推薦状を依頼する時のガイドライン【XPLANE 出願ガイド】

推薦状は大学院の出願書類の中で、自分の力のみで完結できないという点で特殊な書類です。推薦状を書いてもらう人との関係性も重要なものであるために頼む上での暗黙の了解が存在し、初めて出願する人がそれを把握することは非常に難しいという問題があります。こちらの記事では主に推薦状を頼むときのガイドラインとして、そういった暗黙の了解の部分を可視化することを目的にして、これから推薦状をお願いする方々が少しでもトラブルを避けることができるように気をつけておくと良いポイントをまとめました。分野や推薦者によって状況は異なりますが、一例として参考にしていただければ幸いです。

一つ目に強調しておきたいのは、推薦状の作成は非常に手間がかかる作業だということです。推薦状の内容を考えることは勿論、それを英語に翻訳することや、大学によっては推薦者自身がウェブサイト等に沿ってPDFをアップロードし、関係性や名前、職業などを記入し送信するという一連の作業は、我々の想像以上に大変なものです。また、学生の能力を過大評価して推薦状に記載すると、推薦を受けた学生が期待に見合わなかった場合に推薦者の信頼が損なわれます。これは、その方によって推薦された将来の学生にも不利益をもたらす恐れがあります。そのため推薦者は、強力な推薦をしながらも学生の評価を過大にすることなく、絶妙なバランスを保つ必要があります。推薦状は書くのが難しい書類であることを理解し、依頼する際には推薦者の立場を考慮してお願いすることが大切です。

目次

■ 推薦状を依頼する際に気を付けるポイント集

推薦者の方々はお忙しいのでできるだけ早く、少なくとも1ヶ月前にはお願いするようにしましょう。特にお願いする予定の方が推薦状を書いてくれるか不安がある場合は、いざというときに次の方になるべく早く頼めるように前々からお願いしておく方が好ましいです。直前にお願いせざるを得ない状況になってしまうこともあるかと思いますが、その場合でも決まった時点でなるべく早く依頼し、推薦者方の負担をなるべく減らすように心がけましょう。

失敗例:所属研究室の教授(海外大学への推薦状作成経験あり)に、奨学金の一ヶ月前に推薦状をお願いした。その際に、推薦状に書いてほしいポイントをまとめたものと、ネット上の推薦状の書き方の記事も共有した。しかしいつまでも完了の連絡がなく、締切2週間前に催促のメールを送ったところ「推薦状に何を書けばいいのかわからず作業が止まってしまっている。もっと書くべきポイントを絞ってくれないか。」との返信があった。これまでのやりとりでの不信感、これ以上メールし続けることへのストレスや推薦状にいい内容を書いてもらえないという恐れなどから、最終的には推薦状をその方に書いてもらうことを諦めたが、それを決断した時点で最も早い奨学金の締切を過ぎてしまった。

推薦者それぞれの国の長期休暇を調べ、なるべくこれに重ならないようにメールを送りましょう。例えば出願時期が被る11月〜12月は、アメリカではThanksgivingとChristmasという大きな長期休暇があり、そのため11月末と12月末は多くの人がメールの返信をしなくなります。アメリカの推薦者に依頼する場合は、11月の前半までにメールを送ることをお勧めします。

理由は、強力な推薦状を書いてもらいにくいこと、そして断られる可能性が高いことです。上述したように、推薦を行うということは先生方やその研究室の学生の信用に関わってくるため、あまり知らない学生の推薦に慎重な方も多いです。さらによく知らない学生の推薦状は推薦者にとっても非常に書きづらく時間のかかるものであり、強力な推薦状にもなりづらいため、推薦者にも学生にもメリットが少ないという結果になってしまいます。

では、誰に推薦状を書いてもらうのがベストなのでしょうか?日本で一般的な大学/大学院生活を送っていると、比較的長時間接する教員は卒業論文・修士論文の指導教官のみになることがほとんどだと思います。となれば、三枚もの「強力な推薦状 = 出願者のことをよく知る人からの具体的な推薦文」を揃えることは至難の技です。推薦状を誰に依頼するのか、計画を立てるのに早すぎるということはありません。学部1-2年生の場合、卒論などで実際に研究室配属が始まるのを待たずに積極的に研究の機会を求めることから始めましょう。大学後半あるいはすでに大学院修士課程に入っていて出願まであまり時間が無い場合でも、ここからの工夫次第で強力な推薦状を得ることは可能です。以下のページでも、「誰に書いてもらうか」「何を書いてもらうか」については詳しく解説しています。

