(コネ・研究業績なし+社会人+未経験研究分野での挑戦)ゼロから始める社会人PhD出願!【海外大学院受験記2022-#5】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2022年度の第5回である今回は、この秋からアメリカ・サウスカロライナ州のClemson Universityの博士課程(材料科学)に進学予定のRyo Kitamuraさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

こんにちは。2022年8月よりClemson UniversityのMaterials Science and EngineeringへPhD進学するRyo Kitamuraと申します。現在は日本の電機メーカーで研究開発業務に従事しています。進学先では、気候変動抑制の観点から、プロトン伝導性金属酸化物を使った水の電気分解による水素製造デバイス又は燃料電池という研究に従事する予定です。この記事では主に、「形のある業績がないけど海外大学院進学に興味があり、また過去の研究経歴と異なったテーマで博士を取りたいが実現可能かがわからない」あるいは「何をどのようなタイムラインでするべきなのかイメージがつかない」と思っている方へ受験準備のイメージが読めば具体化できるようなものになるように執筆しました。

2. 出願前の自分の業績等

出願前の自分の状態は以下の通りでした。

  • 学会発表歴、論文なし
  • GPA:学部 3.1/4.0,修士 3.7/4.0 (学部・修士とも大阪大学)
  • 会社の研究の一環で特許国際出願は7件完了(すべて登録審査前なので出願のみのpendingの状態)
  • 会社の研究の一環で国の研究ファンドを獲得している。
  • 希望テーマは過去の研究と異なり、即戦力としてのアピールや教授同士のコネクションは望めない

上記のように自分は形ある研究成果がなくGPAも普通だったので、受験中は「自分を採ってくれるラボはあるのか?」という疑問はもち続けていました。しかしながら、結果としては出願4校中2校は幸いにも合格をいただくことができました。

3. 受験タイムライン

ここでは実際の出願作業のイメージをつかむために僕の場合の受験タイムラインを図に示します。社会人からの受験でかつ比較的準備時間の取れるような労働環境でしたので、個々人の状況によって準備期間は変わるとは思いますが、米国出願の場合は基本的には大抵このような時間感覚だと思います。

主な受験準備のタイムライン

出願に必要なものの説明は、このサイトの出願準備のところで丁寧に書かれていますので割愛させて頂きます。奨学金に関しては、年齢的にも業績的にも出しても受からずに時間も無駄になってしまう可能性が高いと判断し出しませんでした。(推薦状が間に合わないという問題もありましたが)

以下ではこの時系列に沿うような形で、項目ごとに詳細に記載していきます。

4. 文献調査•出願先決定

大学院で研究をするテーマ・研究室を探すに当たって、まず自身のゴールは「地球温暖化を止める」でした。そのために何がボトルネックになるか・現状どういう解決方法が提案されているかなどの情報を集めました。詳細は省きますが結論として「プロトン伝導性金属酸化物を用い水の電気分解水素製造デバイスを作成することで水素のコストを下げる」という研究に将来性がありそうだと判断しました。2021年時点でこの研究を本格的に行っているラボは世界で10数個ぐらいしかなく、そのうち5個がアメリカで、かつトップクラスのラボもアメリカに多くあるとのことでアメリカに出願をすることを決めました。ラボは主にここ2~3年の論文の検索、引用論文、また学会発表(ECS, アメリカ電気化学会)から地道に見つけていきました。

5. 出願書類作成に関して

英語学習を本格的に開始したのは2020年の5月からで、このころから毎日30分のオンライン英会話を約1年続けていました。その他の主な学習法は「どんどん話すための瞬間英作文」などの教材を使ったり、またリスニングは海外ニュースやドラマ(フレンズ)、Podcast (再生可能エネルギー関連のものやLuke’s English podcast)などで耳を慣れさせました。

