アメリカ学部留学生のアメリカ大学院受験~目指せ! 移動時間から解放された社会~【海外大学院受験記2021-#12】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第12回である今回は、この秋からアメリカ・イリノイ州のUniversity of Illinois, Urbana-Champaignの航空宇宙工学科の博士課程に進学予定の湯浅さんに寄稿していただきました。

(湯淺さんを含む、学部留学後の大学院留学を経験した方の特集記事が公開されているので、そちらも合わせてお読みください)

 こんにちは!この2021年5月にUniversity of Wisconsin-MadisonのEngineering Mechanics with Astronautics Option専攻を卒業し、秋からUniversity of Illinois Urbana-ChampaignのDepartment of Aerospace EngineeringのTran Research Groupで修士/博士課程に進学する湯淺幹久です。国内大から海外大学院出願をする人が多いと思いますが、今回はアメリカの学部から同国大学院に出願した場合、どういった感じになるのか私の経験を共有したいと思います。内容としては、専攻を変えて出願する人達の手助けになれたり、これからアメリカ大学院受験する人の心理的ハードルを下げたりできればと思います。

目次

1. 大学院留学を志した理由・きっかけ

アメリカの大学院進学をぼんやりと考え始めたのは高校生の頃でした。その頃は「東京とNYC間を5時間で飛べる極超音速旅客機を作りたい!」という願望があったのと、NASAジェット推進研究所の小野雅裕さんの記事を読んで、「航空宇宙分野で研究するならアメリカの大学院や!」くらいの動機でした。その後紆余曲折を経て、高校2年次に米国カンザス州に交換留学したり、当時中高大一貫で進学予定だった慶應理工の先生方に「アメリカに行けるなら、なるべく早く行った方がいい」との助言をいただいたりして、高校卒業後にウィスコンシン大学マディソン校の工学部に進学しました。

大学進学後、Professor Jennifer Franckの数値流体力学研究室やProfessor Bin Ranの自動運転車・高速道研究室にそれぞれ大学1年次と3年次から所属し自分の興味を探っていくうちに、実際にやりたいのは「極超音速旅客機の開発」ではなくて「移動時間から解放された社会の実現」だったと気付きました。具体的には、多国間の移動時間は主に入出国管理や検疫などの法的制限が左右する事がしばしばで、そもそも世の中の大多数の人にとって国境を越えた移動自体が稀です。それよりも、日々の通勤通学の乗換えや待ち時間の短縮や渋滞の解消をしたり、国内での交通による地域間格差を解消したりする方が、人々の生活に直結した貢献ができるのではないかと考えました。その為に、最近流行りの自動運転も含め、この世のあらゆる陸海空の乗り物を自動化し円滑に連携できる交通システムを作りたいと思いました。

こういう流れで結局流体力学ではなく交通の自動化を研究したくなった訳ですが、自動運転や機械学習分野でも「アメリカの科学技術は世界一ィィィ!」なのでアメリカの大学院に絞って出願しました(生活費も貰えますし)。しかし次のセクションで詳述しますが、特に財政支援面で専攻を変えての出願が思ったより大変でした。

日暮れに湖を望んでウィスコンシン名物のDeep Fried Cheese Curdsを肴にSpotted Cowを飲むのが、粋なマディソンっ子の夏の過ごし方。Photo by Mikihisa Yuasa

2. アメリカ大学院出願で苦労した点

この記事をご覧になる皆さんは既にご存知かと思いますが、アメリカの大学院に出願する場合、研究経験がものを言います。自分の場合は幸い数値流体力学研究室の方で、出願時には国際学会(American Physical Society Division of Fluid Dynamics)で筆頭著者としての発表1回と同じく筆頭著者として執筆中の論文が1つあり、研究経験としてアピールできました。しかし、ロボット工学や機械学習関係の経験がなかったのでポテンシャル採用狙いで出願戦略を組むことになりました。それでも数値流体力学への愛着を捨てたくないという愛着もあったので、全体的にどっち付かずな感じの志望理由書(Statement of Purpose)や面接でのやり取りになってしまった気がします。結果的にはそこら辺も踏まえて合格を出してくれた進学先研究室の教授に感謝しています。

二つ目の苦労した点としては、合格後も財政支援が確定していなかったことです。2月時点でUIUCとUCLAの修士・博士の合格は頂いてたのですが、どちらも「学費免除と生活費支給してくれる教授探してね、見つからなかったら学費全額払ってね(大意)」といった感じだったので、合格後のVirtual Visit Dayやメールでまだ学生を採っている教授に猛プッシュしたりしました。結果的に、私の興味と研究内容がドンピシャだったUIUCの教授に採って貰えてラッキーでした(航空宇宙工学科の中でバリバリの強化学習の交通への応用研究をしている人だったので競争率が低かった)。

もう一つの苦労した点は奨学金の出願でした。アメリカの学部に通う日本国籍保持者向けの奨学金制度自体が少なく、競争率も高い為、結果的に4つ受けて3つ落ちました(残り1つは結果待ち中)。そして日本語での作文能力が高校止まりな上に、周りで日本語を添削してもらえる人がいなかったのも辛かったです。

3. アメリカ大学院出願で上手くいった点

うまくいった点としては、出願のタイムラインをかなり時間的、心理的余裕を持って構築できた点だと思います。研究自体を1年生から始め、2つの研究室でそこそこの成果を出していた為、2通の堅い推薦状を確保できましたし、教授達も推薦状執筆に慣れていた為スムーズに進められました。英語学習についても、GREに関しては4年間のアメリカ学部生活もありManhattan Prep*1の500 Essential Words と500 Advanced Wordsの単語を1ヶ月で詰めて1回の受験で提出して問題ない点数を取れて、TOEFLは受験免除されました*2。そしてStatement of Purposeは、XPLANEさんのSoP執筆支援プロトタイプに参加させていただき10月までにはほぼほぼ内容が固まっていたのと(ありがとうございました)、研究室の院生メンバーに多角的にネイティブチェックをしてもらえたので心理的にも余裕ができました。