例えばインターンの学生などは滞在期間が短いため、よほど強烈な印象を与えていない限りは数年もすれば在籍中何をやっていたかを忘れられてしまいます。できれば在籍終了時に、進学を考えている場合はそのことを滞在中に伝え、年に一回は近況報告のメールなども送るとスムーズに関係性が維持でき、記憶にも留めておいてもらいやすいです。また在籍中にどのようなことをし、それがどのように研究に貢献したのかをメモしておくと推薦をしてもらうときにスムーズです。

原則として「依頼する側は推薦状の内容を知ってはいけない」と言う前提があり、推薦状の下書きを書くことはこの閲覧放棄の宣言を破ることに繋がるので避けるべきです。応募フォームでも、以下のように記述されて閲覧放棄を確認される場合も多いです(ここは”waive”が”(権利を)放棄する”という意味であることを覚えておき、必ず放棄すると宣言している方にチェックマークをいれましょう)。

■ I waive my right to review all recommendations and supporting documents.
□ I DO NOT waive my right to review all recommendations and supporting documents.

推薦者の負担を減らすために「下書きを書きます」と最初から提案をする方もいますが、場合によってはトラブルになる行為であり、最初からこれを伝えることはしないのが無難です。依頼する相手に対して推薦状に書いてほしい内容が決まっている場合は、例えば「B先生には卒業研究のときのことを書いてもらうので、それと相補的になるようにA先生には修士課程のときのことを書いて頂けると幸いです。」のように、大まかな書いてほしい内容を伝えることや、アピールしてほしい点を箇条書きで書いたメモを渡すことをお勧めします。

学生が海外大学に進学するということは、現在の所属先(研究室など)を抜けるということなので、いざ推薦状を依頼するという段階で学生の推薦状を書くのを躊躇う方もいます。そのような状況を避けるために、研究室の所属前/所属直後に海外大学院進学を考えているということを伝えるのも一つの手です。教育熱心で進学を応援してくれる方ならば、国際学会に参加させてくれたり、短期間で論文化できるテーマを与えてくれたりと、進学のチャンスを増やしてくれる場合もあります。一方で、伝えた場合、研究室が本腰を入れて取り組んでいる重要なテーマからは外される危険もありますので、そのあたりのトレードオフは知っておく必要があります。また、短期間で出ていくと最初に伝えることが本気で研究に向き合っていないと見なされてしまう可能性もあるので、何か代わりに研究への熱意を伝えられる手段を考えておくことも有効です。

学部生の間に出願する場合などは時間が限られて難しいことですが、可能なら推薦状を依頼できる方との繋がりはなるべく多く作っておいた方が良いです。前述のように推薦状を書くのを断られたり、引き受けてくれたものの直前になって書けなくなるということもあり得る為、万が一に備えて、授業で積極的に質問に行って印象を残す、研究インターンに積極的に参加するなどして推薦状を確保できる先を増やしておきましょう。

推薦状の確保先を増やす方法の1つに、海外研究インターンに参加するという方法があります。例えば、以下のプログラムは渡航費や滞在費をほぼ全額支給してくれる上、長期休暇中に行けて期間も比較的長期 (1ヶ月以上) のものです。

1. 中谷財団国際学生交流プログラム ※学部生限定
 派遣先: ジョージア工科大学 (アメリカ)、ハーバード大学 (アメリカ)、アーヘン工科大学 (ドイツ)など
2. TOMODACHI-STEM Women’s Leadership and Research Program ※学部生限定、女子限定
 派遣先: ライス大学 (アメリカ)

また、大学内の交換留学・短期留学に応募して自分で研究室にコンタクトを取るという方法や自分で交渉してラボテクニシャン・RAとして雇ってもらって渡航する方法もあります。ある程度長期のインターン (9ヶ月〜1年ほど) についてはこちらでも紹介されています。

