日本MDからノルウェーPhDへ〜散々の失敗とバカらしく諦めない!〜【海外大学院受験記2022-#9】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2022年度の第9回である今回は、この秋からノルウェー科学技術大学(NTNU)の博士課程(医学)に進学予定のNorwegianWoodさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

公衆衛生・疫学がやりたい医師四年目(卒後四年目)です。今はどこかの大学病院で勤務医をしています。元々エンジニアになりたかったけれど、大学受験で色々な運命の悪戯があり現在に至っています。やっと数年かかって希望していた海外就職、学位取得のスタートに立てました。成功体験ではなく、散々失敗したけれど諦めが悪かった話をしようと思います笑

2. 海外大学院に行きたかったわけ

すごく子供染みていますが、2002年の日韓W杯で欧州組に憧れそこから海外組に憧れたというのがきっかけです笑。その後、学部時代にトロントの研究機関に短期間留学させてもらいました。留学先のPIから可愛がってもらい、留学終了前に「君は日本から出た方が良い」と言われ具体化しました。他には大学時代に交換留学生と遊んでばかりで、自分も外に出なければという思いもありました。

欧州にこだわった理由は、

  • 学費がなく給与が良い    
  • アメリカのPhD取得はすごく大変そう    
  • 友達がヨーロッパから来ていた人が多く、馴染みがあったから

です。あとバケーションとwork life balanceが良さそうという理由も笑。

学部時代留学先のトロントにて

3 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

これはMD出身者あるあるかもしれませんが、医学部では決められた卒論の制度がないので苦労しました。学部時代ラボに所属はしていましたし研究もしていました。ただ、「これだ!」という研究内容は言えなかったです。学部卒業からPhDに直接行くというほどのスキルはなかったです。地方国公立大学の医学部は基本臨床医養成がメインなので、僕のような変人の居場所は少なく学部時代は本当に辛かったです。。。トロント留学時代の分野(neurophysiology)を出身大学で継続して研究が出来ず、探しまくった結果居候先のラボを出身大学内で見つけました。分野こそ違いますが大変感謝しています。このラボがなければ卒業も危なかったです。

初期研修先を研究が強い大学にしました。コロナで基礎研究教室には行けなくなり大変でしたが、そんな中出会ったのが臨床疫学でした。元々学部時代からbioinformaticsに興味があり、ラボでpythonをいじったりしていたので臨床疫学で使う程度のRの習得は早かったです。「英語論文を出さなければ」という(勝手な)使命もあり、かつ指導医にも大変恵まれた結果、業績を結構出すことが出来ました。こちらも色々経験させて頂き、感謝しかありません。

というわけで、自分の業績としては臨床疫学という形になります。分野は結構散在しており、ある臓器をやってみたり、違う疾患をやってみたり。データを眺めてコーディングしている時間は素晴らしく楽しいです。さらに疫学のアピールをしておくと、COVID-19の臨床像やワクチンのefficacy(効力)を明らかにして社会を大きく変えたのは疫学です!John Snowのコレラの話を覚えている人はいますか!?

ノルウェー科学技術大学のキャンパス
Aerial photo of the Campus NTNU Gløshaugen, Trondheim, from NW.” by NTNU Info is licensed under CC BY-SA 3.0.

4. 大学院出願で苦労したこと(多すぎてまとめられない!)

研修医時代から欧州でPhDをやりたかったので、ラボや公募、奨学金に応募し続けました。落ちた数は果てしないし、無礼もしてきました。一体いくつメールや応募をしたのだろう。。。

そんな中研修医二年目の終わりの12月ようやくとある有名ラボから面接をもらえました 。面接は圧迫(?)みたいな感じで「落ちたな」と思っていました。しかし数ヶ月経って研修医も終わりの頃、PhD採用したいという通知が!狂喜乱舞しました。トップジャーナルにかなり載せている新進気鋭のラボでした。

早くadmission系をやっつけたいのでラボに連絡をしまくるも、「まあ8月になったらやればいいさ」と言われ、一応粘って情報は聞き出していました。PhD登録二日前、「Masterはないのか?MDは修士じゃない!」と怒られてPhD登録は頓挫しました。それでも向こうの修士に無理やり入れてはもらえました。が、英語のプログラムじゃない笑。一ヶ月以内に現地に来いという色々無茶苦茶な要求もあって、僕は自分の能力的についていけないと判断し辞退しました。

これが2021年の10月でした。精神的にかなり辛かったです。ただこの時期になると結構良いジャーナルに論文を通し始め、国際学会でも謎に賞を取ったりして自信が出ていました。「研修医時代の業績皆無、スキル皆無じゃないぞ!ここまで来たら絶対に来年は欧州に行ってやる!」と諦めが悪かったです笑。

ようやくここでMDが修士扱いじゃないことに気が付く自分も馬鹿でした笑。「PhDからでは無理かもしれない」という思いで疫学修士も応募しました。業績があれば成績が悪くても合格します。ただ「本命のPhDに行きたい!」という気持ちで色々探し再度応募の日々です。求人をみてはCV等を綺麗にして応募しました。前回面接は一度しか呼ばれなかったですが、今回はすぐにヒットしました。ノルウェーで。世界中から応募が来るため面接に呼ばれても本命ポジションには落ちてしまう。気分は落ち込みますが、バカはここで諦めません笑。「ノルウェーの大学から面接がもらえるならノルウェーに集中してapplyしてやる!」と出し続けた結果、とある疫学ラボから面接に呼ばれました。面接も上手くいき、Reference checkが来ました! 「おお、これは良いかもしれない!」と思っていたところ、二回目の面接に呼ばれました。

