奨学金
奨学金
1. 奨学金とは?
日本の大学で「奨学金」というと、卒業後に返済の必要のある「貸与型奨学金」(loan) を指すことが多いですが、ここでは海外博士課程進学希望者向けの返済の必要のない「給付型奨学金(以下、「奨学金」)」(scholarship, fellowship) について記します。
海外大学院の博士課程では、自費ではなく奨学金や教授(研究費)からの給与によりお金をもらって生活する場合がほとんどです。奨学金には日本の財団が支給するものと海外大学や財団が支給するものがありますが、ここでは日本に所在する政府・財団などが支給する奨学金について言及します。
なお、ヨーロッパを中心に、奨学金ではなく大学との雇用契約(給料制)で博士課程に在籍する制度の国もあります。
ひろみさんはベルギーのKU Leuvenの博士課程に、日本からの奨学金なしで進学しました。給料制PhDという選択肢の実態がよく分かる受験記です。
また、大学院自体が提供する奨学金・フェローシップも存在します。
根岸さんはImperial College Londonの博士課程に進学した経験から、大学院と大学院提供奨学金の選考過程がどう連動しているかを整理しています。イギリスを検討している方は特に参考になります。
2. 奨学金の種類
海外大学院進学のための日本からの奨学金は少なくとも30種類あり、毎年約250名の奨学生が選抜されています(件数・採用数は年度により変動するため要確認)。奨学金の一覧・応募資格や特色などは以下のデータベースで調べてみてください。
奨学金によっては応募に大学の推薦が必要なものもあります。学内選考の締め切りが他の奨学金よりも早い場合があるのでよく確認しましょう。
奨学金ごとで応募条件や支援内容等は様々ですが、注意して比較する項目として金額や給付年数はもちろんのこと、奨学金合格通知の時期があげられます。大学院出願締め切り(12月のことが多い)の前に採否の通知が届かない奨学金は、出願の際に「奨学金あり」と書けないため、受験の時点では有利に働きません。
また、奨学金選びで意外に重要なのが、奨学生のカラーや奨学生同士の交流の活発さです。世界中に散らばった奨学生と定期的に交流できることで、異分野や他大学の人と触れ合う機会が自然と増えていきます。
3. 奨学金を持つことのメリット
奨学金を得ることのメリットは受験時だけでなく大学院在学時にもあります。一方で、メリットに見えるものも別の視点から見るとデメリットとなる場合もあります。
出願時
出願時に奨学金を持っていることが良い方向に働く理由としては、
- 自分でお金を持ってくるため、受け入れる大学・教授側の金銭的負担がなくなる/少なくなる(その浮いた分で、他の学生を取ったり器具の購入が可能となる)
- 奨学生として選抜されているという事実が、優秀さを示す指標となる
という点が挙げられます。1.に関しては、大学院学生一人を雇うには授業料も含めて年間数百万〜1000万円規模の予算が必要と言われています(大学・州・年度により大きく異なります)。その金銭的負担を奨学金で賄える学生は合格しやすくなる面は少なからずあるようです。ただし、資金が潤沢にある大学では、奨学金の有無が審査に関係ないこともあるようです。
なお、米国大学院在学中の日本人学生の41.5%は日本からの奨学金なしというアンケート結果も出ています。奨学金がなくても道はあります。
在学時
在学時にも奨学金を持っていることでのメリットは多くあります。教授は大学院生に対し年間数百万円規模の給与を支払う必要があり(都市・大学によります)、RA (Research Assistant) の場合は基本的に研究費から支払われます。研究費を獲得するためには研究成果を出す必要があり、その成果を出すのは研究室の労働力となる大学院生やポスドクです。つまり、アメリカの大学院の研究室は小さな会社のようなものといっても過言ではありません。奨学金はその仕組みからはずれる一つの方法でもあります。具体的なメリットは、
① 希望の研究室に入りやすくなる
受験時と同等の理由で、先生がその学生をグループに入れるかどうかの判断にお金の要因がなくなります。財政的に苦しいグループほど奨学金を持っていることが評価される傾向にあります。
② 研究室に財政難があった場合に、解雇される確率が小さくなる
研究室が財政難に直面したときに実際に起こることで、自分でお金を持ってきていることで避けることが可能です。
③ ファンドが出ているプロジェクトに常に従事する必要がなく、自分のしたい研究ができる
研究室に出ているファンドに研究テーマが制限されることが少なくなります。
