1. F-1ビザとNon-Residence、Residence扱い
アメリカで学生ビザ(F-1またはJ-1)で滞在する場合、税法上の居住ステータスは「Substantial Presence Test(実質的滞在テスト)」によって決まります。ただし、最初の5年間とそのあとでステータスが変わるのに注意です。F-1やJ-1の学生は最初の5年間は「Exempt Individual(免除個人)」として、Nonresident Alien(非居住者)として扱われます。
(1) 最初の5年間(Nonresident Alien 扱い)
- 「Exempt Individual(免除個人、後述)」としてカウントされ、Substantial Presence Test の日数計算から除外される。
- 税務上のNonresident Alien(非居住者)と見なされ、Form 1040-NR(または1040-NR-EZ)を使用して確定申告を行う。
- 社会保障税(Social Security Tax)やメディケア税(Medicare Tax)が免除される。
- 日本からの収入がある場合は下記「移住年に日本にて収入がある場合」を参照
最初の5年間の計算方法(「Exempt Individual」としてのカウント)について
アメリカの税法では、F-1ビザの学生は最初の5年間は「Exempt Individual(免除個人)」として扱われ、この間はSubstantial Presence Test(実質的滞在テスト)の計算から除外されます。
- 1日でもアメリカにいれば、その年はExempt Individualの1年分としてカウントされる。
- 5年間が終了すると、その翌年からSubstantial Presence Testが適用される。
- 5年間が連続でなくても累計で5年に達した時点でExempt Individualの適用が終了する。(以前にF-1ビザでアメリカに滞在していた場合、その年数も合算される可能性がある。)
- J-1ビザ(研究者など)で過去に滞在歴がある場合、一定期間を空けないとExempt Individualの適用がリセットされない。
(2) 5年経過後(Resident Alien 扱いの可能性)
- 5年間の免除期間が終了すると*Substantial Presence Test(183日ルール)の適用対象になる。
- 過去3年間の合計が183日を超えるとResident Alien(居住者)として課税される。
- 計算方法:
- 今年の滞在日数の100%
- 昨年の滞在日数の1/3
- 一昨年の滞在日数の1/6
- これが183日を超える場合、Resident Alien(居住者)として税金が発生。
- Resident Alien(居住者)になると、アメリカ市民と同じ税制が適用される
- 全世界所得に課税される(W-2以外に母国の収入も対象になる可能性)
- 確定申告はForm 1040(通常のアメリカ居住者用)を使用する
- 社会保障税・メディケア税の支払いが必要になる
- FBARの報告義務(日本など国外にある資産の報告)が出るので注意
- Sprintaxが使えなくなり、違うソフトウェアを使用する必要が出る(Turbotaxなどがレジデント扱い対象です)
【例外】
- 5年を超えた後も、学生としてのステータスやビザの更新状況によっては、引き続き「Nonresident Alien」として扱われるケースがある(ただし、通常は適用されない)。
- 税務条約(Tax Treaty)によって、国によっては特定の所得に対する税金が免除される可能性がある。
2. 大学などのサービスも活用しよう
大学でTaxの相談ができる部署があったり、Tax用のソフトやサービスを大学で一括契約してくれている場合もあるので、これはまず確認しましょう。他にも、SprintaxがWebinarを開催していたり、無料のカウンセリングをしてくれたりもします。VITA(Volunteer Income Tax Assistance:無料税務支援プログラム)
VITA(Volunteer Income Tax Assistance:無料税務支援プログラム)
は、アメリカ全土で実施されているIRS(米国国税庁)公認のサービスで、全米のさまざまな場所で提供されています。このプログラムは、以下のような条件に該当する人々を対象に、無料で税務申告のサポートをう、となってるのですが、それなりに大きな大学だとこの時期に大学のアカウント系の学部の学生さんも含めて学内でボランティアとして対応してくれることが多いです。(Penn StateではIRS公認で無料で対応してくれます)
- 低~中所得者
- 障がいのある方
- 高齢者
- 英語に不安がある方
お近くのVITAを提供している施設を探せるサイトもありますし、どのようにやれば良いか分からない場合は是非このサービスを探してみるのも良いかも知れません。
似たサービスにThe NonResident Tax Help Groupがあり、学校やnonprofitのメールアドレスがあれば無料でメールでの質問やZoomでの相談が可能です。パートナーシップ関係にある大学や組織でボランティアトレーニングを行いin-personのtax clinicsを開催している団体です。
3. 日本での収入はどのような扱いになる?
