極超音速飛機の開発を目指し、会社を辞めてイギリスの航空宇宙PhDに挑戦!【海外大学院受験記2021-#15】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第15回である今回は、この秋から英国Imperial College Londonの博士課程(航空宇宙工学)に進学予定の一輝さんに寄稿していただきました。

1. 自己紹介

初めまして、2021年10月からImperial College London(ICL)のAeronauticsへPhD進学をする一輝(Twitter:@kkzw3308)です。9月にロンドンへ渡航してきましたが、東京からフライトが約12時間かかり、とても大変でした笑。PhD研究では東京からロンドンまで約12時間かかるフライトを数時間で移動できるような、世界中をあっという間に飛び回れるとてつもなく速い飛行機(極超音速旅客機)を実現させるために、極超音速流れの実験的研究ができるICLのPhDに出願しました。
現在(2021年9月)まで、私は修士を卒業してから2年半の間、某重工メーカーで航空関係に関する研究開発をしておりました。社会人からの出願のタイムラインも踏まえ、どのように出願して合格まで至ったのか共有できたらと思い投稿させていただきました。

2. 大学院受験を志した理由・きっかけ

私は、東北大の学部・修士の時から超音速旅客機を実現させるための高速流体流れを研究しておりました。修士の時は幸運にもドイツ・アーヘン工科大学で超音速流れに関する修士研究を1年間行える機会があり、海外で研究する雰囲気を知ることができました(海外克服)。卒業後は、某重工へ一度就職したものの、仕事をしている中で世界をリードして極超音速旅客機を実現させたい気持ちが強くなり、

将来、そのような分野のリーディングカンパニーまたは研究所に所属し夢を実現させるために、

自分の専門分野が最も進む大学にて博士課程を通じ研究をするために、

海外の大学院を志しました。

また留学した当時アーヘン工科大学では社会人を経てドクターをする方が普通にいることを知り、社会人からの進学に抵抗はありませんでした。(アメリカも同様だと聞いております。)また、欧米で研究開発を行うためには、PhDを持っていることはアドバンテージです。私は、将来の目標を熟考するために、PhDを行う前に一度企業で働く経験ができてラッキーだったと思っています。

3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

1.2.で軽く触れましたが、出願前は社会人として企業で航空機に関する研究開発を行ってました。入社以前は、学部と修士ともに東北大学の航空宇宙工学に所属してました。当時は、高速流体中に生じる衝撃波に関する研究を行いました。しかしながら、会社では、極超音速・超音速流れにほとんど触れておらず、低速〜亜音速までの空気に関して仕事を行っていました。ですので、PhDでは、再び学部や修士で取り組んでいた内容に近い研究となります。

4. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点・エピソード

苦労した点(大変順)

① 英語のスコアを上げること(一番大変でした)(後述) ② 出願書類の作成

どんな書類にも充実した内容を記載する必要があり、またそれを表現する英語力も必要でしたので苦労しました。個人的には、日本語での書類ですが奨学金の応募書類も特に大変でした。願書に関するTipsはXPLANEのセミナーやSlackで情報を集めました。

③ モチベーション・時間の捻出

18時くらいまで毎日仕事をしつつ、準備をすることは大変でした。私は出願(2021年1月)する前年の2020年6月くらいから準備を始めました。しかしながら、約半年の間、英語の勉強と出願書類作成のために平日は夜遅くまでに加え、土日もフルで使っていたため、気持ちが落ち込んだ時期もありました。特に奨学金が一度全落ちした時期があり、その時はメンタルが完全にやられました。ただ、全落ちの場合は給付型のPhDポジションに応募または、JASSOから借金をしようと思っていたので、この世の終わりとまでは感じませんでした。 準備から出願を通じ全体的にモチベーションを保てた理由としては、PhD研究から得られる知識・経験や、卒業後の選択肢からしてもPhDを獲得することは自分にとって完全に明白なメリットがあったからです。それでも、真面目に考えすぎると疲れてしまうこともあったので、気を紛らわすために最悪、どこか引っかかるだろうと楽観的に思うようにしていました笑。

 

上手くいった点

  • 推薦書

推薦状を書いてもらう先生を探すことに関しては、幸い私の場合、東北大の指導教授、アーヘン工科大学の教授、エコールサントラルリヨン(過去にインターンシップを行った際の指導教官)の准教授にお願いできました。しかしながら、3人とも忙しかったため、それぞれ私が推薦状の内容を考え、内容を確認してもらったのち、そこにサインしてもらう形を取りました。内容について考えることは大変でしたが、私がリードして考えることができたので、推薦書の内容は私にとってよい形に仕上げられました。

  • 先輩や友達

メンター的存在の先輩や何でも話せる友達がいたことが気持ちを保つ上で大きかったと思います。特に辛いことを話せる人や、PhDを取ることについて話をすることはモチベーションとメンタルを保つために個人的には必要不可欠でした。XPLANEではモチベーションが高い方や同じ受験生が多いので、積極的に交流をすることが良いと思います。

もっとこうした方が良かったと思うこと

XPLANEの方々ともっと積極的に関わるべきだったと思いました。私は自分に必要なセミナー等のイベントにしか参加しませんでしたが、同じ受験生やPhD在学生が一番情報を持っているので、情報という意味でも、仲間という意味でも交流がたくさんあった方が良いと思いました。

 

 

