験をまとめることができたと思います。

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

• きっかけの25%:留学への憧れ
学部1年の時に、米国大学院学生会さん、Shionoさん、Arataさん、Sakiさんなどの留学に関するYouTube動画に遭遇しました。留学のキラキラした感じから、留学に憧れるようになりました。

• きっかけの35%:金銭面
僕の家計では、国公立大学院の学費を払うことが厳しい状態でした。そのため、大学院の必要経費が全額支給されるアメリカ大学院理系博士課程への進学は、金銭面的に魅力的な選択肢でした。

• きっかけの40%:科学的探究心
大学で栄養学を専攻する過程で、沢山の人が健康的な食事は知っているのに実現できないこと、健康的な食事を食べていたとしても、食べることが制御不能になる場合があることを知り、興味を持つようになりました。そして、食欲に関する研究が世界で最も盛んなアメリカのアカデミアに挑戦したいと思うようになりました。

3. アメリカの大学院に合格するまで

• 学部1年生:大学院合格の壁を実感

僕の場合、アメリカ大学院留学には3つの壁を乗り越える必要がありました。

情報の壁
日本語のアメリカの大学院に関する出願情報は比較的少ないです。そのため、米国大学院学生会やXPLANEを初めとする留学支援団体の記事を読んで、大学院の選び方から志望理由書の書き方まで、様々な情報を収集させていただきました。

言語の壁
日常会話は苦しいぐらいの英語力でした。そこで、オンライン英会話 (「学研Kimini英会話」を使用)や英語の語学試験 (TOEICやTOEFL)の対策をしながら英語力の向上に務めました。

実績の壁
研究への興味はある、でも経験はありませんでした。そのため、学部2年生から、徳島大学の気になる研究室の先生にお願いをし、一緒に研究をさせていただいていました。

これら情報、英語、実績の壁を乗り越えるために、上述の活動に追加して、僕は下記のようにアメリカで1年間、研究留学をしていました。これ以降では、留学を決意してから留学を実現するまでの流れを手短に書きます。

• 学部3年生:学部研究留学の準備

留学の実現に向けて、まずアメリカで食欲について研究している研究室を、論文を読むなどして探しました。次に、それら研究室のPIにメールで研究への興味、留学の意志、留学したい時期を伝えました。同時並行で、トビタテ!留学JAPANの出願も行いました。結果、アメリカのDuke大学のBohórquez研究室から研究留学の受け入れ許可をいただき、トビタテ!留学JAPANのサポートと共に、研究留学することを実現しました。

• 休学:Duke大学へ研究留学

留学中の活動に関しては、大学院へ出願するのに役立った部分だけを記します。

研究活動
研究留学中は、指導教員の下で、2つの研究プロジェクトに取り組みました。留学中には、自分が参加していたプロジェクトの研究の結果を、Duke 大学のセミナーの一部を担当したり、交流会でポスター発表もしました。

大学院の視察
留学中には、Bohórquez研究室での活動、研究室訪問、学会への参加を通して、アメリカの大学院生の雰囲気や興味のある研究室を探しました。日本へ帰国する際には、Yale大学とUPennの自分の興味のある研究室3つに訪問しました。

未来の指導教員との出会い
留学中、北米神経科学学会 (SfN)に参加した際に、現在大学院で博士研究をする予定の研究室のPI、Betley博士と出会いました。10分程度のディスカッションをした後で、Betley博士が僕にペンシルベニア大学を出願するよう勧めてくれました。僕も彼の下で研究したいと考えていたため、興味を持ってもらえた時は嬉しかったです。この出来事は、自分が後にUPennを志望する大きな動機になりました。

