志望校選び
志望校選び
1. 大学院選びは、自分とのマッチングである
海外大学院受験を決意してから出願まで、さらには合格のオファーを受け取った後でさえも頭を悩ませるのが大学院選びです。
大学ランキングも複数存在しますが、ランキングが全てではありません。海外の大学院それぞれが強い研究分野や学校のカルチャーなどの様々な点において異なる特色を持ちます。その多様な大学院の中から、自分とマッチする大学院を見つけることが大切です。
そのためには、自分を良く知り、大学院を知る必要があります。では、どのような点で大学院とのマッチングを考えるべきなのでしょうか。
(1) 自分がやりたいこととのマッチング
まず始めに、自分がなぜ海外の大学院に行きたいかを明確にしましょう。
- 今の研究を深く追求したいから
- 卒業後に海外企業へ就職したいから
- 心機一転、分野を変えて再挑戦したいから
など、それぞれの理由があると思います。その目標に向けて、海外の大学院で何を学び、何を成し遂げ、卒業後に何をしたいかをはっきりさせましょう(これはStatement of Purposeで求められることでもあります)。
(2) 自分が楽しいと思えるかのマッチング
大学院生活は、語学留学などの短期留学とは異なり長期にわたります。その生活を十分に楽しむために、(1)の「自分のやりたいことができるか」に加えて、「その道のりが楽しめるか」もマッチングを考える上で重要です。いくら研究資金や施設が充実していても、例えば非常にプレッシャーが大きな研究環境であったりなど、それを楽しめる環境にない場合は、ストレスの多い日々を過ごすことになるかもしれません。
(3) 大学(または研究室、指導教員)が自分を求めるかというマッチング
マッチングとは双方向のものです。自分がその大学と合うかに加えて、「大学(や研究室)があなたを受け入れたいか」という相手側からのマッチングの要素もあります。大学院に関しては、学部 (undergraduate) とは異なり、その大学のカルチャーとのマッチングだけでなく、あなたがその大学や研究室の中で研究成果を出せるかという能力も重視されます。
これらを考えるうえで重要なのは、自分が大学や研究室に何を求めているか、逆に大学や研究室が何を求めているかを明確に理解・認識することです。
2. マッチングを考える上でのレイヤーとファクター
大学院と自分のマッチングを考えるうえで、大学院には5つのレイヤーが存在することを認識しましょう。
1. (大学のある)地域 / 2. 大学 / 3. 学部 / 4. 研究室 / 5. 指導教員
それぞれのレイヤーの中で、考えるべきファクターが多数存在します。

ファクターの調べ方は3通りあります。
- Webで調べられるもの:大学や研究室について調べている段階で自然と入ってくる情報
- 現地の学生に聞いて調べられるもの:ネット上では調べきれない情報。留学中の先輩と話す機会があれば積極的に聞きましょう
- 直接訪問することでしかわからないもの:事前情報と訪問時で印象が強く変わりうるもの
地域
気候・都市の大きさ・物価・娯楽の多さ・人の多様さ・車の必要性・日本人の多さ・日本食の手に入りやすさ・周りの大学の数・治安
地域におけるファクターは、住みやすさに直結します。ここをどこまで重視するかは本当に人それぞれです。
- 気候:天気は意外と人の気持ちを左右させるものです。
- 物価:アメリカは国内でも物価が大きく異なります。
- 日本食の手に入りやすさ:全く手に入らないところもあれば、日本とまったく同じものが手に入るロサンゼルスのような場所も存在します。
- 周りの大学の数:ボストンのように近くに大学が密集している地域は、共同研究や装置の貸し借りが比較的風通しよく行われます。
- 治安:(大学周りは治安が良い場所が多いですが)アメリカで治安が悪い場所は日本の比ではなく、日中でも歩くのが危ないこともあります。
大学
分野の多様性・専門大学院/附属病院の有無・スタートアップへのサポート・キャンパスデザイン・メンタルケアのサービス・学科間の共同研究の盛んさ・知名度・学科変更の可否・Alumniとの交流
大学におけるファクターは、自分の学部や研究室の外でどういう活動ができるかということを主に表します。
- 附属病院の有無:バイオエンジニアリング系学科では、研究をすぐに臨床応用まで持っていけるか、実際の医師の意見を聞けるかに関わってきます。
- 学科変更の可否:大学によっては入学後に学科を変えられる場合があります。ただし学科間の異動を制度として認めていない大学も多く、その場合は改めて出願し直すことになります。留学生は資金援助や学生ビザの在籍資格が学科に紐づくため、変更のハードルはさらに上がります。「入りやすい学科から移ればよい」という前提で出願先を決めるのは危険で、必ず志望校の学生便覧や出願要項で異動の可否を確認してください。

学部
授業・先生の多様性・学生の数と交流・先生と学生との近さ・共有研究設備・共同研究の盛んさ・セミナーの多さ・Alumniの進路・Alumniとの交流
学部におけるファクターは、あなたの卒業後の進路や、研究や授業の充実度を大きく左右します。
- 人数:同期の人数が、卒業後のコネクションの大きさにも関わってきます。
- 授業:アメリカの授業は質がよいと言われますが、実際は大学により大きく異なります。
- セミナーの多さ:学外の先生方を呼んでのセミナーは、自分の大学にいながら新しいコネクションを作ったり、他大学の最新の研究を知る良い機会になります。

