みなさんは、大学院留学を考えた際に、ヨーロッパという選択肢を思い浮かべたことはあるでしょうか。ヨーロッパには EU 加盟国だけでも27か国が存在します。隣接する国でも言語や文化は大きく異なり、各国の魅力は計り知れません。せっかく留学するのであればできるだけ多様な環境で学びたいと考える人も少なくないでしょう。
留学先としては EU 圏内の国に行くのか、イギリス等の EU 非加盟国を選ぶのかという点から検討が始まります。さらに修士課程には、各大学が開講している単独プログラムに加え、複数の国や大学を横断して学ぶエラスムスプログラムも存在します。また、同じ修士課程であっても、Research Master、Taught Master、MBA などの形態は多岐にわたります。
選択肢が多いのは魅力的な一方で、「結局、何がどう違うのか分かりにくい」「調べるだけで一苦労」と感じる方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、ヨーロッパの修士課程に在籍中、またはすでに修了した XPLANE コミュニティ参加者43名へのアンケート結果をもとに、ヨーロッパの修士課程に関する“いろは” ― その種類や特徴、生活スタイルなどを整理し、紹介します。
ヨーロッパ修士課程の特色
米国大学院留学との大きな違いとしては、ヨーロッパでは多くの場合、日本と同様に修士課程と博士課程が明確に分かれている点があげられます(大学院によっては米国同様に修士・博士一貫型のプログラムを提供している場合もあります)。また、イギリスやオランダなどの国々では、修士課程が研究重視の Research Master と座学重視の Taught Master に分かれているケースもあります。専門分野の選択に際しては、日本やアメリカと同様に学士課程と修士課程で専門を変更することは決して珍しいことではありません。
さらにヨーロッパ各国では、国公立大学の学費が現地国籍の学生に対しては無料、あるいは日本と比べて低額に設定されていることが多く、学生の年齢層も多様です。学生期間を延長している人や社会人経験を経て再び大学に戻ってきた人を含め、20代から40代まで幅広い年代の学生が在籍しています。
修士課程の年数は2年間とするプログラムが多い一方で、イギリスやスペインでは1年間のプログラムが一般的です。またドイツの生命科学系分野では、課外インターンなどを途中に挟み、修士課程を3年かけて修了するケースも珍しくありません。このように修士課程のプログラム年数は、国ごと・プログラムごとに大きな違いがあります。
2年制修士の場合、日本と比べると、修士課程でも講義(座学)や実験、グループワークを通じて取得する単位数が多い傾向にあります。例えば、筆者の修士課程(エラスムスプログラムの一つ)では、1年目は平日のほぼ毎日、朝から夜まで講義を受けていました。修士論文研究、またはそれに相当するプロジェクトワークは2年目後期がそのための期間として割り当てられていました。1年制修士においても同様の構成が多く、最初の半年強は授業に集中して、その後およそ3ヶ月間を修士論文に充てる形式がみられます。XPLANE 参加者アンケートでも、「修士論文の研究・執筆期間が半年以下の人(1学期分)」と回答した人が半数を占め、次いで「1年間で修士論文研究を行った」という回答が多くなりました(図1)。多くの修士課程では学位取得の条件として論文執筆が課されますが、専攻分野によっては、論文の代わりに卒業プロジェクトもしくはインターンシップの実施が求められる場合もあります。
また、留学生の割合については、アンケート結果から、英語が公用語である国や英語話者の人口の高い北欧諸国などでは、修士課程における留学生数が多い傾向があることが分かりました。

日常生活や出願時に求められる言語力は?
ヨーロッパへの進学にあたって、多くの人が最も不安に感じる点の一つが、現地で使用される言語ではないでしょうか。英語の通じやすさは国や地域によって異なりますが、一般的に、ゲルマン語族の言語を話す地域(スウェーデン・オランダ・ドイツなど)では、日常会話レベル以上の英語を話せる人が多いと言われています。実際にアンケート結果を見ても、これらの非英語圏ヨーロッパ在住の回答者の多くが、日常生活においても英語を使用しているという回答をしています。一方でそれ以外の地域や、比較的小規模な都市では、英語が通じにくく、日常生活において現地語の使用が求められる場面が増えるようです(図2)。

図中で青色で示しているのがイギリスであり、日常生活が英語で問題なく過ごせる地域としてはベルギー、スウェーデン、デンマーク、フィンランドなどが挙げられます。ドイツについては都市によって英語の通じやすさに差があるようです。一方でイタリアやフランスなどでは現地語の使用が求められる場面が多い傾向があります。
修士課程の出願時に求められる言語力に関しては、修士プログラムがどの言語で開講されているかによって異なります。すべての授業が英語で行われるプログラムの場合は英語力の照明が求められ(多くの場合はこちらに該当します)、現地語で授業が行われるプログラムでは当該言語の能力証明書の提出が必要となります。英語圏のイギリスは英語力について CEFR で C1 以上の証明を求められるケースが多い一方、それ以外の国では B2 レベルで出願可能なプログラムも多く見られます。ただし、これらの要件は大学やプログラムによって異なるため、出願時には関心のあるプログラムの言語要件を個別に確認することが重要です。なお、非英語圏の大学では、現地語を学ぶための語学授業が大学内で開講されてる場合も多く、進学後に現地語を習得する環境も整えられています(図3)。

