途上国に根ざしたキャリアを創る【XPLANE TIMES 院留学の本棚】

本記事はXPLANE TIMES(ニュースレター)第3号(2023年4月8日発行)内の連載企画『院留学の本棚』に掲載された記事です。
連載企画『院留学の本棚』では、海外院生の大学生活、研究生活に焦点を当て、大学院留学についてあまり知られていないトピックや、留学志望者にとって有益な情報を提供する記事を掲載しています。第5回の今回は、Double Degree Programを利用してインドネシアのブラウィジャヤ大学の修士課程に在籍されている井上さんに寄稿していただきました。

はじめに

みなさんは「留学」という言葉を聞いて思い浮かぶ国はどこでしょうか?アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、おそらくほとんどの方々が先進国に趣き、有名な観光地を訪れたり、最先端の研究を行う姿を想像するでしょう。今回はいわゆる「新興国」と呼ばれる国の1つ、インドネシアでの理系学生の留学についてお話しします。


写真:Welcome &Farewell Party with Professors

■ 留学とインドネシアについて

 私はDDP(Double Degree Program)留学を通じてインドネシアで研究を行っています。修士2年間の内1年間を留学先にて、もう1年を所属大学で研究を行い、それぞれの大学で修士論文を提出することで両大学の学位(修士号)を取得できるプログラムです。元々海外のインフラ整備に興味があり、大学院に進学した2023年にDDPが再開された際に、インドネシアの協定校先の中で水文学・河川工学に近い研究を行っている研究室を探し、こちらからResearch Proposalを提出し受け入れていただき、今に至ります。

世界に196カ国ある中インドネシアを留学先に決めたきっかけは主に以下の4点です。

  • 学部の頃からDDP(インドネシアorミャンマー)を知っていた
  • 費用面
  • アジアの国への渡航経験が多く、親しみを感じた
  • 留学先の先生が在学大学の卒業生

高校生の頃から国際交流が好きで、修学旅行や大学での短期研修、ボランティア活動においてフィリピン、マレーシア、シンガポールに渡航したことがありました。大学入学時に教授からDDPのことについて話があり、当時から海外での研究には興味がありました。友人・先輩にはアメリカやヨーロッパなどの先進国に留学された方々もおられましたが、家庭の事情から先進国への長期留学は厳しく、また学部2年次にコロナが蔓延したため学部時代の海外渡航は不可能なものになりました。学部時代に土木工学を学んでいく内に「途上国のインフラは、都市部以外において問題にあふれていること」「日本は災害大国のため、防災技術についてトップクラスであること」という点に気づきました。大学での研究の協力先もアジア・アフリカの国々が多く、途上国におけるダムの開発による影響や水資源の管理の研究を見てきたことも決め手の1つです。

インドネシアは人口が2.7億人と世界で4番目に多く、そのうち1.5億人が首都ジャカルタのあるジャワ島に住んでいます。平均年齢も29.2歳と若く、人口ボーナスと豊かな資源により今後発展が期待される国の1つです。

また、インドネシアはアジアの国の中でも親日国の1つであり、インドネシア初代大統領の奥様デヴィ夫人、AKB48の姉妹グループJKT48を始め、Takoyaki, Ramen などの日本食も多く存在しており、あちこちにひらがなの表記を見つけることができます。私の留学先のUniversitas BrawijayaはMalang(マラン)という街にあり、教育の街として栄えています。山間部に位置するため他の地域に比べ涼しく、平均気温が25℃台と日本の7月のような気候が続いています。街にショッピングモールが5つあり、スーパーマーケットや市場、駅やバスターミナルなど日常生活を行う上で必要なものが揃っている街です。もしMalangに訪問した際にはBakso(バクソ)という肉団子スープをぜひ食べてみてください!


写真:Malangのオススメご飯 Bakso(バクソ)

■ 授業・研究について

インドネシアは日本と同じく英語が主要言語ではないため、日常会話や学部の授業では基本インドネシア語で話します。インドネシア語の起源として、インドネシアでは地方・島々を含め700の言語が存在し、国全体で意思疎通を図るためにマレーシアのマレー語を参考に創られました。英語を流暢に話せる学生はあまり多くなく、英語が苦手な学生が“I’m sorry. I can speak English a little.” と言う点も似ているところです。そのため普段の授業は留学生用のクラスとして先生と1対1で行います。プログラミングや数値解析など日本と同じ内容の講義の他に、オランダ統治時代に建設された河川の洪水対策や、頻発する災害と権力の弱い法整備など、現地の人々でないと習うことのできないインフラ事情を学ぶことができて楽しいです。研究において、河川の流量をモデルで再現するために気象データが必要なのですが、指導教員の先生と現地の気象庁(BMKG)を訪れ、データ取得のための交渉を行いました。日本のように防災技術が発展しているわけではなくデータも限られており、また地域住民の方々で防災意識や環境問題に関心を持つ人が少ないため、むしろ日本の防災技術についてプレゼンをしたり、意見交換をする機会が多かったりします。

