1. 自己紹介
タイトルだけ見ると、すごく実績があり、めちゃくちゃできる人のように見えるかもしれません。しかし、学部4年になったばかりのころは研究・留学経験ともに0でした。また、進学校出身でもなく、大学も浪人して入っており、決して「できる学生」だったわけではありません。
「海外大学院受験」、「アメリカ大学院留学」と検索すると、東大・京大をはじめとした旧帝大出身者や、帰国子女など、経歴の凄い方々の体験談が多く出てきます。そんな中で、自分の例も一つのケースと知っていただき、海外大学院に興味のある方が、受験に一歩踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
はじめまして。2025年7月からPurdue UniversityのCollege of Engineering、School of Materials Engineeringに進学したPh.D. 1年の安東と申します。2025年の3月に東京農工大学で学士号(Biomedical Engineering)を取得し、学部から直接Ph.D.課程へ進学しました。決して多数派のルートではなく、周りの先生方や留学業者からは「合格は厳しい」「やめておいた方がいい」などと言われることも少なくありませんでした。
本記事が、海外大学院進学を考えている方、特に昨年の自分と同じように、不安や迷いの中で進路に悩んでいる方にとって、少しでもお手伝いができる存在になれば幸いです。
2. 大学院留学を志した理由・きっかけ
理由は主に4つあります。
2.1. 最先端の研究・技術環境に身を置きたかった
私は実験で得られる材料データと機械学習を組み合わせた研究を行っており、その分野はアメリカの企業や大学が先行しています。大学院という研究環境に身を置くことで、単に論文を書くためだけでなく、産業応用を強く意識した研究の進め方や、技術を社会実装に繋げる思考や方法を学びたいと考えました。
また、MRS(Materials Research Society)やTMS(The Minerals, Metals & Materials Society)といった専門分野の主要学会がアメリカで定期的に開催されており、研究者だけでなく、企業の方々とも直接議論できる環境は、将来のキャリア形成という観点からも非常に価値が高いと感じました。
2.2. 研究力と同時に実践的な英語力を示すものが欲しかった
元々旅行が好きで、日本に限らず、様々な国で働く選択肢を持てたらいいな、という漠然とした気持ちがありました。TOEICやTOEFL、IELTSなどでは証明できるレベルが限られているので、英語圏で学位を取得することで、研究力と同時に実践的な英語力を客観的に示せると思いました。
日本企業に就職して海外支社で働くことも考えましたが、海外ポストは数が限られ、いつ行けるのかという不確実性を孕みます。また年齢が上がるにつれて、結婚、親の定年退職といったライフイベントで身動きが取りづらくなったり、体力や挑戦する気力が無くなったりしてしまうような気がしたので、出来る限り早く行ける大学院進学を選びました。
2.3. 経済面
海外、特にアメリカのPh.D. programは、多くの大学で授業料全額免除に加えて給与がもらえます。また保険料の一部を大学側が負担してくれます(自分の場合は8割負担してもらっています)。そのため、親に金銭的な負担をかけたり、貯金を切り崩したりすることなく、進学できる点が魅力的でした。
最近Fall semesterが終わりましたが、いただいた給与で十分に生活することができました。
2.4. マジョリティであることを前提に行動、評価する環境から出てみたかった
両親ともに日本人で、生まれてからずっと日本で過ごしていたため、意識せずともマジョリティ側に属していました。このマジョリティの立場から一度離れ、言語や文化、バックグラウンドの異なる環境で生活、研究することで、これまで当たり前だと思っていた前提や価値観、自分自身を別の視点から捉えなおしたいと考えました。マイノリティとしての立場に身を置くことで初めて得られる視点や経験は、自分の環境が当たり前だと思わず、異なる立場に属する人の考えを理解する上でも重要だと感じます。
3. 出願前の状況
出願時の私の状況は以下の通りでした。
- 学部:GPA 3.3
- 英語スコア:IELTS 6.5
- 出版論文:なし
- 出版物:Proceeding 1つ、学術誌の書評1つ
- 学会発表:3回(国内学会2つ、日本開催の国際会議1つ)
- 奨学金:なし
IELTSについては6.5と出願スコアギリギリで、また学部生かつ出版論文も0だったので、周りの人に比べると見劣りしたと思います。
4. 出願結果
最終的にアメリカの大学院計6校に出願し、Purdue Universityへ進学しました。
| 大学名 | 事前コンタクト | 面接 | 結果 |
|---|---|---|---|
| Purdue University | 教員、ポスドク、大学院生とZoom | なし | 合格 |
| University of Texas at Austin | 教員とZoom | なし | 不合格(奨学金を取れたら連絡するように言われた) |
| Georgia Institute of Technology | 教員とZoom | なし | 不合格(教員には取りたいと言われたが、IELTSの点数不足で学部から審査できないと言われた) |
| University of Connecticut (ME) | 教員とZoom | あり | 合格 |
| University of Connecticut (MSE) | 教員とZoom | なし | 不合格(奨学金を取れたら連絡するように言われた) |
| Drexel University | 教員とZoom | なし | 面接辞退 |
5. 合格に繋がった取り組み
