留学・研究経験ゼロから一年半でアメリカトップ校のPhDに挑戦!(京大物理工→ハーバード応用物理)【海外大学院受験記2025-#6】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2025年度の第6回である今回は、今年からHarvard大学の博士課程(応用物理)に進学される岸田さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

2025年3月に京都大学物理工学科材料科学コースを卒業し、同年9月よりHarvard University (Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences) Applied PhysicsプログラムのPhD課程に進学する岸田翔輝と申します。学部では熱電素子利用に向けた化合物半導体の結晶成長を研究し、大学院では計算材料科学(マテリアルズ・インフォマティクス)に取り組みます。

この体験記では、留学・研究経験がなかった3回生の夏から、約1年半で挑んだアメリカ大学院受験の体験をまとめました。今後受験される方の参考になれば幸いです。

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

3回生の春に、京大卒業後にCaltechでPhDを取得された塚本紘康さんのブログ1を読み、授業料免除・給与支給という米国PhD生の恵まれた環境に衝撃を受けました。兼ねてからの留学への憧れもあり、これを機に、経済的自立とトップレベルの研究環境を両立できるアメリカ大学院留学への準備を開始しました。

1https://usphdlife.com/

3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

3回生後期から約1年半、京大工学部材料工学専攻のエネルギー材料を専門とする研究室で研究を行いました。通常は4回生前期から配属され後期から研究開始しますが、冬の大学院出願に間に合わせるため、交渉して1年前倒しで研究させていただきました。研究ではテーマに恵まれ、4回生9月に中国の国際学会でBest Poster Awardを受賞し、その後出願前にプレプリントを公開、出願後にジャーナル投稿を行いました。

4. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点

苦労した点

トップ校ではGPA・TOEFLスコアが足切り基準として使用されるため、3回生後期は授業・研究・英語勉強を並行して進める必要があり、非常に苦労しました。しかし、これらのスコアは合否を左右する決定的要素ではないと割り切り、早めに最低限の目標を達成してから研究や出願準備に集中する戦略をとりました。その結果、4回生の頃には授業を履修せず研究に専念でき、最終的なGPAは4.3満点中3.3(専門科目は3.8)でした。また、TOEFLは3回生12月にスコア100を取得した時点で受験を終了しました(後述)。

うまくいった点

出願前にアメリカ大学院の教授とのコネクションを築けたことは大きかったです。具体的には、イリノイ州にある Northwestern University の研究室を指導教員づてに紹介していただき、4 回生9月~10月に現地で研究インターンを経験しました2。アメリカの大学院環境を肌で感じられただけでなく、メンターの教授から「大学院でもぜひ一緒に研究しよう」とお声掛けいただき、非常に有益な機会となりました。さらに、インターン後にカルフォルニアの大学を複数回って教授と面談したり、出願先の教授へメールによる事前コンタクトも継続的に行いました。これらのアプローチにより、合否の決定権を握る教授に自分をアピールできただけでなく、返信を見て事前に合格する見込みもある程度確かめられました。

2 京大工学部生向けの奨学金である、ENEOS海外渡航支援事業(https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/education/award/aedae)にご支援いただきました。

5. TOEFLの対策に関して

3回生の9月から月1回受験し、同年12月の4回目の受験で目標のScore 100に到達しました (R30 / L28 / S20 / W22)。対策では英語勉強全般でお世話になっているAtsueigoさんの記事を参考にしました。1回で目標点に達するのは難しいかもしれないので、ある程度回数を受けることを覚悟して早めに対策しておくことが大事だと思います。

6. 出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)

奨学金

4回生の7~10月に4財団に応募し、表1の結果となりました。

表1:国内奨学金出願結果

財団結果
船井情報科学財団書類通過→面接→採択
Shida Scholarship Program書類通過→面接→採択
吉田育英会書類通過→面接→採択後辞退
竹中育英会書類通過→面接辞退

申請書では、自分が海外大学院にまずは受かる能力がある・受かる可能性が高いというアピールが大事だと思います。また、どの財団も倍率が高いので、差別化のためにできるだけユニークなエピソードを組み入れ、そこから志望理由に論理立ててつなげることを心掛けました。学振の申請書を書いたことがある研究室の先輩に何度もアドバイスを頂き、それが非常に役に立ちました。すでに奨学金をもらっている先輩に連絡して、申請書のアドバイスなどを聞いておくのも重要だったと思います。

SoP (Statement of Purpose)

XPLANEのSoP執筆支援プログラムを活用しました。経験豊富な先輩メンターからフィードバックを頂きながら執筆を進めました。今後出願される方はぜひ活用されることをお勧めします。ある程度完成した後は、実際に出願する大学やプログラムに合格した先輩方にも原稿を共有してフィードバックをもらっていました。

推薦状

推薦状は表2の先生方にお願いしました。HarvardとMITでは4人目の推薦状を出すことができたので、MITの事前コンタクトを取った先生に執筆をお願いしました。この先生からは、メールやZoomでコミュニケーションを重ね、「ぜひ来てほしいから推薦状を書いても良いよ」と言ってもらっていたので、SoPやCVなどを送って内容はお任せしました。他の3名の推薦者には、「推してほしい内容のメモがあると助かる」とご要望いただいたため、アピールポイントをまとめて、出願前に送りました。メモづくりの際には、船井財団審査員の加藤先生から「推薦状は定量的・具体的に書くのが大事」とのアドバイスを頂き、それを意識して書きました。

表2:推薦者をお願いした先生方

推薦者出願者との関係
京都大学 准教授指導教員(共著あり)
東北大学 准教授共同研究者(共著あり)
Northwestern 教授研究インターンでのメンター(共著なし)
MIT Principal Research Scientist(MIT, Harvardのみ)推薦者(共同研究なし)

7. 進学先選びについて

出願結果は表3の通りで、出願したすべての大学から合格を頂けました。面接があるプログラムは材料系では少なく、あった場合でも厳密な審査というより相性チェックのような印象を受けました。合格したプログラムからはOpen Houseという合格者イベントに招待され、Caltechではこれと現地面接を兼ねていました。本当に行きたいところにのみ出願したので、オファー後はとても悩みましたが、各校のOpen Houseを巡ったうえで最も研究室の印象が良かったHarvardを最終的に選びました。

表3:出願結果

大学専攻オファー 面接
Harvard Applied PhysicsPhD (1/30)オンライン (1/18)約30分
Quantum Science
and Engineering
不合格
Northwestern Materials Science
and Engineering
PhD (1/30)
UC BerkeleyMaterials Science
and Engineering
PhD (2/5)
UCLAMaterials Science
and Engineering
PhD (2/7)オンライン (1/7)約30分
MITMechanical EngineeringPhD (2/17)自己紹介ビデオを提出
Materials Science
and Engineering
不合格
StanfordMaterials Science
and Engineering
Master (2/28)
PhD不合格
CaltechMaterials SciencePhD (3/7)現地 (2/20-21)約30分×4人

8. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

日本から海外大学院を目指すのは少数派かもしれませんが、XPLANEを始めとした、情報交換できるコミュニティや同じ境遇を経た先輩方が大変助けになります。私自身も受験期には多くの方に支えられました。ぜひ早い段階からこうしたネットワークを活用し、疑問点や悩みを解消しながら準備を進めてください。もし私でお力になれることがあれば、shokikishida-0326@outlook.jpまでご連絡ください。応援しています!

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