Dear人生に迷っている方へ (Ph.D.受験に全落ちし、社会人を経て2度目の挑戦で合格した人の記録)【海外大学院受験記2024-#5】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2024年度の第5回である今回は、この秋からハワイ大学マノア校の博士課程に進学予定のルピナスさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

私は一度目のPh.D.受験で全落ちし、2年後の再受験でアメリカの大学院に合格した者です。おそらくXPLANEの記事の中では唯一なのではと思います。なぜなら、私自身がPh.D.受験に失敗して路頭に迷っていた時、「Ph.D.受験失敗体験」を持った人を探しても全然見つからず、途方に暮れて孤独だったからです。この記事では「海外大学の博士課程を受験するも失敗して、2年後に働きながら再受験した1人の受験生の話をメインに紹介したいと思います。ここで自分の体験を書くことで、同じような境遇にあった方に心の処方箋となることを祈っています
少しでも参考になれば嬉しいです。出願校は10校、合格は2校でした。最終的に決めた進学先は前回の受験で落ちた第一志望の大学でした。

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

50%: 海外で生きること

ズバリ「海外生活の経験を積むため」です。研究よりもそっちが動機かい、と思った方もいるかもしれませんが、パスポート所持率が20%程度の日本人の中で、数年間の海外生活にチャレンジすること、それ自体が僕は人生における超優良株投資だと思っています。足腰の元気なうちに未知の世界でエキスパートたちと出会いネットワークを広げることは、この先何十年の人生を必ず豊かにしてくれるものだと信じています。

また、自分自身が日本での日本国外からの留学生を相手にした教育を専門としているので、専攻を決めた時から、自分自身が留学生となり彼らの苦労を身をもって体験することは長いキャリアにおいて必要不可欠と考えていました。

25%:将来の就職のため

私の専門である日本語教育では、大学の教員募集を見ると必ず「英語での授業ができること」が必須要項として書かれます。また言語教育の中心機関は北米に集中しているとのデータもあり、英語圏で業績を積むことは将来研究者として就職するためには強力な武器になるとの見込みから、早い段階で海外留学は人生計画に入れていました。

25%:お金

数ある留学候補地でも私は早い段階(具体的には修士開始時)からアメリカに的を絞っていました。アメリカの大学院なら合格した時点で進学先プログラムや所属研究室からTA/RA shipを通じて給付金     を貰えることが多いからです。実際私の先輩にも、家庭が経済的に苦しく日本で進学するよりも学費を抑えたいから、との理由でアメリカ院に進学した方がいます。私自身は高校生の頃から研究生活と大学という環境に憧れを持っており、ぼんやりと大学院というのは頭の片隅にありました。元々は英語が好きでその道を歩むつもりだったのですが、学部4年間を通して留学生サポーターをしていたことが自分にとってのライフワークのようなものとなり、日本語という外国語学習を学ぶ人たちへの教育に携わる研究をする、というのが自分の中で完璧にマッチし、日本語教育の研究を目指すようになりました。

3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

私は修士課程では言語学にfocusした研究を行っており、博士ではより教育・実践寄りの分野を研究するのですが、分野としては重なっている点が多いのでそこまで研究計画で苦労はしませんでした。ただ2回目の受験では確実に合格するため、あまりにも競争の高そうな大学は避け、より広い分野のコースに分散して出願をするようにしました。そしてこのブランクを最大限に生かそうと、研究計画書を見直すべく専門分野の本を何冊も読み直し「自分が本当に極めたい学問は何か」を見つめ直しました。また定期的に学会に出席し、自分でも研究発表を行いました。これは結果的に志望校の先生たちとのコネクションが生まれるきっかけとなり、今となっては受験に合格した一番の要素になったと信じています。 研究計画を練り直した後、最終的な内容に関しては修士時代のsupervisorに何度も添削をお願いし、フィードバックをもらったら体力と時間のあるかぎり早く訂正して送り直す、というのを繰り返しました。

4. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点・エピソード

最も苦労したのはSoP執筆です。私の場合、5月あたりから準備を始めたのですが、想定の2倍以上時間がかかり、結局締め切り前まで神経を尖らす日々を送りました。 前回受験に失敗し今回が背水の陣だったので、前回より幅広いコースに応募したのですが、その分Departmentの下調べが大変でした。特にアカデミアを離れ、大学のオンライン図書館にアクセス不可となっていたのでフリーアクセスの論文しか読むことができず、周りの教授や大学院生に何度も論文のシェアをお願いしなければなりませんでした。追い討ちをかけたのは、自分が人文系の言語教育専攻という少々マニアックな分野であるために、XPLANEのメンタリングにも「マッチングなし」となってしまいました(ただ完成稿のフィードバックは一度受けさせていただきました)。頼りになったのは修士時代の指導教官からのアドバイスです。ほぼここまでしょっぱい思い出を書いてしまいましたが、大学コミュニティを一度出てしまった社会人は特にこの孤独に耐え忍ぶ覚悟が必要になると思います。それを乗り越えられてた理由として、自分のメンタルを保つ習慣を作ったことが自分には大きかったです。メンタルヘルスに関する本を読み、何が自分の心を鍛えるのか研究しました。お香、筋トレ、お灸、規則正しい生活リズム、7時間以上の睡眠・・・・なんでもやりました。どれか一つが欠けていても耐えられない日々だと思います。とにかく生活のメリハリ(休むときは休む。やるときはやる)を習慣づけることが一番大切だと思います。