私が合格できた理由は、学会発表経験があったこと、研究分野が近かった等あると思いますが、一番の理由は出願先の教員とのコネを作ったからだと思います。
5.1. 教員にコンタクトを取る
コネクションを作るために、自分の関連分野や興味のある分野の教員の方々約50〜60人ほどにメールを送りました。その内、返信が返ってきた教員は15人程度でした。その後、返信が返ってきた教授の方々には、来年Ph.D.学生を取る予定かや研究内容(来年度も枠があるもの)を質問したり、オンラインミーティングをお願いしたりしました。
5.2. オンラインミーティングの位置づけ
約10名の教員とオンラインミーティングを行いました。ミーティングでは30分〜1時間ほど時間を取っていただき、自分の研究内容の説明や質問を行いました。何名かの教員の方とは、複数回ミーティングを行い、その際には、Ph.D.課程で行う研究内容やキャリアについても踏み込んだ議論をしました。
今振り返ると、これらのミーティングは単なる顔合わせではなく、研究理解力、思考力、英語力、相性まで含めて評価される、実質的な面接試験だったと感じています。英語での議論に不安があったため、事前に話す内容を整理し、想定質問への回答を準備した上でミーティングに臨むようにしていました。また、毎回スーツとネクタイを着用し、本番の面接と同じ姿勢で臨むことを徹底していました。
5.3. 進め方の反省とアドバイス
時差のため、ミーティング時間は深夜1時〜朝4時頃になることが多く、生活リズムはかなり不規則になりました。また卒業研究もあったため、短期間で出願準備と研究を並行する必要があり、スケジュール管理が難しいと感じていました。
私の場合、出願準備や研究を始めた時期が遅く、結果として短期集中型の進め方になってしまいました。これから出願を考えている方は、研究実績づくりや教員とのコンタクトを、可能な限り早い段階から始めることを強く勧めます。
6. 出願書類作成に関して(SoP、推薦状、奨学金)
6.1. 奨学金
奨学金についてはいくつか出願しましたが、採択には至りませんでした。
6.2. SoP(Statement of Purpose)
SoPは、日本でいう志望動機書のことです。なぜその大学院・プログラムを志望するのか、これまでどのような経験を積み、今後どのような研究・キャリアを積みたいかを一貫したストーリーとしてまとめる必要がありました。単なる実績の羅列ではなく、「なぜその分野に興味を持ったのか」「なぜそれを大学院で行いたいのか」という動機の流れを明確にすることが重要だと感じました。普段あまり深く言語化してこなかった部分も多く、自分自身と向き合いながら整理する作業は想像以上に難しかったです。
共通する部分についてはSoPの使い回しが可能ですが、大学やプログラムごとにフォーマットや求められる内容が異なる場合があるので、執筆前に出願する専攻のホームページを確認することをお勧めします。
執筆にあたっては、XPLANEのSoP執筆支援プログラムに参加し、メンター・サブメンターの方と何度も壁打ちを行いました。その中で、「具体的な数値や成果を入れる」、また伝わりにくい点、改善方法を指摘してくださるなど多くの実践的なアドバイスをいただき、SoPの完成度を大きく高めることができました。
また、XPLANEのSlackにも参加しました。実際に海外大学院に進学した先輩方に気軽に質問できる環境は、情報面で大きな支えになりました。
6.3. 推薦状
推薦状は指導教員、共同研究先2人の教員の方々にお願いしました。推薦者は、指導教員と相談して決めました。また、推薦者の方々には余裕を持ってお願いすることをお勧めします。私の場合、指導教員には出願の約1年前、その他の先生方には遅くとも3ヶ月前までにはお願いしました。
7. 海外大学院出願で苦労した点・エピソード
海外大学院受験は、日本の大学院受験とは異なり、大学院や研究室の資金状況、推薦状、教員との繋がり、研究実績など、点数化できないもので合否が大きく左右されるため、合格するかどうかの見通しが立てにくく、漠然とした不安を感じやすいと思います。
私自身も、出願直前の10月頃から「合格できるのだろうか」という不安を強く感じていました。加えて、卒業研究と出願書類作成が同時期に重なり、時間的・精神的な余裕を保つことが難しい状況でした。さらに、高校・大学受験での失敗経験もあり「また落ちるのではないか」という思考が何度も頭をよぎりました。吐き気を感じるほど、精神的に追い詰められていた時期もあります。
その一方で、不安に流されるよりも、自分がコントロールできる行動に集中する方が合理的だと考え、毎日のタスク管理や出願準備の進捗確認を徹底することで、精神状態の安定を保つようにしていました。とはいえ、理想通りにいくことばかりではなく、不安と冷静さを1日の中で何度も行き来しながら、精神的にかなり不安定な時期を過ごしていたのが正直なところです。また、1人で考え込みすぎてしまわないよう、誰かと話そうと思い、ほぼ毎日研究室に行くようにしていました。
また、不安が特に強かった時期には、毎日「○○大学院○○学科のPh.D. programに合格する」と口に出してました。根拠は特にありませんでしたが、そうでもしないと気持ちが保てなかった、というのが本音です。
8. 最後に
自分の大学院留学は、家族や推薦状を書いてくださった先生方、そして学部時代の研究室のメンバーなど、様々な人に支えられて実現したものだと感じています。特に指導教員には、志望校選びやアメリカでの生活など様々な面で相談に乗っていただきました。また、研究室の方々には、出願直前の忙しい時期に後輩のメンターを代わっていただくなど、私が出願書類に専念できるようにしてくれました。日々の何気ない雑談や飲み会も、良い気分転換になっていました。本当にありがとうございました。
先述した通り、出願前は、漠然とした不安に押しつぶれそうな日々が続いており、1人では最後までやり切ることはできなかったと思います。今後は、いただいたご恩を忘れず、何かしらの形で返せるよう、今できることに取り組んでいきます。

