指導教官・研究室を選んだ決め手【XPLANE TIMES 大学院留学生アンケート#3】

本記事はXPLANE TIMES(ニュースレター)第3号(2024年4月13日発行)内の『大学院留学生アンケート』に掲載された記事です。
大学院留学生アンケート』は、XPLANE Slackに在籍している海外大学院生に対してアンケートを行ったデータをもとに、大学院生かつや留学先での生活の実情を探るコーナーです。

今回のXPLANE TIMESアンケートでは留学先研究室(指導教員)を選んだ決め手をテーマにアンケートを行い計27名(アメリカ17名、イギリス3名、ドイツ2名、フランス、オランダ、ノルウェー、インドネシア、オーストラリア各1名)の方に回答いただきました。回答してくださった方の学年は1年目、2年目、3年目以降が大体同じ割合であり、約20専攻(生物学、疫学、化学、物理学、環境学、地球科学、コンピューターサイエンス、航空宇宙、看護学、食品科学、数学など)に渡る幅広い分野の方からご回答頂きました。(*がついているものは人文社会科学系の方からもご回答があったものです)

1. 研究室(指導教員)を選んだ決め手

研究室を選んだ決め手はやはり研究内容が一番多く、指導教員との相性と指導方針がそれに続きました。さらに大学や研究室の知名度や研究室の規模と財力ラボメイトや研究室の雰囲気を重視している方も多いようです。そのほかにも、日本で在籍していた研究室との繋がり近くに似た研究をしている大学があるかや、国や街自体の生活的魅力など多様な選び方をされている方がいらっしゃいました。また選んだというよりは、指導教員を入学後に決める中で、受け入れてくれる人を探したという方もいました。

2. 研究室(指導教員)への満足度

今回のアンケートでは、研究室や指導教員に対して満足またはやや満足してる方が8割以上でした。研究室に満足している点、不満な点としてはそれぞれ以下のような理由が挙げられていました。

満足している点

指導教員について:

  • (研究についても研究以外についても)相談に乗ってくれる*
  • 様々なチャンスをくれる
  • (性格や研究などを)尊敬できる
  • 興味関心が一致している
  • コミュニケーションがとりやすい
  • 学生側が尊重されている 

研究室や大学について:

  • 予算が潤沢
  • 優秀な人が周りに多い*
  • ワークライフバランスがしっかりしている
  • ハラスメントや理不尽なことがない
  • やりたい研究ができている
  • 規模がちょうどいい
  • リソースが豊富
  • 困った時のサポートが手厚い 

不満な点

  • 学生が多すぎて/指導教員が忙しすぎてメンタリングに時間をあまり取ってもらえない
  • 指導教員が移籍してしまったため研究室を変えたが変更先との相性が悪い
  • 夜中にメールが来る
  • 給与の額が少ない / 給与と研究が紐づいておらず毎年仕事を探す必要がある

3. 日本との違い

27人中23人(85%)の方が日本と留学先で研究室(指導教員)の違いを感じたと回答していました。その違いとしては、以下の表のようなものが挙げられていました。最も多かった回答は指導教員との距離の近さでした。次いで指導スタイルの違い教員数の多さコラボレーションのしやすさが違いとして挙げられていました。また個人の意思やプライベートを尊重してくれるといった意見も多く見られました。

留学先と日本の所属先の違い

指導教員と学生の距離が近い、上下関係がなくフラット*
学生の数に対する教員の数の比率が高く、相談できる先生の数が多い*
ラボごとの垣根が低い、コラボレーションしやすい
指導スタイルが違う(教授が直接学生を指導している)
面倒見が良く、将来やキャリアまで見据えたメンタリングをしてくれる
個人の意思が尊重される、自由な発想を大事にする
働き方の自由度が高い、プライベートを大切にする
男女平等/多様性を尊重している
研究室のサイズが違う(小さいor大きい)*
経済支援が充実している
教員とWhatsAppなどのSNSでやり取りする
メールの返信が日本ほどマメではなく、直接聞きに行く必要がある*
ミーティングの頻度が違う
学部/修士の学生が就活で忙しそうにしていない
議論が活発
研究のスピードが速い
(セルの背景色が濃いほど回答数が多い意見です)

4. 研究室の変更について

入学後または合格後にラボローテーションまたは他の方法で研究室を変更された方からの体験談として、以下のような例も共有して頂きました。

ケース1. 手続き不十分で入学できず

まず受験時の面接が時間通りに行われない上に圧迫面接であり、加えて入学予定の研究室の先生が入学手続きに関するメールに中々返信してくれず、最終的には採用通知がきたにも関わらずCV(経歴書)確認が不十分でPhDプログラムに入れませんでした。結果として渡航を見送り、再度新たな研究室を探して今は無事に良いところでやれています

ケース2. 先生があまり指導熱心でなかった*

先生が指導熱心かどうかは、入学してみなければ分かりません。私の場合も入学前のやり取りは真摯に対応してくださっていて印象がとても良かったのですが、入学後に先生があまり指導熱心ではない方である事が分かったので、他の研究関心が近い先生全員にアプローチし、別の先生に指導をお願いする事にしました。そうした柔軟な対応を可能にするためには、大学選びの際に特定の先生にこだわり過ぎず、研究関心の近い先生が多い大学を選んでおく事が重要です

