XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第3回の今回は、数学専攻でこの秋から米国インディアナ州のPurdue大学(IUPUIキャンパス)の博士課程に進学される宮原健太さんに寄稿していただきました。
こんにちは、現在早稲田の数学応用数理専攻で修士1年をしている宮原健太です。僕は今年の秋からアメリカのインディアナ州インディアナポリスにあるPurdue大学IUPUIキャンパスでPhDを始めるのですが、去年自分が体感したところだと数学専攻で学部卒業後すぐに海外大学院を受験する人は非常に少ないと思います。なので、今回は受験者全体に役立ちそうなことはもちろん、数学ならではの事情についても触れていければと思います。
目次
大学院留学を志した理由・きっかけ
僕は数学と言っても可積分系*1と微分幾何という結構ニッチな分野を専攻しています。可積分系の魅力について書いていると文字数がすごいことになりそうなのでここではスキップしますが、オーストラリアのシドニー大学にはこの可積分系の大家として知られているNalini Joshi教授がいらっしゃって、僕はぜひNalini先生の講義を受けたかったので、大学3年時にシドニー大学に一年間交換留学することにしました。交換留学期間中は友人に恵まれ、放課後生徒同士で集まって勉強会をするなど非常に楽しい毎日が続き、当時優秀な学生(Honours)向けの授業しか担当していなかったNalini先生の数理物理の授業にも頼み込んで参加することが出来ました。僕はこの授業内でNalini先生が紹介してくれる問題への様々なアプローチに感動して、大学院でもこういった研究を続けていきたいと思ったのが大学院留学を志すきっかけだったと思います。もちろん日本にも有名な可積分系の専門家はいらっしゃるのですが、例えば自分が合格を頂いたPurdue (IUPUI)やLeedsには多くの可積分系の専門家がいて、大学内に可積分系のグループが存在しています。こういった、より自分の専門に手厚い環境で研究が出来れば、それ以上に楽しいことはないだろうと思い、海外大学院受験へと邁進したという感じです。
海外大学院出願で苦労した点
これは日本での奨学金応募でした。前提として、海外のPhDはTA付きのofferや、もっといい場合は奨学金付きのofferをくれると言われているので、ほぼ無料で卒業まで到達できると考えられていますが、これは結構国や人による部分が大きいと思います。ある程度お金を自分で持っていく方が大学側の負担は減りますし、国内で奨学金を取れるということでその人の対外的な評価も上がるはずです。僕がLeeds大学の担当者と話した感覚だと、実際イギリスの大学はこちらが奨学金を持っているとかなり合格しやすいようです。なので、日本から奨学金を獲得して持っていくことは非常に重要なのですが、周りの競争相手がニッチな数学という私の分野と比べると実用的な分野専攻の化け物級の出来る人達だらけなので、日本国内で奨学金を取るのが至難の業です。僕はXPLANEのウェブサイトに載っている中で自分が出せる奨学金すべてに出願したので、合計8個に出願しましたが、2財団の書類選考は通過できたものの6財団からは書類選考のスクリーニングで落とされてしまいました。僕は幸い書類選考を通過した2つの内の1財団より採用通知を頂きましたが、振り返ってみるとこの奨学金申請が精神的にも体力的にも昨年の受験生活の中で最も大変だった気がします。
海外大学院出願で上手くいった点
一方で良かったのは、海外大学院受験が失敗した時のためにリスクヘッジとして早稲田の修士課程に一般受験して合格しておいたということです。早稲田合格後は僕にはどう転んでも早稲田があると思えていたので、海外でも本当に行きたい大学しか受験しませんでしたし、結構ストレスも少なく受験生活を送れたと思います。ただ日本の大学院を一般受験するとなると、受験勉強も多くしないといけないのでそれはそれで大変です。僕の友人にも日本の大学院は受験しないで海外のみを受験している人もいました。そのあたりの判断は人それぞれだとは思いますが、僕はなるべく自分にストレスがかかりすぎないように自らマネジメントするのが大切だと思っています。
英語の勉強・テスト(TOEFL, IELTS, GRE)の対策
英語圏で大学院生をする上で、英語が思い通りに使えないとお話にならないという見方は正しいと思います。なので、「大学院受験でも使うTOEFL/IELTSなどの英語資格には時間をかけて取り組み、良いスコアを出したい」と考えている人も少なくないと思います。しかし、あえて僕は「実際のところ大学4年になって英語学習なんかあまりしていられないし、していたら自分の研究に支障をきたす」ということをここで注意しておきたいと思います。僕の場合は受験までに自分で論文執筆も出来ていませんし、学会発表等もしていません。なので研究をあまりやってきていないように見えますが、実は毎日本を読んで論文を読んで毎週ゼミで発表してといういわゆる「本業」をしていたり、ワークショップに出たり海外の先生による集中講義に参加したりしていると、英語の勉強に割ける時間ってそれほどたくさんは残っていないです。僕は必要スコアを取るために大学4年になってもTOEFLやIELTSを受けていて大変だったので、特に学部卒業後すぐにPhDに進む人は大学3年生の内から英語学習に本腰を入れておくことをお勧めします。