移住年に日本にて収入がある場合
F-1ビザ保持者(5年未満のNon-resident扱い)で日米両方で収入がある場合の税務申告は、米国源泉所得のみが課税対象(アルバイト・インターン・OPT収入など)となり、その期間であれば日本での収入は米国申告不要(非居住者扱いのため)となります。ただし、必要があればFBARと日本での確定申告が必要となります。
必要書類:
- Form 1040NR(連邦税申告用)
- Form 8843(在留状況報告書/無収入でも提出必須)
- W-2/1099(米国収入の証明)
- 日本の源泉徴収票(参考資料として保持)
租税条約の活用:(年度によって詳細が変更になることはありうるため、都度要確認)
- 学業関連の収入(奨学金・研究助成金など)は日米租税条約Article 21により$5,000まで非課税
- OPT収入の場合、Form 8233を提出して条約適用を申請
- FBAR報告:日本口座残高が$10,000超の場合、FinCEN Form 114提出必須
- 資産報告:外国金融資産が$200,000超でForm 8938提出
日本の確定申告について
(注: 3年前に筆者が日本で社会人だった時の情報なので、やや古い可能性があります)
会社の年末調整は、通常その年の1月1日から12月31日までに支払われた給与が年末調整の対象となります。
- 12月31日までに支払われる場合:その年の年末調整に含まれる
- 翌年1月に支払われる場合:翌年の年末調整の対象となる
多くの企業では11月頃に年末調整の書類を回収し、12月の給与で調整を行いますので、12月31日までに支払われる給与であれば、その年の年末調整に含まれます。ただし、実務上は11月頃までに勤務している従業員が対象となることが多いです。
また、基本的に年末調整をしてもらわない場合、ご自身で翌年に確定申告をする必要があります。オンラインで基本的なプロセスは出来るのですが、問題は現在日本のe-taxシステムはマイナンバーが所持できないと使用できなかったので、筆者が渡米した当時は最終的には郵送が直接もっていかないといけない、ということで郵送か、両親などに委任状をつくってもっていくという形になりました。ただ現行海外でもマイナンバーが使えるということで、確定申告の仕方も変わってるかもしれないです。基本的には非居住者になる前にもし対応が可能であれば「準確定申告」、納税者がいない場合の対応を行うことがベターとされます。
日本における住民税・市民税などの取り扱い
転出届を出した時に説明を受けて未納額を出国前に清算した記憶があります。税金が確定する時期(1月から5月、6月から12月)によって、取り扱いが違う可能性があります(例えば年次後半で出国する場合、年次前半の分の推定税金を先に収めるように言われる可能性がある)。細かい部分は各都道府県の市役所に問い合わせるのが確実だと思います。
4. 恐怖!留学生の失敗談集
失敗談1:SSNもITINも持ってない状態でのtax return→最終的に3倍の額を支払い
Social Security NumberまたはIndividual Taxpayer Identification Numberのどちらかがtax refundには必須。基本的に学校に賃金ありで雇用されている場合は手続きをすれば1カ月くらいでSSNがもらえる。これがある場合はsprintaxなどのウェブサイトから(比較的)簡単に手続きと支払いができるが、自分は全額奨学金で一年目を賄っており学校から正式には雇用されていなかった(employment letterがもらえなかった)ためにSSNが取れず非常に面倒に
面倒① ITINの申請には最低7週間かかる
気づいた時には、tax season前にITINをとるにはもう間に合わなくなっていた
面倒② 税理士は助けにならない場合がある
tax refundを行う前にH&R Blockに行って相談しましたが、まずITINの申請をしながらrefundするのにはH&R Blockの資格のある人の手助けが必要だといわれ、それをできる人が私の地域に一人しかいなかったのでその人を雇ったら、「あなたのようなケースは初めてだわ」と言いながら不慣れな感じで色々とやってくれたのですが結局前述のように3倍払うことになり、そのメールを送ったら返信が来なくなりました。
面倒③ 学費(など非課税のもの)をどれくらい払うかをきちんと報告する必要がある
学費など一部の支出は非課税の場合があり、このような支出の額の変更があった場合、収入をもらっている先に申請しないと非常に面倒になる場合があります(後述)。私の場合、最初は(正式に雇用されていないからという理由で)学費($40,000)の全額支払いを求められ、ボスや学生組合に助けてもらいながらごねて全額免除にしてもらったので、当初申請していた学費の支払額が大きく変わりましたが、これを奨学金側に連絡する必要があることを知らず報告していませんでした。
面倒④ 奨学金に14%の支払いが必要という謎ルール
全てのtax refundの支払いを終わらせた後に前述のような学費の変更がありそれを自分で計算しなおして多めにIRSに支払いした(支払い①)ということを、いただいてる奨学金に報告したところ、「奨学金側は支給額のうち、課税分の14%を差し引いてIRSに送るというルールがあるので自分で多めに払うということは認められない。学費を払わず浮いた分のうち14%を改めて奨学金側に送ってくれ」というメールがあり、それを送るまで書類を発行しないと言われました。既に支払いは済ませてしまっていたので奨学金にも送ることになり約2倍の税をこの時点で支払うことになりました(支払い②)。
面倒⑤ ITIN refundをすると自分との紐づけがされず追加請求が来る場合がある
最初に払った額(支払い①)についても奨学金に払った額(支払い②)についても、なぜか私の支払いとして処理されておらず、「今年のtax refundをあなたは支払っていないので早急に払うように」という怖い書類がペナルティーの請求と一緒に届き、払いました(支払い③)。
面倒⑥ 審査に異常に時間がかかる
当然納得がいかないので、(支払い②)を行った後に払いすぎた分を払い戻す手続き(amendment)を前述の税理士を再度雇って行ったのですが、約1年たった時点でも帰ってきていません。IRSに電話をしたところ、私のようなケースは国際課を通す必要があるので時間がかかっているとのことでした。
失敗談2:FBAR (Foreign Bank and Financial Accounts Report)を知らずに追加申告手続き
そもそもFBARの存在自体を知らず、6年分過去へ遡ってあとから追加申告しました。その際オンライン上で過去の申請も可能だったので手続き自体は問題ありませんでした。結果的に罰金などの制裁を受けずにすみましたが、受理されるまでヒヤヒヤした記憶が残ってます。
※ FBARとは?