ケース3. 元指導教員の別の国への移籍

意図しない変更は起きないに越したことはないです。しかし予想はできないので、メインの指導教員だけでなく複数の先生としっかり信頼関係を築くことを一年目から大切にしたほうが万が一の際、保険になると思います。

ケース4. 所属先でのハラスメント

日常的なパワハラとモラハラのある研究室であり、メンバーのほぼ全員が泣かされたりメンタルヘルス問題を抱えていました。激しく叱責されているメンバーを何度も見たり、自分自身がその立場になったりということを何度も経験していく度に辞めたいなと思うようになりました。 自身も鬱病を発症し友達からの後押しもあって辞める決断をしました。 また、その間に自分は今後どうしたいのか、そもそもなんで自分の研究分野が好きなのか等色々なことを考えました。現在は新しい研究室にてラボローテーションをしている最中です

ケース5. 教授とのマッチングが上手くいかなかったケース

自分の話ではなく大学院同期入学で博士号取得を目指していた同僚の話です。入学当初から所属先研究室の教授と反りが合わず、研究やQualも上手くいかず結局修士も取らずに違う学部の研究室に異動することになりました。奨学金も持っておらず教授の研究費で雇われていたということもあり、教授としても「その生徒に研究成果を期待していたにも関わらず望んだような進捗が見られない」(且つ結果を出してもらわないと自分のラボの研究資金繰りに影響する)、「生徒としても自分が自由に自分のペースで研究をできていない」(且つ私から見てもその生徒自身の能力も正直あまり教授の求める最低ラインに届いてないと研究の進め方や彼の発表をみていて感じていました)という、両者のフラストレーションが溜まっていく様を横でみていて、教授や研究室との相性は重要だと強く感じました。
さらにその同僚は留学生ということもあり、ビザ等含めそう簡単に大学院を中退したり博士課程から修士号取得に切り替えて卒業、現地就職を目指すという訳にもいかず、日本人を含め海外大学院留学のリスクはこういうところにあると感じました。「アメリカでは大学院生は給料を貰いながら研究している」ということをまるでメリットだけしかないかのように広めている媒体や情報発信を目にしますが、それは大学院生であると同時に賃金を貰いながら雇われている身でもあるので、それ相応の責任や上司(教授)からのプレッシャーが生じるということも留学を希望している方々に覚えておいていただけたらと思います。

5. 研究室(指導教員)選びについてのアドバイス

最後に、研究室を選ぶときに注意した方がいい点についてお聞きし要素ごとにまとめました(注:ここに載っている要素が必ずしも良い/悪いというわけではありません。分野やご自身の状況によっても変わるため、参考程度にご覧ください)。研究室の内部や外部の人からの評判や、研究室内部の雰囲気に気を付けた方が良いというコメントが特に多く見受けれられました。入学前に指導教員だけでなくPhD学生やポスドク、または研究室外の人など様々な人から話を聞くことの大切さがわかる結果となっています。

加えて、「分野によって異なるので同じ大学・似た分野で相談できる先輩を探すのが1番」「特に初海外の場合は助けてくれる日本人が周りにたくさんいる街を選び、その中で自分に合う研究室を探すのもあり」などのご意見も頂きました。

アンケートにご協力くださりありがとうございました。

「このような研究室(指導教員)なら選ぶべき」

内部の学生やポスドクからの評価や幸福度が高い

学生やポスドクから好かれていたり信頼を集めいていて、学生同士、教員と学生の間の風通しが良い場合。

研究テーマや使っている手法の相性が良い*

例えば社会科学なら定量分析か定性分析かはチェックした方が良い。もしくは研究テーマが完全に一致していなくても、自分のバックグランドと指導教員の研究の相性が良ければコラボレーションにも繋がる。

コミュニケーションが円滑

必要な時に必ず時間を取ってくれる、学生と真摯に向き合ってくれるなど。指導教員といい関係が築けると、教授の専門と直接的に関係がなくても学生がやりたいことをやらせてもらえる可能性がある。

指導教員から自分への評価が高い

指導教員が自分のポテンシャルを前向きに信じてくれる場合や、自分の得意分野と指導教員の得意分野が被っておらず、自分の得意なことで研究室に貢献できると感じる場合。

指導スタイルの好みが合っている

ハンズオン(マイクロマネジメント)・ハンズオフ(放任型)のスタイルが合っている、もしくは合わせようとこちらの希望を聞いてくれる。

指導教員の能力や人格を尊敬・信頼できる

この先生と5年間くらい仕事がしたいと思えるかが重要。例えばライティングにおいて学べることがあると、後から研究テーマでミスマッチが起こっても、良い論を書くという点で学びが途切れることがない。