ちょうどサマータイムになる間、時差が訳わからず1時間早く待機したのはいい思い出です。PIから採用したいと直接言われて、即答で行きますと回答しました。最後の最後までヒヤヒヤしました。ただ契約書が来ても、ビザ申請までは信じられない今日この頃。「油断せず」と思っていたら、他の遺伝学ラボからも面接したいと言われ、勿論受けました(時差を読み間違えて面接に遅れたのは笑い話)。今回は他で決まっているので自信持って楽しくお話ししました。そしたら、こちらの遺伝学ラボからも採用したいと。結局、最初に採用と言ってくれた疫学ラボにしました。バッチリ疫学で、かつ教官がMD出身者の外国人で相性が良さそうだったことが決め手でした。

やっとこの6月に契約書類にサインをして、大学が現地でビザ申請(skilled worker!)もしてくれて、長かったけれど苦労して決めた甲斐があるなと思っています。お世話になった方々に「ノルウェー科学技術大学行きます」とお伝えすると「何処やねん!?」ってなるのはお約束(僕も半年前までノルウェー科学技術大学は知らなかった笑)。

5. 英語とか試験とか

帰国子女ではないですが、英語は元々大好きでした。学部時代から経済学とか色々な分野の洋書を年100冊くらい読んでいたり、The New Yorkerを購読したり、海外ドラマをずっと見たりしていました。友達とも英語でコミュニケーションを取ることが多かったので、頑張って勉強をした思い出はありません。元々海外志向が強かったので英語を常日頃使っていたのは大きいです。英語はIELTSかTOEFLで最低点あればOK。IELTSは研修医時代に受けた時のOverall 7.0というギリギリのスコアで全部出しました。バカだったのはIELTS official letterを捨てちゃったことです笑。

6. 出願書類系(Reference Check)

幸運にも友人に外国人が多く、CVやmotivation letter等は全てアメリカ人の友達に見てもらっていました。そのアメリカ人の友達もNYで長年教育に携わっているエキスパートだったので、しっかりしたものが作れました。一回型を作ってしまえば、あとは応用を利かせるだけなので案外楽でした(論文投稿でrejectくらって次の雑誌用にform変えますよね、あれと同じです)。
奨学金に応募していたときは上司に添削してもらったりしていました。何をするにも必ず他人の目を入れておくということが大事だと思います。
Reference check1の話もしておきます。海外就職時によくされるシステムで、職場でどんな感じかを採用したい人が確認する作業です。こちらは上司二人と出身大学の所属ラボ教授にお願いしました。素晴らしいreferenceをして頂きました。おそらく採用の決め手だったと思います。仕事内容をきっちり評価してもらえる先生と人柄を評価してくれている先生にお願いしましょう。

7. 出願先選び

あまり考えませんでした。公募されているポジションに応募するだけです。プロジェクトが面白そうで自分が入る余地があれば何でも応募です。論文投稿と同じ流れです。Rejectなんて日常茶飯事ですし、それで項垂れていてはいけません(というかrejectに慣れてくる)。Major revision(面接)に引っ掛かれば御の字です。

面接決まってから色々調べましたが、留学先は非常に興味深いデータを持っています。また、メンター陣もビッグジャーナルに載せていたり。マイナーな場所だと思っていましたが、かなりしっかりしたグラントを取れるラボだから、PhD公募をしています(ノルウェーのPhDは大体給料が500,000NOK/yearでPC等の設備もラボ負担)。向こうの大学で日本人MDはいないので「ノルウェーと日本の架け橋になってほしい」とPIに言われています。個人的に非常に良い選択をしたと思っています。

8. Visa関連

こちらは上記でもあるようにかなり長い間契約書等が来なかったです。大体三ヶ月くらい待ったか、毎日メールフォルダーを見てドキドキしていました。Visaも現在移民局に申請中です。Visa申請は大学がノルウェーで出してくれました。世界情勢も混乱しているため、時間はかかるのでしょうか。ラボと相談しながら、いつから契約開始にするか調整しています。

9. これから出願する人たちへ

読んで頂ければ分かる通り、全然スムーズでもなく失敗ばかりの数年でした。時に非常に辛い思いもしましたし、途中で海外留学を諦めた時もありました。MDで研究留学となると基本はポスドクが普通ですし、医局つながりで行かれる先生が多いと思います。僕はコネも何もなかった上にPhD留学希望で大変苦労しました。
「海外で活躍してやる!」という想いのある方は是非その思いを捨てず、追ってほしいなと思います。一般的な人生と違って大変なことしかないけど、Good Luck!
またこの受験記を読んで、誰か一人でも海外留学へ挑戦する気になればと願っています。

10. Acknowledgement

いつも夢を追わせてくれる家族、サポートしてくれる友人に感謝です。
失敗ばかりだけれど応援してくれる大学時代の先生方、専門医も取らず臨床はボロボロだけど欧州で頑張りたい夢を応援してくださる職場の皆さん、トロントでお世話になった先生方、僕のはちゃめちゃな研究デザインで共同研究してくださる先生方、全員に感謝です。
最後に、XPLANEの皆さんこのような機会をありがとうございます!

(編注)
1 多くの大学院のプログラムでは、出願時に推薦状(Letter of Recommendation)を提出することがReference checkの代わりとなる。

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