根性で乗り切る学部生の米国PhD受験ものがたり~前庭器官の観点から、宇宙での身体応答へアプローチ~【海外大学院受験記2023-#12】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2023年度の第12回である今回は、2023年秋からオハイオ州立大学の博士課程(生体医工学)に進学されたボブさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

2023年秋からThe Ohio State UniversityのBiomedical Engineering PhD課程1年に在籍しています。耳にある前庭器官(Vestibular System) がどのように重力を知覚して、姿勢をコントロールしているのかを学ぶために、Graduate Research Associate (GRA)としてVirtualisとVRを用いた多次元外乱バランステストの研究をしています。2023年3月に日本の大学を卒業しました。2023年4月に別の日本の大学院に入学しましたが、2024年3月に退学する予定です。将来は、前庭系の基礎研究を臨床に応用して、転倒 (Falls)と酔い (Motion Sickness) のリスク低下に貢献することが目標です。

The Ohio State University の正門にて

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

2020年に新型コロナが猛威を振るっているときに、UC Davis に1年間交換留学をしたのにも関わらず、現地で止む無く全ての授業をオンラインで受けたことが、負けず嫌いな私に火をつけました。帰国してから、祖母から金銭的な支援を得ずにアメリカで学位を取得した祖父の話を聞いて、今度こそは両親から経済的に独立してリベンジしてやる!とさらに意気込むようになり、自然と大学院留学を視野に入れるようになりました。

学部4年に配属された研究室の論文抄録会で、筑波大学の高橋先生の論文を読んで、気づいたら宇宙生物学の分野に夢中になっていました。宇宙飛行による、筋萎縮、骨密度の減少、動脈硬化は、宇宙にいても人工重力を負荷すれば、解決できるのではないかという仮説を立てました。そこで、微小重力環境において、重力を感知する前庭器官を刺激したときの仮想的な重力に対する身体応答を研究したいと強く思うようになりました。

3. タイムライン

3-1 出願校/進学校の決定(学部3年3月~4年10月)

まずは、以下の宇宙生物学の研究プロジェクトに興味を持ちました。

  • Harvard/MIT – Bioastronautics Training Program
  • UC Davis – Habitats Optimized for Missions of Exploration (HOME)

同志社大学のある先生の元共同研究先であるUC San Diegoの教授を始めとして、Harvard, MIT, The Ohio State University, CU Boulderの教授へ次々と芋づる式のように紹介していただきました。宇宙生物学の分野は、幸運にもコミュニティが小さく、教授それぞれのコネクションが非常に強いのが特徴的です。

このようにリレー形式で教授を紹介してもらったり、一方的に興味のある教授にコンタクトをとり続けたりしたことで、Table. 1の大学院の計11名の教授の研究室訪問やZoomを実現することができました。2022年8月に第74回日米学生会議に参加したあとに、研究室訪問をするために、2週間でBoston→Denver→San Francisco→Davis→Los Angelesを巡る単独旅行をしました。

Table. 1 研究室訪問

大学院研究室訪問Zoom
Harvard (1)
MIT (1)
UC San Diego (1)
UC Davis (3)
CU Boulder (4)
The Ohio State University (1)

研究室訪問では、教授と1on1で話したり、学生に実験器具の紹介や研究室を案内してもらったりと形式は様々でした。以下5点を中心に教授と面談をしました。

  • 教授の研究内容/論文について質問
  • 自分の卒業研究についてプレゼン
  • 学生の受け入れ状況
  • 研究資金/プロジェクトの状況
  • お互いの今後の研究の方向性

研究室訪問を通して、自分を知ってもらう以上に、相手のことをまずは知り、相手がどのような学生が欲しいのかを理解することが重要であると学びました。

最終的には、Table. 2の5つのプログラムに出願しました。4月下旬に唯一学費免除で合格を頂いたThe Ohio State Universityに進学することにしました。

Table. 2 出願校/進学校の決定

大学院PhDプログラム出願締切通知時期結果
MITAeroAstro12/153/6×
UC DavisMechanical Engineering12 /154/5×
CU BoulderMechanical Engineering12/14/14×
CU BoulderAerospace Engineering12/13/13×
The Ohio State UniversityBiomedical Engineering11/304/23

