脳外科用手術ロボット開発に向けたアメリカ大学院受験【海外大学院受験記2021-#1】
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XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。初回である今回は、この秋からアメリカ・マサチューセッツ州のWorcester Polytechnic Institute(WPI)の博士課程に進学して手術用ロボットの研究に携わられる予定のRyo Murakamiさんに寄稿していただきました。
こんにちは。Ryo Murakamiと申します。医療機器、特に脳外科用の手術ロボット開発が行いたく、この度出願を行いました。現在は外資系医療機器メーカーの日本法人にて工学とビジネスを結びつけるような業務を行っています。自分の場合、1.社会人からの留学、2. 研究テーマをかなり絞って出願校を決める場合の絞り方の2点について特に読んで頂ける方のお役に立てばと思っています。
元々、留学には興味がありましたが、日本で修士を取るまでは「自分の研究分野は日本も海外もそれほどレベル差がない」と考えて日本で研究を行っていました。実際にこの考えは、必ずしも間違いではないと思います。しかし、その後「実際の医療機器に早く触れてみたい」という思いから医療機器メーカーに就職すると、医療機器業界におけるアメリカの圧倒的強さを感じました。
医療機器分野においては、全体としてアメリカのほうが現時点は優れていることを認めざるをえない状況です。脳外科用の手術ロボットの開発に関わりたいという思いは常にありましたので、それであればアメリカでPhDを取り、世界で通用するエンジニアとして目指す手術ロボット開発を行おうと考え、出願に至りました。
日本の大学では、ロボット技術と微細加工技術を活用した新しいタイプの血液検査システムの開発を行っていました。この経験を通して、制御全般と画像解析を含めたロボット操作について技術を身につけられたと思っております。医療機器メーカーは二社経験させて頂きましたが、一社目では医療機器周りの国の規制や治験について、二社目では医療機器をビジネスとして成り立たせる方法について経験・知識を得ることができました。この社会人での経験も大学院での研究に活きると考えています。
苦労した点:社会人生活をしながらの出願準備ということで、準備のための時間を確保することは簡単ではありませんでした。特にTOEFLやGREの対策はコツコツと行う必要があるため、何とかペースを保てるように意識しました。気をつけた点としては、一週間のうち平日が5日を占めるのでこの平日をいかに活用できるかを考え、短い時間でも平日にコツコツと対策を続けられるようにしました。
うまくいった点:「6. 進学先選びについて」で示しますが、進学校選びはかなり納得できる決断をできたと考えています。社会人ということである意味時間をかけて進学校調査を行うことができ、この結果につながったと思います。色々と準備が大変な海外大学院受験ではありますが、進学校選びは早くに始めるに越したことはないと思いますし、とことん拘るべきポイントであると思います。
ずっと日本で工学を勉強してきた者としては英語は苦手な方ではありませんでしたが、やはり英会話を始めるときはかなりのハードルがありました。大学4回生からDMM英会話を始めて大きく話せるようになりましたので、ぜひおすすめしたいです。英語力の底上げ自体はTOEFLの対策を行う中で自然に行えたかと思います。
TOEFL:単語はアプリに自作のリストを作り込み、ひたすら勉強していました。アゴス中山先生のアプリ*1もおすすめですし、自作の場合はAnki*2を使用していました。リスニングは、Podcastなどでできるだけ楽しく鍛えて、ライティングとスピーキングはひたすら型を身に着けて少しずつ応用していきました。最終的には、R: 28、L: 30、W: 26、S: 22 でトータル106という結果でした。
GRE:実は、PhD受験の前にMBA受験も検討していた時期があり、GMAT*3対策を行っていました。VerbalとMathは基本的にGMATの方が難易度が高く、GMATでの経験をベースにしながらGREについては公式問題集を用いて対策しました。ただし、私の受験タイミングではCOVID-19の影響により、GRE提出自体が免除されており、実質的に合否には影響しませんでした。
奨学金:日本学生支援機構(JASSO)さんがリスト化してくださっている奨学金を中心に自分が応募できる奨学金には基本的にすべて応募しました。(25歳以下の年齢制限や、大学院に在籍していることなど条件が課せられている奨学金が意外と多く、選択肢は想定より絞られました)
SoP:自分で素案を作り、英語の部分についてはネイティブの方のチェックを受けました。Grammary*4が本当に便利でした。おすすめです。ありきたりではありますが、いろいろな方の目線で見てもらうことを意識し、わかりやすい表現を心がけました。
推薦状:自分の日本の大学での指導教員、当時の共同研究先の教授を中心にお願いいたしました。幸い皆様快く引き受けてくださりました。自分の場合、出願校が1校だけであったため、推薦者の方への負担は複数出願する場合と比較すると少ない方であったかと思いますが、それでも一つの推薦状を作り上げ、それを出願のシステムにアップロードして頂く作業は非常に負荷が大きいと思います。基本的には複数校出願される方が多いかと思いますので、推薦状をお願いする先生方との早期の関係性構築は重要と思いますし、準備が早すぎるということはないかと思います。
「絶対に脳外科用手術ロボットの開発が行える研究室を選ぶ」という思いで研究室探しを行いました。結果として、Worcester Polytechnic Institute(WPI)という大学で研究を行いたいと思い、1校出願で幸いにも合格を頂くことができました。
WPIに出逢うまでは、いろいろなアプローチで調査を行いましたが、最終的にWPIにたどり着くきっかけになったのは、脳外科の先生と脳外科に対して工学的にアプローチを行う先生方にお話を伺ったことです。出願先は海外の大学ではありますが、日本の同じ分野の先生は国際学会などで海外の大学の先生についても把握されているので、うまくお話を伺うことができれば非常に有力な情報を得ることができます。自分の場合はグリオーマという病気を治すことが最終的な目的ですので、医学的な観点も入れ込みながら「どのように工学からアプローチするか」について検討を行いました。特に工学的に面白くとも最終的に治療にインパクトがないと思えば選択肢からは外すようにしました。
私自身の体験からお伝えしたいことは、「PhD留学の場合、本当に研究テーマをこだわって進学先選びを行ったほうがいい」ということです。もちろん、これはある程度明確にやりたい研究がある人へのコメントになるのですが、研究室選びをしていると、「ある程度やりたいことに当てはまる研究室」がたくさん出てくるかと思います。また厄介なことに、大学ランキングが公表されているので、ランキングに引っ張られながら決めてしまう部分があるかと思います。もちろんランキングは重要な指標だと思いますが、5年間ほど研究を行う環境を選ぶことや、その後の自分の分野をある程度規定する選択になるので、「やりたいことをできる環境」をわがままに探し続けていくことが重要と思います。
また海外大学院出願を経験した先人の方々はそれぞれ苦労があっただけに、本当に今から出願しようとしている人に対して力を貸してくださいます。私自身も多くの先輩方に本当に助けていただきました。ぜひ、いい意味で遠慮せず助けを求めていってください。もちろん、私がお役に立てることがあればいつでもお力になれればと思いますので、お気軽にご連絡ください!
そして、頑張りすぎず頑張ってください!
(編注)