国内の大学院留学用の奨学金は締め切りが夏までのものが多く、また応募時に推薦状が必要なケースがあります(例:船井情報科学財団奨学金)。先にそのような奨学金に応募しておけば、前もって推薦状を準備してもらうことができるため、もし途中で推薦状トラブルがあったとしても出願までにリカバリーが効く可能性が高くなるためおすすめです。

奨学金以外にも、推薦状の必要なプログラムに応募すれば早めに推薦状をもらえるというメリットもあります。このようなプログラムは長期のことが多いので、推薦状の依頼先を増やすことにも繋げられます。例えば以下の様なプログラムがあります。
OISTサマーインターン
理研脳科学塾

 推薦状には、学生が推薦者との関わりの中で成し遂げたことをなるべく具体的に書くのが効果的ですが、もしかしたら推薦者はそこまで具体的にあなたがしたことを覚えていないかもしれません。そのような時に備えて、自分がその推薦者の元で何を成し遂げたかを具体的に記録しておくのがおすすめです。例えば、生物系の研究室でPCRによる性別判定を担当していたなら、所属中に何個体を性別判定し、その結果何%の正確性であったかなど具体的な数字の部分を書いておくと良いです。また、先生によっては成績証明書を送ることによってGPAなどを見ながら推せるところを探してくださることもあります。推薦状をお願いするまでにこれらの推薦内容の根拠となる書類を用意しておくと良いかもしれません。

前述のように推薦状を書くことは労力のかかるものであるため、出願校が多いなど余分に時間をかけてしまう場合はその出願数が必要な理由を伝えたり、推薦者には出願結果が出たら必ず報告してお礼を伝えたりといったことを心がけましょう。一方でメールや対面、お礼の品を用意するかの対応はそれぞれの人に合わせるのがよいです。例えばこの方の様に、お礼は要らないということを明記していらっしゃる場合もあります。

推薦状を書くのを断られた場合

上記の点に気を付けても、いざ頼んでみたら推薦状を書くのを断られてしまったというケースもあります。特に指導教員から推薦状を貰えない場合、その学生に何らかの問題があるとAdmission Committee側から捉えられてしまう可能性があり、そうなると出願の上で致命的です。このような時にどのように対処したのかを筆者が聞き、それぞれの個人の経験談を元にしたアドバイスをまとめました。

【経験談】日本の大学の修士課程に在籍時、指導教員に推薦状を頼んだところ「なぜ今の研究室で博士に行くのではダメなのか」「海外留学はポスドクですればいいのではないか」と言われ、話し合いになりませんでした。今の研究室に不満があるのが理由ではないこと、海外の大学院に学部時代から興味を持っていたことを伝えて根気強くお願いしました。
当時は不満でしたが、大学教員にとっては博士課程の学生というのは自身の成果に直結する研究室の主戦力のため失いたくないですし、自分の研究室が踏み台にされるような形も面白くないと思いますし、今は納得しています。指導教員の立場も想像し、リスペクトを持ってお願いするのはとても大事だと思います。
なお、徐々に推薦状を書いてくれる方向に話し合いは進んでいたものの、最終的に決め手になったのは「当時の所属の博士課程入試に出願しなかった」ことでした。この出願期限の翌日から指導教員は海外大学院に出願することに全く反対しなくなったので、やはり私の場合の断られた理由は「その研究室で博士課程に進んでほしかった」のが全てだったようです。このように、断られた場合、その理由がどこにあるのかを確認するのは非常に大事だと思います。(ただし、私のとった方法は仮に海外大学院の出願が全て失敗していたら無職になって非常に困ったと思うので、あまりおすすめはしません)

【経験談】指導教員に推薦状を書いてもらうことは諦め、別の先生に推薦状を書いていただきました。これに加えて、指導教員に推薦状を貰えない理由を別の書類で説明しました。自分の場合はSoPに、「指導教員が学生が研究室外に流出することを認めてくれなかったため推薦状を書いてくれなかった」と具体的に理由を書きましたが、今思えば別の先生に書いて貰った推薦状にこのような理由を書いてもらった方が説得力が増して効果的だったかもしれないです。

