【留学体験記】オランダ大学院卒業者が見る世界:​太田原 彩那 さん (ユトレヒト大学社会学Refugee専攻)

オランダ大学院卒業者が見る世界:

太田原 彩那 さん (ユトレヒト大学社会学Refugee専攻)

記事執筆:Ryoji Yoshisada (XPLANE)
太田原彩那(Ayana)さん、オランダ、ユトレヒト大学でRefugee(難民) についての学問を専攻し2019年夏に卒業。同じオランダ留学をした同年代で数少ない日本人として、今回インタビューをしてきた。彼女はいつもと変わらない明るい雰囲気で「やっほ〜久しぶり。」30分ほど他愛もない話を交わし、インタビューにも快く承諾してもらった。以下は、その後1時間半で起きた会話を筆者の視点から書き起こしたものである。

−− 海外の大学院を考え始めたきっかけ −−

はじめに、海外留学を志した理由を聞いてみた。その答えは、彼女の意欲あふれる姿を知ってる筆者には意外、「もともと全く考えたことなかった」そうだ。人の心を掴むのうまいね、そう思いながらも、続きを。Ayanaさんは武蔵野大学3年生時、3ヶ月半ほどマルタに英語の語学留学し、その後は日本で就活を行…う予定だった。そこでは、英語の学校に通う傍ら、現地のボランティアに参加し、今まで想像もしない出会いが待っていた。日本ではテレビでしか見たことのない外国の人々がたくさん、当然だが、考え方に直接影響を起こすような「何か」があった。現地の人と関わり、難民としてマルタに来た人々、その国では少数派の宗教を信じる人々の様子を間近で見て話を聞き、今までメディアで見てきた想像の上の世界とは違った。もともと、メディアの報道などに興味はあったが、ここに来て気がついたことは、「難民や移民についてもっと知りたい、勉強したい、なにか彼らのためになることをしたい」という自分自身の新たな目標だった。 留学が終わって日本に帰り、すぐに大学の先生に相談したら、大学院でもっと詳しく勉強をすることを勧められた。中でも、移民や難民の受け入れや、政策などが実際に起っているヨーロッパのほうが日本よりも適していると考えた。そこからAyanaさんの海外留学への歩みは、始まる。

(写真)ボランティアの活動でマルタで出会った、マルタの前大統領(右から2番目)と外交官(中央)に会合した際の写真。写真左から2番目がAyanaさん。

−− オランダにしたのはなぜ? −−

筆者は、次に読者が聞きたい質問はこれやろ、そう思ってこの質問を投げかけた。Ayanaさんは迷いなくこう話す。オランダは世界に類を見ないほどリベラルな雰囲気が漂っている。いろんなバックグラウンドに対して開かれている国民性が、国の政策やその地に住んでる移民、難民の人たちに与える影響についてそこで勉強したい。

なるほど、国ベースで選ぶというのは結構面白い。彼女の学問分野特有の理由が聞けて、これは記事になる、そう確信を得た。彼女は、大学を絞るため、自らオランダを訪れ、アムステルダム、ライデン、ユトレヒトの大学を訪問した。訪問に際しては、教授にアポを取り、準備は周到も周到、研究プロポーザルや質問リストを用意して、実際に教授と話をするチャンスを得た。授業のスタイルについてや、各大学の特徴についても聞き、ユトレヒトがその分野に強いことがわかった。実際に話を聞いたり、フィールドワークができることがわかり、とても魅力を感じた。

−− 出願に際して必要だったのは? −−

大学や、学問によって、出願に必要な書類が異なる。彼女の出願時に何を提出したのか、聞いてみた。

志望動機書
(武蔵野)大学での成績
IELTSのスコア
推薦書(2人から)
Statisticsの成績(早稲田大学で聴講した際のもの)

ヨーロッパでは割と一般的なセットだが、Statisticsの授業を履修したことがあるというのが条件に含まれていた。推薦書については、武蔵野大学の担当教員と、マルタ留学中にボランティアを通じて仲良くなった外交官に書いてもらった。この外交官とは、東京に彼らが首相とともに来たときにも会うなど、今でも時々連絡を取るような仲である。出願時には同時に奨学金(Holland Scholarship)に申し込み、推薦書は同じ二人に頼んだ。

−− 修士課程(一年間)での学習と研究内容は? −−

社会学でRefugee学を専攻。修士課程の前半は、社会学という学問分野はとても広いことから、何にでも共通する「政策」に重点をおいた。特に、プロジェクトが効果的に働いたか、役に立ったか、を評価する方法論を学んだ。その他、文化の多様性と混合、犯罪学などの授業も履修しながら、後半は、主専攻のRefugeeの研究を行った。卒論のタイトルは”Dream of refugees – Importance of sense of belonging for refugees to follow their dreams by building bridging social capital”。ここでは、難民の人の夢が、政府の事情や、周りの環境で変わってしまうことを認識し、夢を持つために何が必要かということを実際に話を聞いて探った。ーーん?詳しく言える?ーーもちろん。難民としてオランダに来る前は「医者になりたい」とか「有名になりたい」、そんな大きな夢を持っていたのに、いつの間にか、環境が変わり、移り住んで来たことにより、「家がほしい」「仕事がほしい」という我々が普段当たり前に思っている事に変化している現状に気がついた。そんな難民と社会の関係、そしてその環境による難民の夢の変化について分析を行った。その結果、現地の人と関わることがコミュニティーへの帰属意識を向上させ、難民のモチベーションを高く保つことにつながっていると彼女は結論づけた。

