1. はじめに
2026年の夏から南デンマーク大学(SDU)で博士課程を始める内山活です。博士課程では、大雑把にソフトロボットのロコモーションについて研究をする予定です。
この記事は、日本の私立理系大学院(修士課程)の自分が、当時唯一受けた大学院に不合格となり、その後別の大学院に出願して合格した経緯をまとめています。欧州のPhDを目指している方や、出願の流れを知りたい方の参考になれば幸いです。
とはいえ、
- 英語の外部試験を受けていない
- 奨学金に出願していない
- 研究インターンを経験していない
というのが自分の例であり、冷静になって過去を振り返ると真面目に海外大学院進学に取り組んでいないような状態です。そのため、あまり参考にならないかもしれません。生存バイアス的な例ということを踏まえてご一読いただければと思います。
2. 著者プロフィール
- 出身:明治大学大学院理工学研究科機械工学専攻(学部、院ともに同大学)
- 研究内容:ソフトロボティクス
- GPA:3.3 / 4.0
- 英語スコア:なし(受験せず)
- 奨学金:なし(出願せず)
- 博士進学の意志:高校2年生のころから。海外D進は学部2年生のころから視野に。
- 現在:社会人(ロボットエンジニア)
3. 出願タイムライン
4. 大学院留学を志した理由
答えになっていないかもしれませんが、なんとなく高校2年生ぐらいのときに博士号を取りたくなったのが博士課程進学を目指したきっかけです。海外の大学院に行きたくなったのもなんとなく色んな国に住んでみたかったからです。
後付け的に、色んな研究環境に身を置きたかったから、資金や設備面が充実している(ように見えた)から、ほとんどのケースで給料がしっかり出るからという理由も付随させています。
5. 志望先の選び方
特に博士課程の場合で研究することが目的ならば、大学単位ではなくラボ単位で志望先を選ぶことが多いと思います。自分は受けるラボを、こういうことをやりたいと思える論文を出しているラボに限定しました。その中でPIの論文が特定の論文誌(自分が博士課程の間に出したいと思っている論文誌)に採択された実績があるかというのも含めました。結果的にそこまで多くのラボが残らなかったです。
5.1. なぜ欧州だったのか
多くの人が北米、中でもアメリカでの進学を選択する気がしますが、本格的に進学先を考えだしてからは選択肢に入れなくなりました。興味のあるラボが北米にはあまりない一方で、欧州には数カ所あったことが大きな理由としてあります。その上で、上記のように絞ったところ欧州のラボが何個か残りました。
6. 出願の話
6.1. ダイジェスト
そもそも最初に受けたEPFL出願時は落ちることを想定していませんでした。また、同時進行が面倒だったということもあり自分は併願的なことをしませんでした。もし落ちたとしても、そのとき考えればいいだろうと思っていました。結果的に最初に不合格になりましたが、不合格通知後すぐに興味のあった他のラボのPIへコンタクトしました。運の良いことに、ちょうど近いうちに募集するとのことで、そこに出願をして合格することができました。
振り返ると、プランBを用意していない行き当たりばったりな出願だったなと思います。出願戦略を考えるとあまり褒められたものではないですね。これは人生なんとかなるだろうという自分の楽観性によるものが大きいかと思います。到底人に勧められるようなものではありません。むしろ反面教師として同じようなスタイルを取る人が出ないことを願います。
6.2. 出願書類について
EPFLとSDUへの出願書類はほとんど共通でした。まとめてここに記載します。
6.2.1. Statement of Purpose(SoP)
SoPはXPLANEのSoP執筆サポートプログラムを利用して作成し、過去に海外大学院へ進学した方々にサポートしていただきました。有難いことに自分のメンターには専攻が近い米国で進学された方、サブメンターには自分の希望先と同じく欧州地域の専攻分野が「工学」ぐらいの広さで一致している方、の2名に付いていただきました。自分の専攻に近い方と少し離れている方に付いていただけたことで、文章の具体性と抽象性を良い感じに両立させることができたと思います。
