アメリカで電子を操り新たな物理を創発する!~Ph.D.留学のすゝめ~【海外大学院受験記2026-#1】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2026年度の第1回である今回は、今年の秋からUniversity of California, Berkeleyの博士課程(Applied Science and Technology)に進学される増田さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

2026年秋よりUniversity of California (UC) BerkeleyのApplied Science and Technology (AS&T) programでPh.D.留学を始める増田悠人です。出身は徳島県で学部時代は慶應義塾大学理工学部物理情報工学科に所属していました。この学科は応用物理を軸としており、留学に積極的なことが特徴として挙げられます。実際、多くの卒業生が学位留学を行っています。私は、学部3年秋からスピントロニクスの研究室に所属していました。

留学先では少し分野を変えて、2次元物質における量子輸送現象 (超伝導や量子Hall効果など) を扱います。特に、Moiré物質という系では多体効果により様々な量子現象が創発します。物性物理の中でも特にホットな分野に飛び込みます!

多層グラフェン中のCooper対の概念図
多層グラフェン中のCooper対の概念図。https://news.mit.edu/2022/superconducting-graphene-family-0708より引用。

私が進学するUC Berkeleyはアメリカのトップ公立大学と言われており、サンフランシスコにあります。特に、物理学においては名門とされており、数々の著名な研究者や、最近では2025年のノーベル物理学賞も輩出しています。さらに、隣接するLawrence Berkeley National Laboratory (LBNL) と密接に連携し、「大学+国立研究所」という豊富な研究リソースを活かして、世界トップクラスの研究が日々行われています。さらに、カリフォルニアの天気は素晴らしく、文字通り「雲一つない青空」が日常です (図2参照)。

UC Berkeleyのキャンパスから見える雲一つない青空
図2-1. 「雲一つない青空」が広がるUC Berkeleyのキャンパス。
UC Berkeleyのキャンパス風景
図2-2. 27ある図書館の1つ。

私は、帰国子女でも長期の留学経験があるわけでもないいわゆる「純ジャパ」です。そんな私でも、UC Berkeleyに合格することができました。この記事でPh.D.留学の魅力と目指した経緯、受験方法を紹介することで、この選択肢をより身近に感じてもらえればと思います。

2. 海外大学院留学を志した理由

学部2年くらいから、物理の研究で生きていきたいと思うようになりました。初めは、日本の大学院での博士号取得を考えていましたが、たまたま2012年に慶應で行われたアメリカ大学院留学説明会の動画 (超おもしろい) に出会いました。この動画では日米の大学院の違いが説明されていました。衝撃的だったのはアメリカの大学院では給料が支払われるということです。「お金がもらえて研究ができるのであれば行かない選択肢はない」と思い、アメリカでのPh.D.留学を志しました。

きっかけは金銭面でしたが、そのあとに慶應の教員や卒業生が書いた (思想強めな) 記事たちを読んで、 (洗脳され、) アメリカの大学院が研究・教育機関として優れた場所だという風に考えるようになりました。特に、(1)アメリカではほぼすべての大学院生が博士号取得を目指すことが魅力です。一方、日本では大学院生のほとんどが2年で卒業し、しかも多くの時間を就活に割くことを強いられています。よって、アメリカの方がより熱意をもった優秀な学生が集まりがちです。また、大学にもよりますが、(2)研究リソースが豊富です。物性物理では様々な角度からの実験や理論的解釈が重要なので、広く深い研究ができる装置や研究者の存在は強みになります。さらに、日米と研究室を渡り歩くことで、研究者として最も大事な(3)独自性を得ると信じています。最後に、(4)研究ができるレベルの英語力も身につくでしょう。同じ5年でもアメリカで過ごした方がおもしろい人間になれそうだと思いました!