アメリカ居住者は確定申告する年(1月1日~12月31日)の期間内に、米国外で所持している金融資産の合計が一瞬でも(1セントでも)10,000ドルを超えた場合、FBARを提出する義務が生じます。FBARの申請はTurboTaxなどの確定申告で使うサービスでもうまく対応していないので、別途に手続きする必要があります。IRSから申告を故意にしていなかったと判断されると高額の罰金あるいは海外に保有している口座残高から50%の支払い義務が出るなど、かなり理不尽な制度です。通常FBARはオンラインで書類作成・提出が可能です。
申告が必要な金融資産は銀行残高・証券残高・投資信託・保険証券などが含まれます。(日本の口座へ振り込まれる給付型奨学金なども含まれる可能性も)
失敗談3:未払いの税金が$1000を超えてしまった
学部をアメリカで4年間終えた後OPTを1年やり、博士課程を始めました。2018年9月にアメリカに来たので、2022年まではnon resident扱い、小さい会社で働いていたのでFICA taxを支払う必要がないというのを会社がわかっていなかったので、途中から支払うのをやめてもらいました。払った分は会社にお願いしてrefundしてもらうことができます(数か月は最低でもかかりますが)。
2023年はresident alien (正確にはdual statusだったかもですが割り切ってresident alienでfileしました)。なんと未払いの税金額が$1000以上だったので、penaltyがありました。未払いの金額が$1000以下であればpenaltyのfine はありません。故意に未払いだったわけではありませんが、visaのstatusがこうしたことに影響されるかもと思うとかなりストレスなので、未払い税金額がfiling seasonの時点で$1000までかさばらないよう注意が必要です。以下、そこまでかさばってしまった原因を述べます。
1)FICA tax未払い
2023年も働いていて、resident alienになったのを忘れていたのでFICA taxをwithheldしてもらっていなかったことをfiling seasonになるまで気づきませんでした。
2)self-employment income
アート系でself-employment incomeがあり、多くのアーティストはquaterly estimated taxというのにしたがってincomeがある都度、自分で税金を納めることが可能です。私はその存在を知らず、incomeをもらった時点で何も税を納めませんでした。
3) PhD Fellowship
多くのPhD生はRA, TAとして働くので、大学にお願いしてstipendが出される時点でtax witholdingをお願いすることができます。しかしながら、non-service fellowshipというのを通してstipendをもらっている場合、大学側はtax witholdingをしてくれません。なので、quaterly estimated taxを自分で納めなければ、未払いの税金はここでも発生します。
resident alienになると、standard deductionが適用できるので、多くのPhD 1年生(resident alien) は、quaterly estimated tax を支払っていなくても、そういったdeductionのおかげでtaxable incomeがかなり減るので、未払い税金額が$1000以上になることはあまりないかと思います。私はindustryのincomeもあり、いろいろ重なり、ということで個人的にはかなりショックでした。
IRSは確か3年後まで、tax returnについて何か不正があった場合問い詰めることができるので、visa statusを保つためにも、正しくfile する必要があります。
失敗談4:Non-resident扱いの期間を勘違い
私は英語学校1年+そのまま修士2年の合計3年、その後6年日本に帰って、2022年に博士課程スタートという形だったので、あと2年はノンレジデント扱いだと思っていたら、2年目にはもうレジデント扱いだと言われtaxリターンやり直しになりました。(Sprintaxのシステムでも弾かれず、提出後しばらく経ってからの返却)
というのも、調べたところ1日でもアメリカに居た時点で1年カウントスタート(衝撃)。なので、すでに実質3年ピッタリの前回の留学が税法上では4年既に居たこととなり、2022年度がノンレジデント扱いラスト、2023年にはもうレジデント扱いとなりました…因みに英語学校時代は勿論No収入ですし、修士時代もそんな稼いでないのでtaxリターンの恩恵などほぼ受けず、という感じだったので、まじか、という気持ちになりました(笑)