EPFLでは”Statement of Objectives”、SDUでは”Motivation Letter”という名称でしたが、SoPと同等のものと解釈して提出しました。(厳密には別物かもしれないが。)「この論文のような研究がしたい」という意図の部分の論文タイトルぐらいは変えましたが、内容を変える必要性を感じなかったため、基本的にはほとんど同じ書類をEPFLとSDU両方の出願に使用しました。
内容は基本的に、なぜ自分がこういう研究や経験を積んできたのか、なぜこの研究がしたいのか、などを中心に書きました。サポートのおかげで自分の経験から書ける文章の最大値を出せたと自負しています。また、研究ではない経験として、ロボット開発の企業2社で計4年以上の経験、ロボコンを3年ほど行っていたことをSoPに書きました。
6.2.2. 推薦状
以下の3名にお願いしました。
- 指導教員(准教授、学部と修士の所属ラボのPI、3年半)
- 出身学科の別のロボット系ラボの教員(教授、授業や複数ラボの週1の研究会で面識、3年半)
- アルバイト先のロボットスタートアップ創業者(直属の上司、4年)
いずれの方も4年弱ほど研究や開発で関係性があり、有難いことに推薦状の執筆を請け負ってくださいました。
6.2.3. 英語スコア
EPFLはTOEFLなどの外部英語試験スコアは任意、SDUは不要でした。私は外部試験を受けていないため、いずれも提出できていません。
修士の入試は私立大学特有の内部の推薦試験だったということもあり、生涯でTOEFLはおろか、TOEICですら受けたことがないです。不要と思って勉強などをしてこなかったですが、合格したラボの面接の自分の英語がなかなかめちゃくちゃだったこともあり、多少は勉強しておけばよかったなと思っています。
6.2.4. 奨学金
なんとなく出す気になれなかったのと、ここにリソースを割く余裕はないかな、と思っていたのでいずれの奨学金にも出願しませんでした。
また、特に欧州の博士課程は研究員としての雇用も兼ねていることが多く、大学やラボがオープンにしている募集の場合には奨学金の有無は関係ない気がしています。実際にSDUの方は募集要項に給与の記載もあり、手取りを考慮しても現地で十分に暮らせるであろう額が保証されていました。EPFLも大学の規定のHPに給与がいくらであるかの記載がありました。
6.2.5. 研究業績まわり
この部分はロボット系の方しか参考にならないかもしれないです。ロボット系の国際会議は情報系の文化に近く、基本的に国際会議の予稿は査読ありです。
自分はこの国際会議の査読あり予稿を出願時点で2本持っていました。1本は学部4年で発表したもので賞のノミネートを受けました。1本はロボット系ではトップ会議とも言われるぐらいの会議のもので、修士1年で発表したものです。ジャーナルの研究論文はありませんでしたが、研究能力の最低限の保証にはなったのかなとは思います。もうひとつ、運の良いことにロボット学会の解説論文の執筆に誘われ、共著ながら解説論文を書いていたのでこれも業績欄に含めました。
国内の学会発表は6回ほど経験がありますがCVに軽く入れた程度でした。
6.3. ❌ EPFLの話
これ以降は個別の大学院の出願の流れを記します。まず、EPFLはÉcole Polytechnique Fédérale de Lausanne(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)の略です。
6.3.1. 出願
出願したのはロボット系のPhDプログラムで、志望するラボも指定する形式でした。締め切りは4月15日と12月15日で、12月の締め切りに出しました。PIとの事前コンタクトは一応試みました。何度かメールを送っても返信がなく、当時の指導教官経由で問い合わせてもらうと返事が得られましたが、十分なやりとりには至りませんでした。後から振り返ると、出願時点でラボのHPの学生募集ページが更新されておらず、このタイミングでは積極的に学生を採用する予定がなかったのかもしれません(と思い込むようにした)。
6.3.2. 結果通知