3. 出願に向けて意識したこと

物理系でのアメリカ大学院受験には、基本的に推薦状 (3通)、SoP、CV、英語のスコアが必須でGREや奨学金が任意提出です。GPAは3.5以上あれば特に問題ない気がします。一般的なことはXPLANEの出願ガイドが参考になります。推薦状が最も重要で、合否の半分以上が決まると言われています!詳しいことは理研の加藤先生の記事に書かれています (必読!)。要するに、研究能力を具体的に定量的に濃密に書いてもらい、自分を研究室に採用したい、と思わせることが重要です。また、大学院受験に役立つ様々な情報はXPLANEの大学院受験記船井情報科学振興財団の留学報告書からも集められます。

ここでは、私が意識して取り組んだことや、出願の過程で強く感じたことを紹介します。

  • 英語話せない。
  • 研究成果なし。
  • 情報なし。
  • コネ一切なし。

有利な点は1つもありませんでした。しかし、ここからでもUC Berkeleyというトップスクールから合格をもらえました。

 まず、出願から進学までのスケジュールは以下のようになりました。奨学金出願期と大学院出願期が2つの大きな山でした。ずっと考え事をしていたので秋から冬の記憶がありません。このような1年間を過ごして、特にうまくいったことが3点、苦労したことが2点あったので紹介します。

大学院出願から進学までのスケジュール
図3. 大学院出願から進学までのスケジュール。

3.1. 研究

夏ごろまで完全に研究のみに集中していました。良くも悪くも、夏まで奨学金情報や大学情報をほとんど調べず、コンタクトもとっていませんでした。しかし、そのおかげで、書類にはっきりと書けるレベルの研究成果を得ることができました。この成果を出願時にとてもアピールしました。はっきりとした研究成果があるということは目に入りやすいようで、研究内容や論文の段階について詳しく聞かれることもありました。このように、研究に打ち込むのが、大学院受験において最も重要だと思います。推薦状のクオリティも上がります。また、大学院留学を目指すのであれば、早期に研究室に所属し、論文を目指して研究をすることをおすすめします。前例が少なくても頼めば意外と入れます。

3.2. お金も大事

奨学金も大きなアドバンテージとなりました。学生が奨学金を持っていると、給料を払う代わりに研究にお金を回すことができるからです。奨学金のある学生はCommitteeに推薦することもできるみたいです。実際、奨学金については注意深く聞かれました。私は応募資格があるもののほぼすべてに出願し、幸運にも船井情報科学振興財団様に採択を頂きました。このおかげで「Fellowshipをもっている学生」として教授陣に認知してもらうことができました。出願前に結果がわかる奨学金が特に重要です!

表1. 奨学金のリスト。

奨学金名書類締め切り面接結果
吉田育英会8/410/21面接落ち
村田海外留学奨学金8/4書類落ち
伊藤国際教育交流財団8/2011/16書類通過後辞退
リクルート財団9/1611/21書類通過後辞退
船井情報科学振興財団9/3010/26合格
日本学生支援機構10/92/2面接落ち
平和中島財団10/30船井に合格したため出さず

3.3. コネはやっぱり大事

次に、教授へのコンタクトを積極的に行うよう心掛けました。よく「アメリカの大学院に合格するにはコネが重要」と言われます。日本で学生生活をしていた私にコネづくりは絶望的でした。しかし、コネはメールとZoomで十分でした。メールでは研究室に興味を持った理由・自分の研究経験・奨学金の存在を伝え、Zoomで研究成果を猛アピールしました。これを何回も何回も繰り返しました。後でわかったことですが、1時間にも満たないやり取りでも、意外なほど覚えてくれていました。このおかげでしょうか、コンタクトをよくとった大学は合格し、あまりとれなかった大学は不合格でした。また、教授の人柄を知れたのもメリットでした。遠慮せずにメールを送りまくりましょう。

3.4. 大学調べは早めから

研究室や大学を調べるのが大変でした。物性物理は広い分野なので、いい研究室が山ほどあります。また、同じ大学でも進学先としてPhysicsやApplied Physics、Materials Scienceなども候補となります。よって、膨大なプログラムや研究室を比較・検討する必要があります。私は慢性の先延ばし癖により、出願ぎりぎりまで研究室を調べることになり、選択肢が狭まったり、それまでの書類等は具体性の欠けるものになったりしてしまいました。

大学調べは早くから始めることをおすすめします。メモ程度でもいいので以下のスプレッドシートのように、大学・プログラム・研究内容などをまとめておくといいでしょう。

図4. 出願先の大学・プログラム・研究室の情報をまとめたスプレッドシート。

3.5. 英語スコアの罠 (というか確認不足)