• 学部4年(帰国後):大学院へ出願

大学院への出願に関しては、既に他の人がまとめてくれているので、補足程度に書かせていただきます。

TOEFL iBT
TOEFL iBTは4回受験して、スコアは以下のように推移しました。
1回目:98点 (R 28, L 28, S 22, W 20)
2回目:97点 (R 26, L 27, S 19, W 24)
3回目:96点 (R 25, L 26, S 21, W 25)
4回目:103点 (R 30, L 25, S 21, W 27)
僕は、R, L, Wでゴリ押して100点に乗せました。スコアが右肩上がりのWは、トフレ!というオンラインライティング添削サービスを受講して対策しました。出願校によっては、Sで推奨スコアが設定されているところもあるので注意が必要です。

奨学金申請
まず、XPLANEのデータベースを用いて、自分の申請可能な奨学金を調べました。奨学金財団によっては、TOEFLのスコアの提出が求められたり、応募者の出身大学に制限があったりします。

次に、応募書類を作成しました。そして、応募書類を奨学生や周りの人に見てもらいました。XPLANEのSlackグループ内の方や米国学生会の過去の登壇者の方にメールで連絡を取り、添削を依頼しました。

出願書類の作成

志望理由書 (SoP)の執筆は、XPLANEのSOP(Statement of Purpose)執筆支援プログラムを利用しました。分野の近い現アメリカ大学院生のお二方に執筆の支援をしていただきました。お二方のおかげで、SOPの構成から細かい表現まで向上できました。お二方には、SOP以外の細かい相談にも付き合っていただきました。このプログラムに申し込んで本当に良かったです。

オンラインで出願する際に出願書類の提出とは別で、大学院生活に関する一般的な質問をされる場合があります。例えば、「出願大学院の多様性にあなたはどのように貢献できるか」などです。これらの質問に対する回答は大変でした。

最終的に僕は、Duke (Neurobiology), UPenn (Biology Graduate Program), Yale (Biological and Biomedical Sciences, Neuroscience Track)の3校に出願しました。

面接
書類審査を合格したのはDukeとUPennでした。Yaleは書類で落ちました。

面接対策は、予想される質問集を作成してから、模範解答を作成・暗記しました。次に、XPLANEのSlackグループ内で大学院受験する方を探して、一緒に面接練習をしました。DukeとUPennの場合、面接1週間以上前に面接官の名前を教えてくれました。なので、面接当日に向けて、面接官の研究内容、キャリア、YouTubeで公開されているプレゼン動画から、面接官をプロファイリングしていました。楽しかったです。面接当日までに1人の面接官につき、最低5つの個人的な質問を用意していました。

Dukeは30分x4回、UPennは30分x3回のZoomでの個人面接でした。面接自体はほぼ逆質問で終わりました。逆質問を沢山することが良いのかは分かりません。個人的には、良かったと思います。

結果、DukeとUPennから合格通知をもらいました。応援してくれた人、ありがとう。

4. 考察:受験を振り返って

• アメリカの大学院に合格することは、見かけよりも簡単でも、難しくもない

2021-2024年度にDuke大学の博士課程にアメリカ国外から出願した人数は13,845人、合格したのは1,312人 (約9.5%)です [1]。僕はこの数字を見て、出願をすることが怖くなりました。しかし、アメリカ国内でDuke大学より競争率が低いプログラムは沢山あります。さらに、アメリカの大学院へは複数校出願が可能なため、大学院市場全体の競争率は、一大学の競争率よりも低くなります。よって、僕はアメリカの大学院の競争率は高いが、合格する可能性は十分にあると思っていました。

[1] All Departments: PhD Admissions and Enrollment Statistics.  [cited 2024 May 23]; Available from: https://gradschool.duke.edu/about/statistics/all-departments-phd-admissions-and-enrollment-statistics/

• (おそらく) 合格可能性 = 学術的卓越性 x コネ x 運

大学院の合格可能性は、学術的卓越性とコネと運によって説明可能だと思っています。

学術的卓越性
大学院の出願における学術的卓越性は、言い換えると学業における優秀さです。大学院は学術的に秀でた志願者を採用したい。よって学術的卓越性の証拠 – 学歴、GPA、出版論文の有無、研究発表、研究経験、出願書類の質、推薦書の内容など – が合格を左右します。