5. 英語の勉強に関して

ドイツに1年の留学経験があるものの、英語はめちゃくちゃで、はじめは絶望的でした。準備できる時間が長ければ、長いほど良いと思います。私の場合、6月から準備をはじめ、奨学金のアプライもあるの11月まで、毎日2-3時間は必ず勉強してました。特にスピーキングについては、Cafetalkというサイトで、適当な先生を見つけ、練習をしました。他の3技能については、私は英語が得意ではないので、とにかく量をこなす戦法で行きました笑。結局スコアとしては、IELTS5.5から始まり、出願時には6.5でした。目標の7.0には11月まででは到達できませんでした。幸いICLの場合、minimumが6.5なので問題ありませんでした。

6. テスト(IELTS)の対策 

合計4回、通常のIELTSを受験しました。個人的には朝に強くなった方が良いというコツ以外はないので、他の方の情報を参考にしていただけましたら幸いです。

7. 出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)

奨学金について

社会人から応募できる奨学金は残念ながら多くはありません。私が出願したのは以下になります。
① 中島記念国際交流財団:繰り上げ合格 → ICL進学に使用
② DAAD*1:合格(アーヘン工科大学で出願)→ 辞退
③ 船井情報科学:書類落ち
④ 平和中島財団:結局書類準備が間に合わず出願できなかった。
⑤ JASSO: IELTSの点数が0.5足りないまま無理に出しましたが、書類落ち(英語のスコア大事ですね。。。)

SoPについて

私は奨学金の獲得が先でしたので、獲得したのちにICLの先生にコンタクトを取りアンオフィシャルなミーティングで進学のOKをもらいました。ですので、それほどSoP作成にはプレッシャーがありませんでした。SoPの内容としては奨学金の申請書類で書いた内容をベースとして、まとめました。その際、XPLANEのSoP執筆記事も非常に参考にしました。

推薦書について

4.で記載した先生にお願いしました。ただし、内容はベースを自分で考えたのち、PhD保持者の先輩やPhD在籍中の先輩に見てもらったのち、先生方にお願いしました。時間が限られていたため、大変だった記憶があります。個人的には、推薦書は自分という人に対するギャランティーだと考えていたので、重要なものだと考えていました。内容については、基本的に奨学金と大学出願は同じ推薦書を使いました。作成上気をつけた点として、お願いする先生によっては「ただ推薦書にサインしてほしい」と依頼することは失礼ですので、あらかじめ確認をとっておきました。

8. 進学先選びについて

航空宇宙分野の中の、衝撃波を伴う高速気体力学という分野が強い、欧州の大学・研究所から選びました。出願した先としては以下となります。(順番は時系列)


① ドイツ航空宇宙センター(DLR)

最終面接落ち。Marie Skłodowska Curie Actions (MSCA)というファンドを持つポジションに直接応募をしました。

② フランス国立宇宙研究所(ONERA)

面接前の書類落ち、同様にMSCAファンド

③ スウェーデン王立工科大学(KTH)

合格、同様にMSCAファンド 

→ 非常に魅力的でしたが超音速飛行機のジェットの音響解析の内容となり、若干自分の興味とは異なっていたため辞退

④ ドイツ アーヘン工科大学(RWTH Aachen)

DAADに合格したら入学許可をいただく話だったので合格(修士研究でいたラボ)

→ 環境は良かったのですが辞退

⑤ イギリス Imperial College London

合格(進学先)。奨学金によって、生活費と授業料を賄えると伝えたのち、アンオフィシャルなzoomで行いたい研究について議論を行った。Zoomミーティングの最後に直接入学許可を頂けました。その後、改めて他の先生も交えオフィシャルな面接もありましたが、研究についての議論で特別な対策等はしませんでした。

他にも、高速流体が強い米国の大学も検討しましたが、修士をもう一度やること、準備時間が足りない中で、受験しても良い結果にはならないと思いやめました。欧州を選ぶポジティブな理由としては、ヨーロッパが好きなこと、ヨーロッパにも航空系の企業や研究所が沢山あること、ドイツ留学時の友達が多いこと、特にICLには新たに極超音速風洞が今年できることなど、良い点もたくさんあるため、ICLにしました。(アメリカでは恐らく軍事の関係につながってしまうため極超音速流れの実験的研究はできないと思います。)

9. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

受験準備をする際に働いていた場合、時間がかなり大変ですので、スケジュール管理がとても大切だと思います。応募書類に関して、自分の強みが何かを軸にした一貫性の持つ書類を準備すると、その後の面接でも内容が整理されている状態になるので、良いと思います。また社会人から受験を考えている場合、働いた経験は面接やSoPでアドバンテージになると私は考えてます。例えば私の場合、2.5年働いた中で実際の航空機エンジンの設計やそのタイムライン、航空系企業の価値観について培えたことで、PhDで研究をする際により幅広い視野で研究の立ち位置や方向性を考えることができる、とアピールしました。(余談ですが、会社を辞める時はとても悩みました。)

個人的に一番大事だと思うことは、繰り返しとなりますがXPLANE内外問わず、メンター的存在を見つけることと、辛い気持ちを共有できる仲間を見つけることだと思います。また、落ちた時はしょうがないことですので、準備をする際は“自分はどこかしら受かる“というメンタルでいるのが良いと思います。出願自体は大変ですが、出願を通じて成長する部分もあると思うので、みなさん頑張ってください(先輩からの受け売り)!

(編注)

*1 ドイツ学術交流会(Der Deutsche Akademische Austauschdienst)が募集している、大学院生を含む優秀な若手研究者・芸術家などをドイツに招聘するための奨学金制度。

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