夢を追い求め低GPA・コネなしの社会人が分野を変えてドイツのPhDへ挑戦!【海外大学院受験記2025-#9】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2025年度の第9回である今回は、今年からUniversity of Hamburgの博士課程に進学される関根さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

初めまして!2025年10月からUniversity of HamburgのDepartment of Physics, Hamburg ObservatoryにPhD課程で入学予定のTatsuyuki Sekineと申します。私は、東京工業大学(現東京科学大学)で素粒子物理学の学士・修士号を取得後、現在は国内スタートアップ企業でデータサイエンスリサーチャーをしています。バックグラウンドや専攻がイレギュラーなので、あまり参考にならないかもしれませんが、これから受験を考えている方に少しでも有意義な情報がお届けできればと思っています。また、社会人の方や、実績やコネが無くて不安を感じている方の励みになれば幸いです。

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

子供の頃から宇宙に興味があり、大学では物理学を専攻しました。大学在学中、短期留学でイギリスの大学を訪問し、大学院留学に興味を持ちました。現地の風景や文化、研究環境に感動し、実際に留学している日本人の方からお話を聞いて、その様子は大変そうながらも輝いて見えました。大学院では所属した研究室がCERNの国際実験に参加していたため、幸運にもスイスのジュネーブで数ヶ月間滞在する機会がありました。スイスの雄大な自然に囲まれ、世界各国の研究者と触れ合う中で、海外で研究することにますます憧れを抱くようになりました。一方で、自分の能力が博士課程で通用するかという不安や、経済的な事情、卒業後のキャリアに対する懸念から、一度は就職を選択し、「戻りたくなったら戻ろう」という考えに至りました。しかし、このような中途半端な気持ちでいたせいか、就活で失敗し、新卒入社した企業ではモチベーションが保てない業務を担当することになりました。その後、1年足らずで宇宙系のスタートアップ企業に転職しました。その企業は当時、アメリカの大学でPhD留学していた方と共同研究をしており、その方の下で衛星データ解析に携わりました。これは、企業に所属しながら実質博士課程の研究に従事することができていたので、大きな経験でした。最終的にその方が卒業するまで共同研究を続け、自分自身にも十分研究経験とスキルが身についたタイミングで、アカデミアに戻りたいという思いが再燃し、PhD留学に挑戦することを決意しました。なお、これまでの経験からヨーロッパに親近感を感じていたため、アメリカではなくヨーロッパ受験を考えました。また、せっかくアカデミアに戻るなら、子供の頃の興味の原点であった銀河やブラックホールの研究がしたいと思い、宇宙物理学分野を志望しました。

3. ヨーロッパの大学院留学について

はじめに、アメリカとヨーロッパでは留学方法が少し異なるので、私の知る範囲でヨーロッパ留学の特徴をまとめます。なお、イギリスは他のヨーロッパと比べて特殊(アメリカ式に近い)なため、ご注意ください。

3.1. 入学方法

アメリカの場合、特定の時期 (Spring semesterとFall semester)に複数の大学へプログラム単位で出願するのが一般的ですが、ヨーロッパでは研究室 (プロジェクト)単位で募集されます。従って、指導教官 (PI)が採用の全権を握っており、コネがある場合は非常に有利です。また、募集は年間を通して不定期で行われるため、特定の時期に応募が集中することはあまりありません。

3.2. 試験について

多くの場合、CV、Motivation letter (SoP)、推薦状、大学の成績証明書が求められます。アメリカの大学院で要求されることのあるGREスコアは必要ありません。また、募集によりますが、英語スコアも必須でないことが多いです。一方で、修士号が必須であることが多く、これまでの研究経験のまとめや出版論文リスト (任意)を求められることもあります。書類選考が通るとinterviewに呼ばれ(締切から1ヶ月以内くらい)、そこで最終的な合否が決まります。このような特徴から、ヨーロッパの大学院留学は受験というより就活に近い印象です。

3.3. 雇用形態

雇用形態は、特定の研究プロジェクトの資金で雇われる方法と、奨学金など自分で資金を獲得して研究をする方法の二通りがあります。在籍期間はおよそ3~4年です。前者の場合、その国で生活するのに十分な給料が保証されますが、研究テーマはある程度決められています。後者の場合、研究テーマを自由に決めることができますが、奨学金などに申請して合格する必要があります。私は後者の方法で入学をしました。いずれにしても研究員という位置付けが強く、アメリカのようにTAやRAをやる必要がなく、必修の授業もほとんどありません。

4. 出願前の状況

修士課程までの実績としては、国内学会での発表が2回と、卒業後にジャーナル論文(大型研究なので、数百人もいる共著者の中の一人)が1本出ているのみでした。また、それほど授業を熱心に受けていなかったせいで、成績が壊滅的でした(具体的にはGPA: 2.6/4.5)。就職してからは、共同研究をやっていたおかげで、多数の論文の共著者になることができ、主著でも数本執筆し、国際学会で発表していました。ただ、分野を変えて研究室を探していたため、コネなどは一切ありませんでした。