コネ
ここでのコネとは、出願するプログラムにいる教員との繋がりの「数」と「親密さ」です。コネの存在は、志願者とプログラムにとってメリットがあります。志願者側は出願を優位に進められます。プログラム側は素性の知れない爆弾を採用するリスクを回避できます。よって、コネはあるに越したことはないと考えています。


最終的に入学許可が与えられるか否かは、運による部分が大きいと思います。僕は、米国学生会に出会い、大学院留学という選択肢を早い段階で知り、学部留学を実現できて、留学中に未来の指導教員に出会って、高い倍率の中で奨学金を獲得できて、相性の良い面接官に出会いました。ミラクルです。

僕個人は、学術的卓越性 : コネ : 運が1:1:1ぐらいの割合で合格に寄与したと考えています。

• じゃあ、どうすればいいの?

将来の出願者の方に助言できる機会があるなら、「入念な出願準備をすることが大切」だと声を大にして言いたい(退屈な助言だけど)。

学術的卓越性の向上には時間がかかります。一方で、学術的功績は、次の学術的功績を手にいれる可能性を高めます。僕の場合、研究留学の経験(最初の学術的功績)が、研究実績、推薦書、奨学金、TOEFL、そして大学院合格に繋がりました。最初の学術的功績が生まれてから大学院へ出願するまでの時間を伸ばすことは学術的卓越性を達成する1つの戦略です。

オーガニックなコネは互いの信頼関係の上でのみ成り立つと思います。この信頼関係を築くには、入念な準備が必要です。具体的には、相手を入念に下調べした上で会って実際に話したり、新しい論文が出るたびにメールでその感想を送ったりと、真の興味から出てくる言動があります。

入念な出願準備は、「より多くの機会(例えば学会)への参加」や「より多くのアウトプット(例えば論文)の創出」に寄与します。より多くの機会とアウトプットは、運への露出を増やします。例えば、学会に参加することで、たまたま興味のあるPIの人と出会う可能性が上がります。

これらのことから、入念な出願準備は、学術的卓越性、コネ、運の観点から、アメリカの大学院の合格可能性を向上する合理的な方法だと考えられます。

5. これから大学院出願を目指す人へ

アメリカの大学院へ出願を考えている人のモチベを爆上げしたい!そんな思いから、最後に、留学前に僕が感じているアメリカ大学院へ進学することのメリットを書きます。

• リスク分散された選択肢

僕は、人間より賢いAIが誕生する今世紀において、専門知識を得るために、狭いコミュニティで、学費を払いながら、20代の5年間を過ごすのは大きなリスクだと感じています。留学には多くの付加価値 – 人脈、英語、コミュニケーション能力、異国の地で過ごした経験、金銭面のことなど – があります。博士留学することは、博士号取得以外のメリットが大きいという点でリスク分散された選択肢だと考えています。

• 50年の配当

日本人男性の平均寿命は約81歳で、30歳で大学院を卒業しても50年ぐらい時間があります。米国大学院で世界トップレベルの人と環境で揉まれた5年間は、その後の50年間で多くの価値をもたらしてくれます。大学院留学は優良投資株だと思っています。

• アメリカ理系大学院留学は楽しい(はず)

朝起きて、アイデアを創造して、実験で喜んで、興味を探究して、英語で話して日々が過ぎていく。辛いことも含めてアメリカ大学院生のライフスタイルは楽しいはずです。

ここまで読んでくれてありがとう。僕は出願経験を活かして、これからも海外大学院への進学をサポートしていきたいです。そこで、最近ポッドキャストを始めました。基本的に日米の大学院生などを招待して、大学院や留学にためになる情報を発信していきます。皆さんを大応援しています。僕に何か力になれることがあれば、僕のメールアドレスまで。

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