2月2日に不合格のメールが届きました。締め切りから結果まで1ヶ月半ほどでしたが、それまで選考の進捗に関するメールは1通もありませんでした。なんとなく察していたこともあり、通知を見たときの率直な感想は「あ、落ちた。」でとても冷静だった気がします。不合格通知のメールには、更なる業績などがあれば来年また出願してください、というような淡白な文章が書かれていました。
6.4. SDUの話
つづいて、SDUはSyddansk Universitet(南デンマーク大学)の通称です。
6.4.1. 事前コンタクト
2月2日にEPFLの不合格通知を受けて、翌2月3日にもともと論文などを読んでおり一方的に知っていたSDUのラボのPIにLinkedInでDMを送りました。LinkedInは課金しないと任意の相手にDMを送れないようでしたが、プレミアムの体験を使うことで事なきを得ました。すると数時間後に返事が来て「まもなくポジションの募集をかける予定」とのことでした。このラボのHPに欧州の大きなグラントに採択されたニュースがあったので、もしやと思っていましたが、まさにそのグラントの資金で募集する予定だったようです。すぐに面談の提案があり30分ほどのカジュアルな面談を行いました。面談では私の研究経験や興味、ロボコンや企業での開発経験などについて話し、PIからはラボの研究内容や募集の予定について説明がありました。ちょうど自分が15分、PIが15分ぐらい話していた気がします。
運の良いことに募集予定の内容が自分の興味とかなりマッチしていました。EPFLに出したSoPの内容をほとんど変える必要がなかった、というのはこれが理由です。研究内容でラボを選んでいたので当然ではありますが。欧州の博士課程のプロジェクトは研究内容が細かく決まっていることが多いので、募集予定の内容と自分の興味ややりたいことが強くマッチしていることは非常に大きかったと思います。
6.4.2. 出願
募集が始まると志望先のPIからメールで出願の案内が来ました。提出書類はEPFLと概ね同じでした。唯一デンマークの成績システムに自分の成績を変換するスプレッドシートに成績を入れて提出する必要があったので、そこはEPFLのときとは異なりました。締め切りは4月15日でした。
6.4.3. 選考の流れ
こちらの選考はEPFLのときとは対照的に、各ステップで連絡が来ました。選考の流れは以下の通りでした。
表1. SDUの選考の流れ。
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| 4/15 | 出願締め切り |
| 4/21 | 出願受領の連絡 |
| 4/27 | 書類審査通過の連絡 |
| 4/30 | 面接の日程連絡 |
| 5/7 | 面接 |
| 5/13 | 受かったとしていつから渡丁できるかの問い合わせ |
| 5/20 | 合格通知 |
面接の最初の予定日は別日で、GW中の旅行をしている日でした。正直に「旅行中だから日程変えてくれ!」みたいなメールを返してしまい少し後悔しましたが、別に関係なかったです。この面接は20分で、前半10分は受験者によるスライド発表(研究経験や課外活動など)、後半10分は面接官(PIとポスドク1名)からの質問でした。質問内容は「どうやってこの研究に着手するか」「応用するには何が必要か」「(スライドで話した自分の趣味プロジェクトに対して、)なぜ趣味でこういったロボットを作ったのか」などでした。
6.5. 結果のまとめ
表2. 出願結果のまとめ。
| 大学 | 事前コンタクト | 締め切り | 面接 | 結果通知 | 合否 |
|---|---|---|---|---|---|
| EPFL | メール | 12/15 | なし | 2/2 | 不合格 |
| SDU | 4/15 | 5/7 | 5/20 | 合格 |
7. おわりに
本記事で「有難いことに」「運の良いことに」という文言を多用しました。振り返れば振り返るほど、周囲の人や運にかなり助けられたこと、色々と上手く噛み合ってくれたこと、が大きく影響したかなと思います。
自分の出願は、実力以外の部分による、再現性のない、行き当たりばったりなものだったと思います。海外の大学院に行く人のブログや記事を見ると、圧倒的な行動力と実績などがあり気圧されてしまいますが、中にはこういった人間もいるということを知っていただければ幸いです。