ちなみにどういう風な出願タイムラインだったのか気になる方は、下の図1にまとめましたのでご覧いただければと思います。

図1. 出願タイムライン

4. 研究室選び、進学先選びについて

個人的に、出願全般を指導してくれた数値流体力学研究室の教授のアドバイスの中で一番印象に残ったのが研究室選びと進学先選びだったので、独立したセクションで書きたいと思います。

私が本格的に研究室探しをしていたのは2020年の3月から8月にかけてなのですが、興味のあるプログラムが大体15校くらいあり、現実的な数(8校)へ絞るのに難儀していました。そこで教授に言われたのが:

At the end of the day, you have to cast a net and cross your fingers to catch good ones! In my case, I only applied for schools in California.

で、「えっ、そんな選び方でいいんだ」とかなり気が楽になり、真っ先にウィスコンシンより寒い州にある学校を外しました(i.e. 冬に気温が-30℃まで下がる学校)。その後、治安や街の雰囲気などの要素も勘案して出願校を決定しました。

5. 今後海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

これからアメリカの大学院への出願を考えている大学生の方々にアドバイスがあるとすれば以下のようになると思います。

奨学金は積極的に獲りに行く

奨学金があるのないのとでは、志望先の教授に連絡した時の反応が違ってきます。私の場合1校、「奨学金が確保できたら合格出せる」と言われた学校があったのですが、結局取れなかったので悔しかったです。個人的に感じた出願書類の影響度は以下です。

推薦状 = 研究実績 > 奨学金の有無 > 志望理由書(Statement of Purpose)= コネクション > GPA >> GRE

なので、奨学金がなくても十分合格はできますが、奨学金があった方が精神衛生上楽になると思います。

一校合格すれば上々

アメリカでの大学院出願は(主に研究室で雇用される場合)、半分就活みたいなところがあって、合格した数ではなくて、教授と出願者がお互いに「一緒に働きたいな」とマッチングできるかどうかがより重要です。なので、皆さんの受験プレッシャーが辛い時は「1校受かればいいや」というくらい気楽になっていいと思います。

とりあえず教授にメールを送ってみる

色々な受験記で「志望先の教授に連絡してコネクションを作ろう!」という話がありますが、中には「何書いたらいいかわからないし、私行動力お化けじゃないし……。」と思う方もいるかもしれません。そんな時はとりあえず「来年学生取る予定あるか、自分の在学中に移籍・引退の可能性がないか」「アメリカ国籍を持っていない留学生でもプロジェクトに携われるか*3」くらいの内容で始めると、段々心理的な抵抗が減ってくると思います。そして「今度学会発表するから興味あったらリンクしたプレゼン見てください」みたいな内容も、その教授がその学会に参加する場合に有効です。

他の進路も考えてOK

もし出願準備中、「海外大学院に合格できなかったらお終いだ。」というように思い詰め始めたら、一歩下がって他の進路を考えるのもいいと思います。海外大学院に行くから優秀だとかアメリカに行けば幸せになれるとかそういう話ではなく、あくまで数ある選択肢の中の一つとして捉えた方が、心が軽くなるのではないかと思います。私自身、大学院進学は「移動時間に縛られない社会」という夢を実現する為に現状で考えられる一番いい手段であって、将来的に修士だけ取って卒業するのか博士までやるのかは今後大学院で探っていくつもりです。とは言え、こんな事を言っていても数年後結局コンサルとかマグロ漁、蒔絵職人とか、全然今の夢に関係ないことに目覚めているかもしれないので、柔軟に生きていけたらと思います。

そしてもし、この記事を読んでいる中に現在高校生でアメリカの大学院に行きたい方がいたら、

アメリカの大学学部への正規留学を検討する

最近では日本国内のプログラムでも大学2年や3年からSTEM関係の研究ができる学校が増えてきましたが未だに少数です。大学院受験に備えて研究経験を積む為に、大学1、2年から研究できることが多いアメリカの大学に学部から正規留学を検討するのも一つの作戦かと思います。

最後に、海外大学院出願はマラソンと似て数年単位の長期戦です。なので根詰めすぎると途中でばててしまいますし一生に一度の大学生活ですので、目一杯楽しみながら勉強や研究に励んで行けば精神的に余裕が持てるのではないかと思います。そして目標はどれだけ大きくても誰も文句言わないので、でっかい夢を見つつ頑張っていければいいのではないかと思います。後は、既に大学院出願を経験した先人達に恐れず思いっきり手伝ってもらいましょう。私に質問、相談などございましたら、XPLANEのSlackのDMかmyuasa2 (at) Illinois (dot) eduに連絡してもらえれば幸いです。

(個人ブログの方で、もっと細かい大学院受験の話やアメリカでの大学受験の話を今後していく予定なのでもしご興味があればご覧ください。→ https://miki-yuasa.github.io/blog/

(編注)

*1  GREなどの様々な試験対策を専門にしているアメリカの会社。https://www.manhattanprep.com/
*2  アメリカの大学院では、同国の学部出身である場合TOEFLやIELTSなどの英語力を示すための試験が免除する規定を設けていることも多いです。
*3  航空宇宙分野の特定分野(高速流体や大気圏再突入など)、特に軍から予算が出ているプロジェクトに関しては、携わるために市民権や永住権が必要なことがあります。
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