この分野の門外漢である筆者からしても、社会の中で問題を見つけるAyanaさんの目の付け所は本当に鋭い、そう感じた。環境が変われば生活環境も変わるが、それに人の心や精神状態の移り変わりを分析するあたり。特にその環境の変化を、文化やコミュニティーへの”Sense of Belonging(帰属意識)”に注目するところ、ユニークかつ、的を得ている。我々留学生も移り住んで生活していることを考えれば、”Sense of Belonging”には何かしら変化はあるだろう。難民だけではなく程度の違いはあれど、自分自身の心境の変化を捉え、理解することに近づくことができるかもしれない。

卒業論文の発表の様子

卒業式

−− 将来は何を? −−

筆者がこれを尋ねたとき、オランダに来た理由、学問分野の選択など上の質問がすべてつながるような感覚を得た。そのシーンを皆さんにも体験していただこう。

筆者 「将来は何をしたい?」
Ayanaさん 「NGOで難民に夢を与え直す仕事がしたい。難民のことはこれまで研究してきて、ずっと興味があるし、この人達を救いたいという感情もより一層強くなったんよ。」
筆者 「働くとしたらオランダ?それともヨーロッパの他の国?日本?」
Ayanaさん 「オランダだね。」(筆者心の声:おおっ、即答やね)
Ayanaさん 「オランダはSocial Workersとして働いている人が多いし、多様なバックグラウンドの人を受け入れる社会の環境が整っているの。だからNGOもたくさんあるし、NGOの活動を行っていく上で達成できることがたくさんあると思うの。こういう活動は、本当に社会学の原点。色んな人を観察して、色んな視点から、多角的に物事を問題を発見し、解決に貢献したい。それを叶える土壌が整ってる場所として、これ以上の場所はないと思う。それにオランダはその分野では最先端だから、ここで達成できたら、世界中に発信していけると思う。」

はい、涙。箱ティッシュから最後の一枚を使い果たし、余った箱で涙を拭うこともためらわないくらいの感動。人の夢を聞いて、こんなに心を揺すぶられるとは思っていなかった。専門は違うし、友達歴もまだ2年、電話越しの会話だけど、なんか武者震いというか、夢の大きさとそれに向かって努力する彼女の姿が、目に浮かんだ。「すごい」という浅はかな一言で表したくない、そう思うと言葉が出なかった。

−− 海外に留学して利点だと感じたことと、困ったこと −−

おっと危ない。この記事は、筆者の個人日記ではなく、留学したい人への参考になる記事ということを、つい忘れるところだった。薄っぺらい事務的な質問かもしれないが、という前置きを入れて、留学して良かったことと困ったことを聞いてみた。

留学の利点は、明らかだが、海外でないと勉強できないようなことがある。色んな人と触れて、当たり前だと思っていたことが変わった。よく聞く答えだが、彼女の言葉には裏付けを感じる。困ったことについては、あまりない様子だったが、数十秒考えて一つ教えてくれた。大学院のカリキュラムは英語だが、外部の人と関わる際にオランダ語でのワークショップなどがあり、言語の壁を感じることが数回あった。学科の友達にもオランダ人が多く、教室内で話しているオランダ語についていけない事があったそうだ。

どちらも筆者は大共感。でも彼女、現在オランダ語を勉強中で、こんな悩みも前向きに解決を目指している。ここにもAyanaさんのポジティブな人間性の素晴らしさを垣間見た。

−− これから留学を考える人へ −−

最後に、筆者の尊敬するAyanaさんに、これから留学をしたい人へのメッセージをお願いした。

「留学は絶対行ったほうがいい」って思ってる人もいるけど、すべての人にいいとは思わない。でも少しでも迷いがあるなら、絶対行ったほうがいい、人間として成長できるから。思いも寄らないチャンスがあるし、自分が何をしたいのか、自分がどんな人間なのか、わかるきっかけになるかも。

この電話による対談は、彼女の話に惹き込まれた筆者のせいで、2時間にも渡ったが、彼女自身もとても楽しんでいた様子だった。改めて、インタビュー協力ありがとう。筆者は全力で彼女の夢を応援するとともに、この記事を読んで、彼女の素晴らしさに感化され、少しでも留学したい人の参考になればそれだけで満足です。

*この話は筆者の涙の話以外non-fictionです。

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