5. 英語の勉強に関して

日本に帰国後は英語を使う機会が皆無になりがちだったので、とにかく毎日少しでも英語に触れるように工夫しました。朝起きたらPodcastをつける、読書は洋書だけにする、毎日Japan Timesなどの英文ニュースを読む・・・・。特に第二言語研究の分野では「多読」がとても効果的であることが報告されています。X(旧Twitter)などでおすすめの多読書がたくさん紹介されているので、自分の興味にあった本を探してとにかく「毎日」(これ大事!)、1ページでもいいので継続して読みましょう。

6. テスト(TOEFL、GRE)の対策

英語の試験に関しては、ほとんどの受験コースが英語圏の修士号を持っていれば免除 or IELTS7.0でOKだったので特に対策はしないつもりでした。しかし、締切り4ヶ月前になってより高いスコア(具体的にはOverall 7.5 以上かつ全てのセクションで7.0以上)及び     GREを求める大学を受験することになり、急遽IELTSとGREを勉強することになりました。これがとてもしんどく、一ヶ月に一回のペースで受験するもどこかのセクションがちょっと足りない・・・・というのを繰り返し、締切り直前になってやっとクリアするというバタバタの状況でした。GREは2回受験したのですがIELTSほどの大した伸びは記録できず、しかも一度はWiFi回線がアクシデントをおこして受験が中断・無効。一回で4万円近い受験料を払ったのに・・・と泣いた思い出があります。おそらく総額で30万円は飛んだと思います。
対策としては、無料でテストのシュミレーションができるこちらのサイト(https://ieltsonlinetests.com/)を使い倒しました。ただし実際のテストより難しいのでスコアが悪くても落ち込まないでください。リスニングは毎日BBCのPodcastを時間があれば聞き流しました。WritingはChatGPTとBingの登場で本当に革命が起きました。Promptさえ上手くマスターすればかなりの正確さで作文添削をしてくれるので、ぜひ擦り切れるまで使い倒してください(個人的にはBingの方が正確だと思います)。

7. 出願書類作成に関して(SoP、推薦状)

(SoP) SoPは先に博士課程に進んだ先輩方から書類を見せいていただき、それをほぼ参考にしていました。ネット上にはたくさんのテンプレやガイドが氾濫していますが、分野ごとで書き方やアピールポイントが違うので、やはり自分の専門に近い経験者の文章が一番参考になると思います。ChatGPTを使うことが一般的になりつつありますが、やけに硬すぎる(仰々しい)文章が出てくるので、あくまで参考にしかならず、最終的には自分の英語力で調理することになります。言い換えに関してはこちらのManchester Phrase Bank(https://www.phrasebank.manchester.ac.uk/)が定番です。志望校や教官の研究業績もChatGPTなどのAIは     全然詳しくないので、それを盛り込む時は自分の下調べ&データだけが頼りです。

苦しかったのは、修士時代に受けていた大学のwriting centerや周りの英語ネイティブからのサポートがことごとく無くなった     上に、職場にも秘密にしていたため、仕事が終わって夜孤独に文章を練り続けなければいけないことでした。その上、今回の受験をラストチャンスと捉えていたので、前回よりも幅広い分野のコースに応募することにし、その分研究計画も10通あれば10通りの全然違うヴァージョンを作成していました。最後は文章を見てくれそうな英語ネイティブの友達に片っ端からコンタクトをとって推敲をお願いしたり、アメリカの博士課程を出た先輩にこっそり指導をお願いしたりして、何とか10校出願しました(いやいや、指導教官には本当に頭が上がりません・・・・)。

お願いできる人には(失礼にならない範囲で)徹底的にアタックして指導を乞うこと、そしてなるべく早く志望校の的を絞るのが肝要だと思います。

(推薦状) なるべく早くお願いすることが大切です。私の場合は出願半年前、遅くても二ヶ月前には全員にお願いしていました。先生によっては研究計画書とResumeを見せるようにお願いされる場合があるので、それも事前に作っておいた方がいいです。社会人の場合は自分の経験をアピールしてくれる同僚の方にお願いできればBestです。私も同僚の方に推薦状をお願いして、それが一番功を奏したと信じています。

8. 進学先選びについて

進学してから、こんなはずじゃなかったのに・・・・と夢と現実のギャップに苦しむ人がいます。大抵は現地の大学院生(Not先生)とコンタクトをとって実情を正直に聞くことで解決します。Webサイトやツテを通してメールを送ってみるのをおすすめします。あと、立地は本当に大事です。寒いところは鬱になる人が数値的に多いので気をつけてください。特にPh.D.生活は長いので、自分の心の健康という点で平和に過ごせそうな場所を選んだ方がいいと思います(私は修士時代が極寒のカナダ北部だったので本当に記憶が飛ぶくらいしんどかったです・・・)。

9. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

大学院受験に失敗した方へ。あなたの一生が終わったわけではありません。むしろ想像もしなかった面白い方向へと人生が動き出しています。いますぐ就活のウェブサイトをググるなり、再受験へ向けて計画を練るなり、アルバイトを探すなりしましょう。私が受験に失敗して一番良かったと思ったことは、「すぐに手を動かした」ことです。受験に失敗したことが80%くらいわかってきた時点で知り合いの先生や先輩にすぐ相談して就活への道筋を立てました。落ちたその日はすぐに求人募集サイトを手当たり次第探しました。そしたらその一ヶ月後に一番就きたかった職場から就職オファーが来ました。今はむしろあの時落ちて良かったと思っているくらいです。自分に何が足りなかったのか、一生を賭けて得たいことは何なのか、考え直すのに二年は十分くらいいい時間でした。周りの合格体験記に負けないでください。あっという間にあなたが次の筆者になりますよ。勉強、語学、プライベートでの息抜き、筋トレ、睡眠。今からやることはたくさんあります。がんばってくださいね。応援してます。

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