3-2 奨学金(学部4年5月~修士1年6月

XPLANEの奨学金のデータベースを参考にしながら、Table. 3の奨学金に応募しましたが、全て不合格でした。2022年度の豊田理研の奨学金に出願するため、5月上旬から志望理由などの執筆を開始しました。「宇宙でのリハビリテーションを実現するべく、微小重力によって身体機能が低下する仕組みについて研究したい」というCuriosity Drivenに偏った内容でした。財団の方々を説得するためには、財団がどのような目的でどのような学生を支援したいのかというOutcome Drivenの要素が必要であることを学びました。興味があるから研究したいだけでは、人々の心を動かすことはできません。その研究がどのように社会に貢献するのかを伝えることで、初めて研究の重要性を理解してもらえます。

一次試験の敗因

  • 財団がどのような目的でどのような学生を支援したいのかの理解不足
  • Curiosity DrivenとOutcome Drivenのバランス
  • 他の出願者よりも浅い研究経験

この学びから1年間推敲を繰り返して、2024年度の豊田理研に以下の構成で再挑戦しました。

  1. 宇宙での進退応答を前庭器官の観点から研究したい (Curiosity Driven)
  2. 卒業研究を通して得た研究者としての強み
  3. 高齢者の転倒(Falls)と酔い(Motion Sickness)の問題提示 (Outcome Driven)
  4. The Ohio State Universityでの前庭器官に関するPhD研究計画
  5. PhD取得後どのように日本に貢献したいか

2023年度は、一次を通過しましたが無念にも二次で不合格となりました。豊田理研には2年連続で出願をしたので、2022年度と異なり2023年度の志望内容が一変して具体化されたきっかけを二次面接で強く聞かれました。

二次試験の敗因

  • 前庭器官という非常に絞られた研究内容の重要性/価値
  • 他の研究者と協力するだけではなく、自分一人で思考して研究するスキル
  • 研究者としての強み

この10 回の失敗から学んだことを生かして、11 回目の応募にして、やっとの思いでJASSO の2024 年度大学院学位取得型に採用されました。ここまで何度落ちても、快く推薦状を執筆してくださった指導教員の先生に、この場をお借りして、深く感謝申し上げます。また、二次試験の練習にお付き合い頂きました、XPLANE で出会った皆様のおかげです。改めて、XPLANEのコミュニティーの暖かさと団結力に圧倒されました。ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。

Table. 3 奨学金

財団一次二次
豊田理化学研究所 (2022)×
豊田理化学研究所 (2023)×
QUAD FELLOWSHIP (2022)×
村田海外留学奨学会(2022)×
中島記念国際交流財団(2022)×
船井情報科学振興財団(2022)×
CWAJ奨学金 (2023)×
ロータリー財団(2023)×
重田教育財団(2023)×
本庄国際奨学財団(2023)×
JASSO (2024)

3-3 英語の勉強に関して

・TOEFL (学部3年2月~4年9月)

Reading: Official Guide to the TOEFL iBTやTOEFLテスト英単語3800を最大活用
Listening: 実際の1.5 倍のスピードで常に聞き続ける
Writing: 1回目は自分で書いて、2回目は模範解答からリストアップしたフレーズを使って書く
Speaking: 研究室にいたメキシコ出身のポスドク研究員、スペイン出身のPhD学生と日常的に会話したり、Zoomを使ってUC Davisの友達と話したりする

・IELTS (学部4年9~10月)

Writing: ネットで過去問を見つけて、データの分析を文章化するトレーニング

PCよりも対人で話すことが好きな私にとって、TOEFLからIELTSに切り替えたのは、大正解でした。

GRE (学部4年11月)

Verbal: 鬼難しすぎてギブアップ
Quantitative: 試験数日前に過去問を2~3周程度
Analysis: 特に対策なし

3-4 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

・学部

急性期の脳卒中患者のための足関節リハビリテーション装置をマレーシアの大学、病院と共同開発していました。卒論では実際に被験者20名を用いて、装置による足関節の可動域と最大筋収縮の評価をMotion CaptureやEMGを使って行いました。

・修士

GVS (Galvanic Vestibular Stimulation) という装置を用いて、耳にある前庭器官に電気刺激を与えると、どのように垂直知覚を歪ませることができるのかを研究していました。前庭感覚、視覚、体性感覚から送られてくる情報が異なるときに引き起こされる宇宙酔い、車酔い、VR酔いなどのメカニズムを理解するにあたって、GVSによる電気刺激が応用できるのではと考えました。