最後に、英語のスコアメイクに落とし穴がありました。もともと、私は2024年9月に受けたTOEFLのスコアのみを使うつもりでした。ほとんどすべての大最後に、英語のスコアメイクに落とし穴がありました。もともと、私は2024年9月に受けたTOEFLのスコアのみを使うつもりでした。ほとんどすべての大学ではこれで要件を満たせていました。しかし、Cornell大学のPhysicsまたはApplied Physicsにはスピーキングの点数が定められていました。このことに2025年の10月になってようやく気づき、急いでTOEFLを受けなおしました。しかし、スコアはむしろ下がってしまいました。ここから挽回できる気もしなかったので、11月に一か八かIELTSを受けて、要件を満たしました。このような状況にならないように、英語のスコアを早めから確認しておくことを強くお勧めします。お金と時間がもったいないです。
前述のようなごたごたがあり、結局、私はTOEFLとIELTSの両方を受験しました。スコアは以下になります。

  • TOEFL: R:26、L:29、W:24、S:21 (2024年9月)
  • IELTS: R:8.0、L:8.0、W:6.5、S:6.5、Total:7.5 (2025年11月)

英語のスコアメイクはできるだけ早く終え、他の出願書類やコンタクトに力を注いだ方が良いです。11月は本当にぎりぎり間に合ったという感じです。あと、IELTSはスコア送付にお金がかからなかったのでTOEFLよりおすすめです。

4. 応募書類(SoP)の作成について

SoPの作成にはXPLANEのSoP執筆支援プログラムのメンター・サブメンターの方や船井情報科学振興財団の審査委員の方にアドバイスをいただきました。メンターの方にはCVの添削もしてもらったり、研究室や教授の評判を教えてもらったりしました。SoP執筆支援プログラムはとてもおすすめです!
あとでわかったことなのですが、SoPの内容は教授陣に結構読まれています。個人的には推薦状の次に大事だと思います。推薦状と対比して、主観的に感情を込めてミクロなストーリー(課題⇒工夫⇒克服)とマクロなストーリー(今までの研究⇒大学院での研究⇒卒業後)が伝わるように書くのがポイントです。誰が読んでもわかるように、色々な人に添削してもらいましょう!

特に物理の実験系では具体的に何ができるかも大事だと思います。例えば、クライオスタットを使ったことがあるか、微細加工をしたことがあるか、光学測定をしたことがあるか、などです。留学先の研究室と直接マッチしていなくとも課題克服能力や実験のうまさ、物理の理解度を示せればとてもいいと思います。

5. 合格、そして進学先決定まで

最終的には11校 (Physicsで9校、Applied Physics系で2校) 出願しました。出願校は図4のスプレッドシートから2つ以上行きたい研究室がある大学にしました。出願時はどこにも受かる気がしていませんでしたが、なんと8校(UCB, Cornell, UW, UCSB,)からオファーを頂きました。諦めずに最後までやり抜くことが大切なのだなと学びました。

合格した中から特に興味があったUC Berkeley、Cornell University、University of Washingtonを3月上旬に弾丸で訪問しました。どの大学も設備、研究室、学生の雰囲気などの点においてとても素晴らしく、研究環境はほとんど同等だと感じました。もし人生がもう何週もあるのなら全部の大学に行きたいと思えるほどでした。その中からUC Berkeleyを選びました。これは、UC Berkeleyが以前からの憧れの大学であったこと、指導教官との相性がよさそうだと思えたこと、天気がいいこと、近くに丸亀製麺があったことが決め手です。

Berkeleyの丸亀製麺
図5.Berkeleyの丸亀製麺。

6. おわりに

将来、研究者になることを考えているのであれば、海外大でのPh.D.というのは強力な進路になります。日本ではメジャーな選択肢ではないですが、だからこそ、自分の価値を高めるために必要だと思います。特別なバックグラウンドの無かった私でも、UC Berkeleyへの道をつかむことができました。ぜひ、挑戦してみてください!
より細かいところは船井財団の報告書にも書きました。何か質問や相談があれば、yutomasuda@berkeley.eduにご連絡ください。

UC Berkeleyのキャンパスから望むサンフランシスコ湾の景色
図6. LBNLからの景色。
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