出願の流れ
修士課程の出願時期は、前年の秋から、留学開始年の春にかけて幅広く、国や大学によって異なります。例えば XPLANE の記事作成チームメンバーは、
- 12月出願・4月合否発表・9月開始(フィンランド)
- 2月出願・4月発表・9月開始(スウェーデン)
- 4月出願・5月発表・10月開始(ドイツ)
- 2月出願・3月発表・9月開始(エラスムス・プログラム)
- 10月出願・2月発表・9月開始(イギリス)
といったスケジュールを経験しています。なお、イギリスでは、多くの大学が Rolling Admission 制度を採択しています。これは、出願書類が提出された順に随時審査が行われ、定員に達し次第、募集が締め切られる選考方式です。そのため、出願開始後できるだけ早い段階での出願が有利になる場合があります。
出願時に求められる主な書類としては、CV(履歴書)、Motivation Letter(志望動機書)、 IELTS や TOEFL などの英語力証明書、大学学部の卒業証書および成績証明書(英語か現地語に翻訳したもの)などが挙げられます。加えて、教授や准教授(場合によってはポスドク)の推薦状が2〜4通求められるケースも多く見られます。アンケート結果では、回答者の約20%が面接を受けたと回答しています。
そのほか、国やプログラムによっては、高校の卒業証明書(特にドイツで多い)、小論文などのエッセイ、アート・デザイン系の修士課程においてはビデオ・ポートフォリオの提出が必須となる場合もあります(図4)。

倍率に関してはプログラムごとの差が大きく、約4倍程度のものから、80倍程度と非常に競争率が高いものまでさまざまです。大学の公式ウェブサイトで合格者数が公表されている場合もあるため、Admission statistics を事前に確認しておくことをおすすめします。またエラスムスプログラムのように倍率が国籍ごとに異なるケースも存在します。これらのプログラムでは多様性が重視されており、国籍が一部に偏らないように調整されているため、日本人志願者の倍率が相対的に低くなることもあります。
授業料や奨学金 + living cost について
授業料については、現地国籍や EU 国籍の学生は学費が無料、あるいは比較的低額に設定されていることが多い一方、EU 圏外の国籍を持つ留学生には、外国人留学生向けの学費が課されるのが一般的です(例外として、国籍に関わらず全学生に同一の学費が設定されている場合もあります)。
アンケート結果によると、イギリスの修士課程は学費が高額で、数万ポンドにのぼるプログラムが多い一方、その他のヨーロッパ諸国では分野・プログラムによって、無料から数万ユーロまで幅があることが分かりました。また、学費や寮費は毎年固定されているとは限らず、年々上昇するケースもあります。特にイギリスでは、その傾向が強いことが報告されています(参考1、参考2)。加えて、ドイツの一部の州ではこれまで無料であった修士課程について、近年 EU 圏外を対象に授業料を徴収する動きも広がりつつあります。
アンケート結果では、学費や生活費の工面方法としては、日本の奨学金を利用している人が最も多く見られました。そのほか、各プログラム独自の奨学金や留学先の国が提供する奨学金を利用するケースもあります。また、社会人を経て留学した人の中には、自己資金や副業によって費用を賄っている人もいました。国によっては労働時間制限があるかもしれませんが、学生ビザであっても、アルバイトやティーチング・アシスタント (TA) などの仕事が可能な場合もあります。
近年は円安傾向が続いているため、可能であれば、現地通貨で支給される奨学金を受給できると、為替リスクを抑えることができます。エラスムスプログラムにはプログラム独自の奨学金が用意されているほか、国単位ではドイツは DAAD 奨学金などが有名です。ドイツ以外の国々でも政府が提供する奨学金が用意されている場合が多いのでぜひ調べてみてください。奨学金情報については、以下のページも参考になります。
- XPLANE ウェブサイト奨学金紹介ページ:https://xplane.jp/application-prep/scholarships/
- 海外留学奨学金検索サイト:https://ryugaku.jasso.go.jp/form/search.php?f=scholarship_abroad.html
また、各国の生活全般や生活コストについては、XPLANEの他の記事で、ヨーロッパにおける家探しや公共交通機関についても紹介しています。あわせて参考にしてみてください。


本記事では、ヨーロッパの修士課程について、できるだけ幅広く一般的な情報を紹介しました。しかし「ヨーロッパで修士課程」と一言でいっても、結局は国や大学・プログラムによって制度や実態は大きく異なります。そのため、最終的には、皆さん自身が志望する大学・プログラムについて、公式情報を一つひとつ確認していくことが、最も確実な近道となります。本記事が、読者のみなさんがそれらの情報を調べる上でのお手伝いになれば幸いです。
XPLANE の過去のニュースレターでは、各国で学んだ方々による経験談も数多く寄稿されていますので、そちらもあわせて参考にしてみてください。