3-5 出願書類作成に関して(SoP、推薦状)

・Statement of Purpose (SoP)

各大学院が提示するSoPの必須項目、興味のある教授の研究を中心に、すでに執筆した奨学金のSoPを折りこみながら、執筆しました。出願校によって、SoPの内容は異なりますが、おおむね以下の構成で挑みました。

  1. PhDプログラムを通してどのような目標を達成したいか
  2. 学生時代に苦労したこと/どのように乗り越えたか
  3. 卒業研究で成功したこと
  4. PhD取得後の長期的な目標

推敲には、志望先の教授と学生、船井情報科学財団の審査員の先生、当時の指導教員、同研究室のメキシコ出身のポスドク研究員、スペイン出身のPhD学生、他研究室のマレーシア出身の助教、英語の先生、父など大変多くの方々に協力していただきました。(この場をお借りして、御礼を申し上げます。ありがとうございました。) SoPは、推薦状と異なり、主観的な記述なので、研究に対する考えやワクワク感を盛り込むことで、自分の思考が伝わるように、心がけました。志望先の教授が、この学生と一緒に研究をしたいと思わせることがカギとなります。

推薦状

大学の指導教員、学生ベンチャーの技術顧問、UC Davis でのインターンの顧問の計3名の教授の方々に推薦状の執筆をお願いいたしました。研究、課外活動、留学などの異なる視点から下書きを中心に、客観的に執筆していただきました。特に、指導教員の先生とは、研究している様子/行動が生き生きと伝わるように何度も話し合いを重ねました。また、受賞歴についても、詳細に含めていただきました。研究経験が浅い私のような学生に対しては、志望先の教授の方々は、SoPよりも推薦状で客観的な研究スキルを重要視する傾向があるようです。どんなときも迅速に快く対応してくださった3名の教授の皆様、本当にありがとうございました。

4. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点・エピソード

4-1 苦労した点

  • TOEFLのスコア低下(計3回)
  • 奨学金の不合格パラダイス(計10回)
  • 浅い研究実績
  • 志望先の教授とのアポ取り(1回目は、ほとんど返信が来ません)
  • Curiosity DrivenとOutcome Drivenのバランスの取れたSoPの執筆

4-2 うまくいった点

  • 早期に奨学金出願のためのSoPの執筆を開始(学部4年5月)
  • 研究室訪問を通した、興味のある全ての教授とのつながり(学部4年8~9月)
  • TOEFLからIELTSへの切り替え(学部4年9月)
  • 指導教員との入念な推薦状に関する打合せ(学部4年11月)

4-3 エピソード

JASSOの2023年度大学院学位取得型の出願締め切りが迫っていたことがあり、焦ってIELTS Generalを9月下旬に受験してしまいました。JASSOの出願には間に合いませんでしたが、10月にIELTS Academicを受験して、やっと全出願校の必要スコアを超えたので、11月下旬〆切の大学院の出願にギリギリ間に合いました。

9/30 IELTS General 受験
10/2 JASSO 大学院学位取得型 学内応募 〆切 (間に合わず)
10/30 IELTS Academic 受験
11/2 IELTS スコア通知 (目標スコアクリア)
11/8 IELTS事務局 スコア証明書を受験大学院4校へ電子送付
https://www.eiken.or.jp/ielts/booklet/atrfioctokyo.pdf(成績証明書の送付依頼書)
11月下旬 各大学院の出願ポータルにてスコアの反映を確認
11/30 The Ohio State University 出願〆切

試験日から37日以内であれば、IELTS事務局が無料で5校までスコア証明書を電子送付してくれます。私みたいにならないよう、試験タイプを入念に確認して、1か月以上は余裕をもってIELTSを受験することをお勧めします。

5. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。研究内容に関わらず、多くの方々の参考になれば幸いです。研究は非常に楽しいですが、楽しいだけでは研究できないのが現状です。この海外大学院の出願を通して、改めて社会が何を必要としているのか/どのように研究が社会に貢献できるのかを考えさせられました。4月下旬まで全ての奨学金と大学院からの不合格通知が続き、99% 大学院留学をあきらめていました。海外大学院出願は、精神的につらいですが、自分の弱みを知ることで、その分強くなれます。何かお手伝いができることがあれば、個別にいつでも連絡お待ちしています。皆様のご健闘を心からお祈りしています。

赤く染まった早朝の通学路
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