また、大学内に日本語学科があり、時々ゲストとて参加し日本語学習のサポートや文化の交流を行っています。インドネシアの平均給与は3~5万円程度とかなり低く、日本で働くことで家族を養うことを目指す方も多く、日本語の学校が各地域に存在しています。学内には日本人が3人ほどしかいませんが、日本語パートナーズという日本語を途上国で教える機関や短期留学で日本人が来たときは、大いに盛り上がります。

■ 費用面について

私のDDP留学の場合、授業料は国内の所属大学に納めていれば留学先に支払う必要はありませんでした。VISAが1年間で約6万円ほど、大学内の寮費が月1万3千円ほどですが、近くのアパートや貸し家だともっと安くなるそうです。渡航費が往復7~10万円。首都のジャカルタの場合はもう少し高くなりますが、日本の地方都市くらいの住居費になります。食費は1食100円~300円で飲み物も付けて食べることができます。移動はGrab, Gojekなどの乗り合いサービスが普及しており、バイクの後ろに乗り5 km移動するのに100円程度、携帯電話も1ヶ月20 GBで500円。そのため年間での出費も100万円程であり、JASSOの貸与奨学金だけで充分賄うことができます。1ヶ月以上入国する際、入国時に携帯電話の登録が必要で、500ドルを超える機種を持ち込む場合、手数料が発生するので気をつけましょう。また、インドネシアではQRISというキャッシュレス決済が普及しており、日本のpaypayがどのお店でも使えるようなシステムが構築されています。普段の買い物で現金もクレジットカードも持たなくて済むためとても便利です。


 写真:現地の市場 Pasar(パサール)

■ 宗教面について

ンドネシアの人々の8割がイスラム教(Muslim)を信仰しており、残りがキリスト教とヒンドゥー教(観光地のBaliなど)が占めています。そのため、女性はHijabという頭巾を被り髪の毛を隠し、街にはあちこちにモスク(Mosque, Misjid)が立てられており、1日5回決まった時刻に礼拝を行います。1回目は朝の3時ですが、アザーンという礼拝のお知らせのアナウンス(?)と共に始まります。食べ物にはHalal(イスラム教で「許されている」と言う意味、それ以外の食べ物は神様が身体に良くないものであると決めたものとなる)マークが付けられているお店がほとんどで、マクドナルドやステーキレストランでも豚肉やお酒は使われていません(なお、マクドナルドのメニューにはフライドチキンとお米のメニューがあります)。またこの寄稿を行った期間には、1ヶ月間Ramdan(ラマダン)という断食がありました。自身の欲を抑え、信仰心を伴に深めるという目的があり、朝4時半から夕方の約5時頃まで飲食が禁じられ、飲食店もほとんど閉まります。学校や会社もラマダンに合わせて退勤時間が早まり、3時には大学が閉まりました。夕方のアザーンが鳴ると一斉に外の屋台やお店に人だかりができます。私も何日か挑戦し、午後の集中力が途切れることがありましたが、インドネシアの学生やイスラム圏の留学生は“Just fasting(ただの断食だろ)?”と話していて驚きました。


 写真:夜の賑やかな町並み、バイク多め。

■ 最後に

インドネシアの留学寄稿を読んでくださりありがとうございました!アジア圏の国への留学のきっかけになったり、初めて知ったということが1つでも伝えられていれば幸いです。私の将来の進路ですが、大学院修了後に開発コンサルと呼ばれる業界で働くことを検討しています。JICAや外国政府が発注の元、途上国のインフラ支援を行い、具体的には発展途上国における道路や橋の整備やダム開発に携わります。実は現在も留学をしながら就活中ですが、ありがたいことにコロナ渦の副産物として就活の面接もオンラインで実施しています。日本のインフラ技術を通じて海外との架け橋となる人財になれるように努めて参ります。

最後に余談ですが、近年日本で人口減少と各産業分野における担い手不足の問題が取り上げられており、日本の優れたものづくり・サービスの質が失われつつあります。その問題を解消するために海外からの人材確保が必須不可欠であり既に多くの海外の方々が日本で働いています。今後10人に1人が海外にルーツを持つ日本になると予想されている世の中で、私たちが共存する上で、文化の背景や違いを理解することや海外に身を出して日本の良さを学ぶことは人生経験のプラスに必ずなると思います。円安が続き厳し差を感じるご時世ですが、ぜひ渡航しやすく多文化の混じり合う東南アジアに足を踏み入れてみてください。


 写真:Bromo山を馬に乗って駆け巡る
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