研究室
研究内容・研究の多様性・研究設備・ファンディング・論文の投稿頻度とレベル・学生同士の交流の仕方・ポスドクの数・学生の数・ミーティングの頻度・共同研究の盛んさ・Alumniの進路・平均卒業年数・研究室のカルチャー・財政力
研究室は、あなたがこれから数年間通い続ける場所です。どのファクターも自分が満足するレベルであるか、そうでない場合は妥協できるファクターかはっきり認識しましょう。
- 研究内容:研究室のHPでは研究内容が更新されていないことが多々あります。最新の論文を読んだり、直接教授や学生に聞くなどして調査しましょう。
- 平均卒業年数:同じ学科内でも、研究室ごとで平均卒業年数は異なります。
- 財政力:研究資金以外にも、学生の学費・生活費をRAとして払えるかに関わります。お金が少ない研究室では奨学金の獲得やTAをする必要があります。
指導教員
専門分野・指導の方法・学生への期待・知名度・忙しさ・人としてのマッチング・退官/移動までの年数・テニュアの有無
指導教員とのマッチングは、最も大事であると言っても過言ではありません。
ただし、出願の段階で指導教員が決まるとは限りません。米国の生命科学系を中心に、入学後(1年目のうち)にラボローテーションを経て指導教員を決めるプログラムも広く残っています。その場合に効いてくるのは、特定の一人と結びつけるかどうかではなく、研究関心の近い教員が学科内に複数いるかです。後述のアンケート記事でも、入学後に受け入れ先を探したという回答や、「特定の先生にこだわり過ぎず、研究関心の近い先生が多い大学を選んでおくことが重要」という助言が寄せられています。志望校のアドミッション方式がどちらなのかを、まず出願要項で確認しましょう。
- 専門分野:テニュアをとった先生は自分のもともとの専門分野とは異なる分野に挑戦することが多々あります。指導教員の専門とは異なる研究内容を選ぶと、専門的な指導が受けられない可能性もあります。
- 忙しさ:ビッグラボの場合は、教授と直接話す機会が年に2、3回しかないということもあります。
- 人としてのマッチング:数年間お世話になり、アカデミアに残る場合はそれ以降も恩師として関わっていくのが指導教員です。
- 退官・移動までの年数:アメリカでは、違う大学・研究所に引き抜かれて突然先生がいなくなるということも多々あります。
- テニュアの有無:テニュアトラック中の教授は、テニュアを取るために良くも悪くも学生に研究成果を出すことを強く求める傾向にあります。
実際に先輩たちがどのファクターを決め手にしたかは、以下のアンケート記事に生の声がまとまっています。
3. 自分が重要視するファクターを決める
多くのファクターを初めて目のあたりにした方は、どこから考えればいいかわからないかもしれません。まず、自分が「①自分がやりたいこと」と「②自分が楽しめること」のどちらをより重要視するか考えましょう。どちらか一つに決める必要はありませんが、優先順位を考えるとファクターの取捨選択が楽になります。
(1) 自分がやりたいことを重要視する場合
やりたいことや大学院に行きたい理由がはっきりしていれば、どのファクターが重要になるかは自然と決まるはずです。例えば、卒業後はアメリカのアカデミアに残りたい場合は、研究関連のファクター(研究内容、研究施設、ファンディング、共同研究の盛んさ)や卒業後の進路のファクター(Alumniの進路、Alumniとの交流)が重要となります。
(2) 自分が楽しめることを重要視する場合
自分がどういう環境であれば大学院生活を楽しめるかを深く考えてみましょう。やる気が気候に左右されやすい方や大学院の外での生活を楽しみたい方は、地域のファクターを重要視するべきです。研究室の学生に自分が馴染むことができるかを知るために、学生同士の交流の仕方を最重要のファクターとして置く場合もあります。
4. 先輩たちの志望校の絞り方
出願校数や絞り方には、はっきりと異なる戦略があります。自分に合うアプローチを探してみてください。
坂本さんは「トップスクール乱れ打ちをしない」という方針で、分野の中心人物(学会のボードメンバーや積極的に論文を書いている若手PI)に絞って志望校を選びました。最終的には比較検討の結果、出願を1校に絞り込むという思い切った判断をしています。「そうでないと留学の目的を果たせません」という言葉に、目的から逆算する選び方が表れています。
一方であんじゅさんは、5カ国の大学院を同時受験しました。国をまたいで併願する場合の進め方やスケジュール管理の実際が具体的に語られています。
せりなさんは、志望校選びを含む受験期間がわずか2週間という超短期決戦で、分野もNeuroscienceからEcologyに変更して出願しました。時間がない中で何を優先したかという意思決定の記録として参考になります。
具体的な「自分の分野の強いプログラム・研究室の見つけ方」は、以下のハンドブックで詳しく解説しています。
5. おわりに
自分が重要視するファクターが決まると、大学院を調べる際に何に着目すればよいか明確になります。Webだけでは調べきれないものについては、大学に実際訪問してみたり、教授やその研究室の学生に直接メールして聞くのも一つの方法です。また、XPLANEのSlackコミュニティで、希望する大学に在籍する日本人在学生に聞いてみることもできます。
自分がなぜ大学院留学を目指しているか、自分が希望する大学や研究室に何を求めているかをはっきりさせて、それが叶う大学院選びをしましょう。