英語能力試験はIELTSで受けました。当時TOEIC965を持っていたのでReadingやListeningは過去問を数回分解く程度で十分でしたが、WritingとSpeakingは苦労しました。それぞれ行った対策としては、Writingは公式テキストの問題をTask1と2それぞれ10回分ずつ解きました。またhttps://www.ieltsanswers.com/writing-correction-ielts.html にある採点サービスを使い4回分添削してもらいました。(一回の添削当たり約1000円以下と圧倒的にコスパはいいのですが、添削が辛辣なのがたまにキズ) この添削のときに帰ってくる回答例などは参考になり、また各段落の出だしの書き方などはそのままテンプレとして使えてかつ文法的にも点数が高くつくものだったので重宝しました。自分はこのテンプレを覚えて一瞬で書けるようにしていました。

6. SoP、推薦状に関して

・出願テーマが決まってからSoPを書き始めました。構成などはXPLANEの教材で勉強してから、先輩のSoPを参考にしつつ(構成やどの程度の具体性をもたせるのかなど)、書いては修正しを繰り返して行きました。また留学・出願経験者のフィードバックも適宜受けながらブラッシュアップしていきました。校閲はCambridge Proofreadingというサービスを多用しました。

・推薦状は9月ごろに学部時代のラボの教授、修士時代のラボの教授と指導教官に9月に連絡を取り、依頼しました。草案を自分で作成し、先生方に見ていただく形を取りました。

7. 出願先の教授へのコンタクト及びミーティング

志望先の研究室には9~10月ごろに自己紹介と志望の意思を示すメール(コンタクトメール)を送りました。このメールの作成については結構注力しました。というのも先に書いたように自分は目に見える業績はほとんどなかったのでここがアピールできる唯一のチャンスだと感じていたからです。また研究分野を変えていることもあり、元指導教官と志望先の教授のつながりなどは望めなかったため、直接メールしました。コンタクトメールの内容に関しては、そのラボの最近の論文を2つ以上読み、それぞれ良い点や追加実験の案などを簡潔にまとめ、また自分が研究室に配属された場合に行いたい研究のアイデアの提案や、また過去の経験から研究室にどう貢献できるかを書いて、自身のCVとともにメールしました。ちなみに自分の過去の研究テーマは、先に書いたように志望先テーマと距離があり、学部では薄膜磁気記録デバイス開発、修士ではTEMでの熱電材料の観察手法開発、企業では量子ドット発光デバイスの開発を行っていました。研究内容は直接関わりありませんが、測定系は志望テーマでも使える技術があったのでその部分をアピールしました。

このコンタクトメールは4つの志望先に送り、うち2つ返信が帰ってきました。この2つの志望先の教授とはその後オンラインミーティングを行い、修士の際の研究内容をプレゼンしました。

※このコンタクトメールの送信時期が9月というのは遅いと思うので、可能であれば7月~8月ぐらいにコンタクトしておくべきかと思います。

8. GRE

私の分野ではGREは出願に必要とされることは少なかったのですが、出願先の1校からQuantitative Sectionについてのみ一定のスコアを要求されたので公式本を買って一通り練習しました。

9. 出願及び合否通知と進学先選びについて

・出願はオンラインでフォームを埋めていくのみで特に大変ではありませんでした。12月中旬に2校、1月頭、2月頭にそれぞれ1校ずつ出願しました。

・合格通知の結果は以下の通りでした。

大学名合否
Colorado School of Mines志望先の研究室の先生から連絡は来ず不合格
(別の研究室からは来たが、目的の研究では無かったので辞退)
Clemson University合格、RA獲得、進学決定。
West Virginia University合格、RA獲得、辞退。
Northwestern University不合格
出願先と合否結果

RAの契約の回答期限が4/15までだったのでその締め切り付近までに各大学に回答しました。

10. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

この僕の受験の記録は、「PhD留学をしたいが自分の業績や状況で行けるのか?」と不安を感じている人にとっての一筋の光になっていると幸いです。僕は「やってみてダメだったらそれはそれ。とりあえず行けるところまで行って道がつながるかを見てみよう。」という心意気でやっていました。留学をしたいけどできるのかがわからないという人は「今ここで留学をしない場合、その後の人生で自分は後悔するのであろうか?」という問いに対してYesの回答が出るのであれば挑戦してみればよいのではないかと思います。

皆さんが後悔ないような決断と準備ができるように願っております! もし何か僕がお手伝いできることがあれば遠慮なくご連絡ください!

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