5. 進学先選びについて

ドイツ、スイス、オランダなどを中心に研究室を探していました。また、ヨーロッパの留学形式に似ているオーストラリアやニュージーランドも見ていました。EURAXESSやAcademic Positionsなどのwebsiteから公募をチェックしたり、興味のある研究をしている研究室を調べて募集をしていないか、していない場合は話だけでも聞けないか、メールを送っていました。当初は、年齢的なことや成績が低かったことから、奨学金の取得は難しいと思い、公募のみ探していました。しかし、ヨーロッパのPhD募集は数が少なく、自分の興味のある分野で見つけるのは大変です。実際、私の場合月に見つかった公募は1件以下でした。そこで、選択肢を広げ、奨学金も出せるものは全て挑戦し、公募を出していない研究室に「奨学金が取れたら指導教官になってほしい」と連絡しました。研究室を探す中で、Euclid望遠鏡の観測データを機械学習で解析し、初期宇宙を解明するという、非常に興味のある研究をUniversity of Hamburgで見つけました。すぐに関連論文を読み、面白かった点、自分がやってみたいアイディアなどをまとめ、CVを添付してメールを送りました。経験上、直接訪問して話すことでお互いのことをよく知れ、好印象を持ってもらえることが多かったので、可能なら現地訪問もしたい旨を伝えました。数日後、返信が来て訪問許可をもらい、ハンブルクを訪れて研究室メンバーと面談し、自分の研究発表をしました。指導教官は好意的な反応で、「今は雇う資金が無いが、奨学金を取ってくれればいつでも受け入れる」と言われました。その後、無事に奨学金を取得することができました。

6. 英語の勉強に関して

仕事で英語を使う機会が多かったため、ある程度話すのは慣れていたものの、英語スコアは持っていた方が良いと考え、IELTSの勉強をしました。私が受験した中では、Overall 6.5で困ることはありませんでしたが、7.0以上持っていると安心だと思います。過去問を解いた以外には、TEDやPodcastを聴いたり、オンライン英会話をしていました。また、普段から調べ物や資料作成を英語で行うようにしていました。

7. 出願書類作成に関して(SoP、推薦状、奨学金)

7.1. SoP

詳細はXPLANEのページを参照して欲しいのですが、SoPは実績やコネが無くても自分アピールできるとても重要な書類なので、時間を掛けて作成することをお勧めします。希望する研究室が出している論文をよく読み、「なぜその研究室に入りたいのか」、「その研究室でしたいことは何か」、「なぜ自分がgreat fitなのか」を意識してまとめるようにしました。書いては消しを繰り返し、推敲を重ねました。また、XPLANEのSoP執筆支援プログラムを利用し、メンターの方にレビューしていただきました。英語ネイティブの校正サービスの利用も有効です。現在ではChatGPTなどが非常に有用で、調べ物やアイディア出し、文章の体裁を整えるのに役立ちますが、あくまで書く内容はご自身で考えることが重要です。

7.2. 推薦状

大学時代にお世話になった先生と、仕事で共同研究していた方にお願いしました。推薦者の方には余裕を持ってお願いをすることをお勧めします。自分の強みや思いを伝えるために、ドラフトを作成してお渡ししました。

7.3. 奨学金

応募資格のあった船井情報科学振興財団、JASSO、DAADに応募し、DAADのみ合格となりました。基本的に必要書類は公募と大きく変わらないです。SoPや研究計画書はかなり力を入れて書きましたが、船井とJASSOは書類選考落ちだったので、やはり成績が響いたのかもしれません。

8. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点・エピソード(XPLANEのイベント・Slackに参加した感想もあれば)

8.1 苦労した点

苦労することは覚悟していましたが、合格まで1年以上かかり、精神的にも辛く長い道のりでした。メールを送っても返信率は低く、公募の場合、1枠に何十人と応募するので、書類選考を通るだけでも大変でした。私は合計10件以上応募しましたが、面接に進めたのは3件で、内2件は技術的な質問にうまく答えられず、失敗しました。もう1件は事前にコンタクトを取っており、好印象でしたが、「二番手だったため今回は見送り」と言われました。最大の苦労の原因は、志望分野での経験が無かったことだと思いますが、成績にも悩まされました。成績はどんなに努力しても変えられないので、当時の自分を恨みました。ただ、誰もが成績を重視するわけではないので、諦めないことが重要です。なお、アメリカではWESの利用が一般的で、GPAが大幅に上がることがあるので、アメリカ受験をする方はおすすめです。

8.2 うまくいった点

現在では留学経験者の情報がインターネット上でたくさん公開されているので、自分と似た境遇の方の投稿にはとても助けられました。また、XPLANEのSlackSoP執筆支援サービスでは、実際に留学経験者の方に色々相談ができたので本当に感謝しています。また、仕事がかなり研究寄りで、国際学会に行ったり論文を出すことができたのは大きな強みだったと思います。コストは掛かりますが、積極的に現地訪問をしたのも良かったです。熱意を買ってもらえることが多く、お会いしたある教授からは、「論文をこんなに出しているから君はポスドク志望かと思ったよ」と言われました。さらに、分野の違う論文なのであまり評価されないのか聞いたところ、「そんなことは無い。君は研究能力があることが分かる。」と言ってもらえました。一方で、別の教授からは事前に訪問許可をもらい、遥々会いに行ったにも関わらず「君はこの分野での経験が無いからダメだね」と門前払いされたこともありました。今となっては、教授によって相性や考え方も違うことを知る良い経験だったと思います。

9. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

海外の大学院留学は、本当に大変なのは入ってからだと思いますが、合格するまでの道のりも、終わりの見えない日々で神経をすり減らしました。しかし、仮にダメだったとしても、人生は続くのでまたどこかで挑戦すれば良いかなと割り切っていました。配られたカードで勝負するしか無いので、使えるものは何でも使い、地道に自分の強みを作っていくことが大切だと思います。現在学生の方は、授業も研究も最大限努力し、可能ならコネ作り(学会で話しかける、インターンに行く、指導教授に紹介してもらうなど)をしておくと有利になると思います。また、私のように優れた業績やコネが無くても、社会人になってから戻る道もあるので、卒業後すぐに行かなかったからといって選択肢が無くなるわけでは無いことを知っていただけたら嬉しいです。

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