【経験談】指導教員から推薦状を貰えない状態で今年出願することは現実的でないと諦め、国内で別の研究室を探し、こちらで2年間の修士を終えてから出願することにしました。この2年間の修士を行った研究室の指導教員に推薦状を貰い、無事合格することができました。推薦状以外に実績や経験も積めたので、国内の修士に進んだことは結果的に良かったと思います。

社会人の推薦状依頼

学部によっては就業経験があるとプラスになることもあり、例えば推薦状を書いていただく際に3通中1通は自分の働いている職場の上司などが良いとされる場合があります。時には必須事項として業界関係者からの推薦状を指定されることもあります。そのような社会人を経て出願する場合に際し、念頭に置くべき内容を以下にまとめました。出願先学部や業界によって全く実情が違う可能性があるので、あくまでも一例としてご覧ください。

例えばアカデミアから2通、インダストリーから1通のような指定がある場合は、応募する学部に繋がる業務内容を知ってくださっている方をインダストリーから選ぶことをお勧めします。働いた経験がどのように学部に生きるかということも評価の対象となるため、その点も意識して探せると良いでしょう。

業界の方に推薦状をお願いする場合、多くの場合業界の方々は推薦状というものに慣れていないということに留意する必要があります。そもそも英語で書くということを知らずに引き受けてしまうパターンもあるかもしれないので、推薦状を書いていただく上で何が必要なのかは過不足なく伝えるようにしましょう。また、業界の方にお願いする場合、より早め早めに推薦状をお願いすることが大切です。例えば上記で最低でも一ヶ月前までに依頼すると記載しましたが、社会人留学として暫く卒業してから時間が経ってしまっている場合、及び業界からの推薦状が必要など、直近で卒業した方々と少し違うルートを辿る方は猶更時間に余裕を持って用意しましょう。簡単なテンプレートや例などをお渡ししながら相談することも良いでしょう。

社会人にとって社内での推薦状の準備をすることは、退職意向を伝えることになるため、合格するかも分からない状態でそれを伝えることが人によってはかなり心苦しい・難しいパターンが多いです。例えば仕事周りの方にお願いすることで退職の意向を違う方向から知られてしまうなど、意図しない問題が出てこないように、どのタイミングで伝えるのがベストなのかをしっかりと計画して動くことがお勧めです。

【経験談】
私(日系企業)の場合は、以下の4点に気を付けました。
①大学院受験で業務に支障が出ないようにコントロールして準備を終える
②私事なので業務時間外でお話しする(できる限り簡潔に伝える)
③然るべき順番でお願いする
私の場合は社長に書いてもらったのですが、まず直属の上司に「院試を受けたいと思っていて、決まった際にはいつごろに退職になる」ということを話し、了承をいただいたうえで人事部長へお伝え、そして社長の方へご報告、という手順でご理解を頂いた上で推薦状をお願いするという方法を取りました。もちろん上司や人事部長には社長に推薦状をお願いする旨を伝えて、然るべき人の耳に第三者から情報が入るという可能性をなるべく避けるように努めました。また、早め早めの連絡を心がけ、退職の半年前の10月までにはこれらの意向を伝えました。
④ あとは、辞めることになるかもわからないので、これまで以上に全力でお仕事を頑張る
もうこれに尽きると思います。「何かあっても(院試に落ちたとしても)また来年頑張ればいいから!」と言っていただけたときはここまで頑張ってきてよかったと思いました。もちろん落ちるつもりではいませんでしたが、少なくともそう言ってもらえる環境づくりやその分しっかり働くことで何があっても安全で、周りも認めてくれる環境を作っておくことは自分のメンタル的にもとても大事だと思います。

最後に

推薦状に関してスタンダードはなく、タブー行為を行っても気にしない推薦者もいれば、ここに書いたこと全てを守っても推薦状を書いてもらえない場合もあります。あくまで自分と推薦者との関係性からその時々に最適な方法を選んでいく必要がありますが、ここで書かれたことが少しでもお願いする時の助けになり、推薦状関連のトラブルを避けることができることを願います。

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