TOEFL/IELTS: TOEFLは公式問題集を解いたり3800と言われる単語帳*2を繰り返しやったりして、コツコツ勉強していました。僕は元々帰国子女でもなく、大学3年生でシドニーに留学するまでずっと日本にいた人間で、英語は苦手な方だったのでTOEFLはかなり苦しみました。それこそ大学1年の時に最初に受けたTOEFLは77点でした。交換留学を経て自分なりにも頑張って対策したつもりでしたが数回受けても得点が92点~95点をうろちょろして、出願に必要だった100点まで伸びなかったので途中から慌ててIELTSに変更して頑張りました。幸いIELTSは一回目でOverall 7.5を取ることができ、IELTSだと出願に必要な得点は7.0だったので(僕の場合TOEFLで100かIELTSで7.0というのが基準でした)、ようやく基準を満たせたという経緯があります。IELTSもTOEFL同様王道な勉強しかしていません。僕の場合は世間で良いとされている3500という単語帳*3を回して過去問集を解くだけです。
GRE: GREはSubject*4がコロナのせいで中止になってしまったりスコアの提出自体optionalになったりして、結局一部の学校で提出が必要だったGRE Generalしか受けませんでしたが、一回模擬試験を受けてみて特にVerbalで得点が見込めそうになかったので、対策はほぼ何もしませんでした。結果はVerbal 142、Quantitative 168、Writing 3.0と決していいスコアではなかったので、時間に余裕のある人はちゃんと対策してやった方がいいと思います。特に数学専攻でQuantitativeが満点でないのは恥ずかしい(笑)。
出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)
奨学金とSoP:「海外大学院出願で苦労した点」でも記したように、奨学金応募にも書類選考というものが存在しています。それはちょうどSoPの日本語バージョンを作るようなイメージですが、SoPも含めこれらは「研究と自分が留学したいという熱意を伝える場」になってきます。詳しいことを書いていると字数を使いすぎてしまうので割愛しますが、僕が心掛けていたことは「日本で学ぶことと比べた時に、なぜ自分は海外をチョイスしたいのかをちゃんと意識して説得できるように書く」ということです。これは実は自分が海外留学を志したタイミングで参加した米国大学院学生会の先輩方からご指摘頂いたアドバイスですが、いくら可積分系がやりたいと言っていても、この教授がこんな研究をしていてだから僕はこの人のとこへ行って研究したいんだと考えて書くのと、ふわふわと留学したい理由を書くのでは雲泥の差になってしまいます。
推薦状:推薦状はたいてい自分と関わりのある教授に頼むのがセオリーで、大学院を受験する上で自分の能力を担保してもらうことが目的です。僕の分野では一般的に「指導教官+自分を良く知ってくれている2名の先生」に依頼するのですが、指導教官はもちろん自分の学部のゼミ等を見ているので推薦状は書きやすいので簡単にその役目を引き受けてもらえるものの、後二人を探すのが大変です。僕の場合は指導教官に加えて、授業でお世話になっていてかつ自分のやりたい研究に近い内容がご専門のお二人の教授に依頼しました。
進学先選びについて
僕は可積分系の専門家がいるところという絞り方で志望校を決めたので、アメリカとイギリスで合計7校とあまり多くの大学院を受験しませんでしたが、幸いにも3校(Purdue University at the IUPUI campus(PhD), University of Leeds(PhD), New York University(MSc))から合格を頂いたので、進学先を決める上では非常に迷いました。どの大学にも素晴らしい先生はいらっしゃいますし、奨学金等を出してくれる学校もあって全ての選択肢が魅力的でしたが、最終的には指導教官と研究に打ち込める環境で選びました。IUPUIにはAlexander Its先生という僕のやっている分野では超有名な教授がいて、その先生が自分の指導教官になってくれるということ、そしてTA付きのofferがもらえ、これからお金の心配をほとんどせずに研究に没頭できるということから、最終的にここに決めました。
これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス
僕は自分を贔屓目に見ても数学も英語もそれなりにしか出来ていない大学生です。昔から数学が出来て数学オリンピックとかに出てしまうような天才ではないですし、小学校の頃に英検1級を取ってしまうような神童エピソードもありません。それでも、意志があればある程度道は開けていくはずです。
もちろん海外大学院受験は準備することが沢山あってとてもストレスがかかるという辛さもあります。僕の場合はシドニーに留学していた時に知り合った友人が分野は違うものの同じタイミングで海外大学院を受験していたので、お互いに情報交換して刺激しあっていて結構それに助けられた点もありました。奨学金応募やCV作成時にはXPLANEのページも活用しました。
また早稲田の指導教官にはSoPの校正、メールの書き方など数学以外にも細かいところまでいろいろとチェックして頂きました。これから海外大学院を受験する皆さんも頑張って積極的に何かつかみ取ろうとしていれば、誰かがヒントをくれたりアドバイスをくれたりすると思います。その一つ一つにつぶさに向き合って努力していけば、何かしらの結果はついてくると思います。時間をかけてもいいと思います。自分の納得のいく進学をしてください。何か質問等あれば答えますので、kenta-m@toki.waseda.jpまでご連絡下さい。
(編注)
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