④ ファンドを継続して得るために研究結果を出すというプレッシャーを受けづらい
決められた期間に一定の成果を出すプレッシャーを受けずに、研究に集中することができます。
⑤ 金銭的な理由のためだけにTA (Teaching Assistant) をしなくて済む
研究時間を奪われることにもつながるため、TAを望んでいない場合は避けることが可能です。
⑥ 奨学生同士のコミュニティができる
同期だけでなく、先輩や後輩といった縦の繋がりも持つことができます。
ただし、これらは別の視点から見るとデメリットにもなり得ます。
【補足】 人文・社会科学系専攻の場合は理系学部とは違い特定の研究室に所属しない場合が多く、給料の支払いは直接大学院に紐づいているケースが多いとされています。給料が学部から支払われていると、研究室・教授の意向に左右されることなく比較的自由に研究テーマを選択できます。自分の希望進学先がどのような給与体系なのか、事前にリサーチしましょう。
アイオワ大学の教育学博士課程に在籍する中原さんは、日本の奨学金だけでは授業料と生活費を賄いきれなかったため、プログラム側に相談してRA・TAの仕事を組み合わせて資金を確保した経緯を紹介しています。日本の奨学金と現地からの給料を組み合わせるという、人文社会科学系ならではの資金繰りの実際が分かる記事です。
【米国の研究資金事情(2026年7月時点)】 2025〜2026年にかけて、米国では連邦研究費の削減が報じられており、研究室・大学の財政状況が博士課程の採用に影響するケースが指摘されています。こうした状況下では、自分で資金を持ってくる奨学金の価値が相対的に高まる可能性があると考えられます(状況は流動的なため要確認)。
4. 奨学金を獲得するには?
財団側は基本的にその学生が実際に海外大学院に合格できるかどうかを見ています。つまり、奨学金の出願は海外大学院受験の模擬試験のようなものであると考えることも可能です。また、奨学金は一度に複数出願ができるため、受験時に奨学金を獲得した人のうち70%が3つ以上の財団に申請していたということがアンケート結果からわかりました。
ただし、複数応募にはトレードオフもあります。
スコさんは複数の奨学金に応募した経験を振り返り、「もっと応募する奨学金を絞って一つ一つの申請書類の完成度を上げるべきだった。指導教員に毎回推薦書を書いていただく手間を考えるとなおさら少数集中型にすべきだった」と述べています。
5. 社会人・既卒での奨学金戦略
社会人・既卒からの挑戦では、奨学金との付き合い方が現役学生とは大きく異なります。応募資格に年齢の上限を設けている奨学金があるためです。ただし、上限があるものばかりではありません。XPLANEの奨学金一覧(2026年7月時点で39件)を年齢で絞り込むと、24歳以下が対象の39件に対し、40歳以上でも応募できるものが26件あります。「もう年齢的に無理だろう」と早合点せず、まずは条件を確認してみてください。
いのうえさんは、日本の奨学金の多くに年齢制限があり既卒には不利なため応募は1件に絞り、「既卒であれば奨学金に時間を割くのは得策ではない」と割り切った戦略を紹介しています。
明田さんも、出願決意が9月と遅く社会人だったため応募できる奨学金が限られ、応募した奨学金は不採用でした。それでも「奨学金がなくても出願は可能ですし、実際に合格することができました」と、奨学金なしでの合格を実証しています。
Kitamuraさんは、年齢・業績面から採用可能性が低く推薦状の準備も間に合わないと判断し、あえて奨学金に応募しない選択をしました。限られた時間をどこに投資するかの判断例として参考になります。
6. 準備のタイミング
財団によって応募書類は異なりますが、奨学金申請には基本的に英語能力試験結果(TOEFLなど)、Statement of Purpose(SoP)、CV、推薦状が必要となります。
奨学金の申請時期は、書類の提出が8-9月、面接が10-11月という財団が一定数ある一方、春から夏にかけて締め切る財団も少なくありません。XPLANEの奨学金一覧(2026年7月時点で39件)で「採択結果が分かるのは出願時期の前」という条件に絞ると14件が該当し、これらは大学院出願(12月締切が多い)よりかなり早い時期に応募と選考が終わります。奨学金の採否が先に分かっていると出願戦略を立てやすくなるため、志望する財団の日程を早めに一覧で確認し、逆算して準備を始めることをおすすめします(財団ごとに異なるため要確認)。
実際に奨学金の選考を通過した先輩に個別に質問したい場合は、XPLANEのSlackコミュニティもご活用ください。