研究室外からの評判も良い

第三者からの良い評判を耳にしたことがある教員(口コミで「この人の性格は良い」など)。

予算が潤沢

ホームページ等で大型研究費(もしくは複数の小型研究費)をとれているかを確認した方が良い。研究だけでなくTA/RAの仕事量にも直結し忙しさが変わるため重要。

他分野とのコネクションがある、コラボレーションが盛ん

学際的なチームで色々な分野の研究者とのコネクションを持っているか。

学生が論文を出せている

研究室に所属している先輩PhD生と先生の共著量を見て、彼らがちゃんと共著しているならば比較的面倒見の良い研究室だと思われる。

学生が延長せず学位を取れている

指導教員が自分の卒業を献身的にサポートしてくれるかはかなり重要。

論文を出す頻度が高い

例えば、first author, corresponding authorで論文を直近5年間でコンスタントに書いている場合(看護学)。

共同研究先の企業の知名度が高い

例えばコンピュータサイエンスであればGAFAM等のビッグテックと共同研究していることが理想。一方でそのような研究室は人気なので競争率が高い。

近い分野をやっている教員や学生が複数人いる*

研究室を途中から変更しなくてはいけなくなった際にも役立つ。

指導教員が指導熱心である*

まずは指導熱心な方(綿密なフィードバックをくださり、依頼時の対応もそれなりに早い)を選ぶ事が一番重要。また、一方通行の指導ではなく、双方向的に議論してくださる方を選ぶ方が、自分の成長に繋がる。

指導教員が研究の進捗に対し寛容で建設的である

学生への期待値が顕著に高すぎたり低すぎたりしないこと。

自分と似た経歴や性格の卒業生が成功している
留学生やアジア圏の文化に理解がある
研究室内部での人間関係に問題がない
ホームページが充実している

HPの記載内容(今どんな研究をしているか、学生が参加できるプロジェクト一覧など)がしっかりしているか、先生で言えば個人HPを持っているかを確認する。一方でHPが充実していてもブラックな研究室の場合もあるので注意。

プライベートを大事にしてくれる

緊急の用事、メンタルヘルスや家族を優先できるか。

その研究室や周囲に友達がいる

「このような研究室(指導教員)は選ぶべきでない」

研究室内部の雰囲気が悪い*

所属している学生・研究者が幸せそうに見えない場合や仲が悪い場合。

研究室内部の学生やポスドクからの評判が悪い

まずPhD学生とコンタクトをとるべき。指導教員と最も距離の近い彼らが薦めないということはかなり大きな問題があると考えられる。

研究室外部からの評判が悪い

研究室の人だけでは生存バイアスの可能性があるため外部に聞くことが重要。評判が悪いことには必ず何かの理由があるので、少なくともそれを特定するべき。自分ならば大丈夫だという思い込みは危険。

指導教員と面接した時に違和感がある

改善の必要がある部分を一つも述べず良いところばかりあげて表面的な話をする場合など。直感的に相性が合わないと感じた場合は避けた方が良い。

入学前のコミュニケーションが円滑でない

メールを数日以内に返して来ない、または執拗に入学を急かしてくるなど。最初のコミュニケーションの段階で問題がある人は、結局入学した後もコミュニケーションでごたつく可能性あり。

グラント(研究費)を取れていない

TA等の負担が増えるだけでなく、余裕がないことによりその他の面(人間関係など)でもトラブルが発生する場合がある。

研究内容や手法が一致していない*

シンプルだがやりたくない研究を5年やらされるストレスは大きい。研究内容を聞いて楽しそうではないと思ったらやめるべき。

研究スタイルが一致していない

研究のプライオリティやAuthorshipなど。いくら高名な研究室であってもこの点が一致していないと後々色々なトラブル(人間関係、ストレスなど)に繋がりやすい。

ワークスタイルが一致していない

進捗確認の頻度、プライベートを大事にするかなどに大きな乖離がある場合避けたほうが無難。個人ミーティングの頻度や学生に求める進捗のスピード等を聞いて自分に合ったスタイルの研究室を選ぶと良い。

時間や締め切りを守らない

後々様々なトラブル(手続き関係など)が発生する可能性がある。もしくは学生へのプライオリティが低く後回しにされている可能性もある。

テニュアトラックである

審査に向けてプレッシャーがかかる/研究室が移籍する/卒業が遅れる可能性があるため。マイクロマネジメント型の指導スタイルになることが多いが、そのようなスタイルの方が相性が良い場合や、教員がテニュアを取れるという確信がある場合には問題ない。

指導教員が学生との時間を十分に取らない
学生が著者の論文が少ない
学生が学位を取れていない/延長している
卒業生がアカデミアを離れる割合が高い

ハラスメントにあって離れざるを得なくなっている可能性あり。研究室に所属していたのにホームページ等に名前がない学生やポスドクがいた場合要注意。

研究室の学生数が多すぎる

十分なメンタリングが受けられない可能性があるため。

論文があまり出ていない

例えば、first author, corresponding authorで論文を直近5年間であまり書いていない教員(看護学)。

研究室の問題に気づいていない、もしくは改善する気がない

※ 表上部の、背景色が濃いほどアンケートで多かった意見です。
※ここに載っている要素が必ずしも良い/悪いというわけではありません。分野やご自身の状況によっても変わるため、参考程度にご覧ください。

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