京都大学医学研究科博士課程2年の松本宙です。合成生物学という分野の研究をしています。10月からEuropean Molecular Biology Laboratory (EMBL)*1のInternational PhD Programmeに進学する予定です。
目次
大学院留学を志した理由・きっかけ
私は2015年、学部2年生の春に「アメリカのPhD課程では大学から学費も生活費ももらえる」という話を聞いたことをきっかけに海外大学院留学を目指し始めました。学部生として合成生物学の世界大会であるiGEM(The International Genetically Engineered Machine competition)*2に参加していたことから、当時は留学をしてみたい、早く海外で研究してみたい、という曖昧な希望は持っていたものの、金銭的な余裕がないことから学位留学は現実的な選択肢として考えていませんでした。そのため、アメリカのPhDには金銭面の心配がないことを聞いた時は霧が晴れたような思いだったことを覚えています。
その後、2017年度(学部4年時)、2019年度(修士2年時)と二度受験に失敗しましたが、2020年度に3回目にしてようやく学位留学の実現まで辿り着きました。もちろん研究者としてのキャリアはこれからですが、多くの方々のお陰でとても良いスタートを切れることをとても嬉しく思っています。
アメリカ大学院出願での失敗
私は2度受験に失敗しました。それぞれの不合格の理由は正確には分かりませんが、個人的に反省している点はたくさんあり、以下に共有させていただきますので、反面教師にしていただけると嬉しいです。
まず、学部4年時にはマサチューセッツ工科大学(MIT)にしか出願しなかったことが大きな反省です。MITは上述したiGEMの発祥の地でもあり、当時の私でも知っていた有名な研究者が数多く所属している憧れの場所だったことから「絶対にここに行きたい」と強く思っていました。興味のある研究をしている研究室にも実際に訪問して見学、研究発表をさせていただいたところ好感触だったのですが、書類選考で不合格となりました。
純粋な実力不足ももちろんあると思うのですが、いわゆる志望動機書であるStatement of Purpose(SoP)に、訪問した研究室のみへの興味を書いていたことも良くなかったかもしれないと今では思っています。生物系の多くの専攻では1年目に3つ程度の研究室を体験するlab rotationという制度があり、入学の際に所属する研究室が決まっているケースは少数です。そのため、SoPにも志望研究室を複数書くのが慣例となっています。選考委員も専攻の教員である以上、lab rotationをきっかけに自分の研究室に参加する可能性のある学生を合格させたいという気持ちも理解できます。また、lab rotationという制度を十分に活かせる、広い興味を持った学生の方がプログラムに適しているという考えもあるかもしれません。いずれにしても、最初のアメリカ大学院受験は1通の不合格メールであっさりと失敗に終わりました。
次に修士2年時の受験を志しました。修士2年時には合成生物学以外の研究経験も積むため、生物物理学の研究をしているフランスの先生の下で1ヶ月研究を行いました。これがきっかけで共同研究を開始し、修士2年時に共同研究者の先生が3ヶ月来日して一緒に実験を行なったり、私自身が再度フランスに行き実験手法などを学んだりして、国外の研究者から強力な推薦状をいただくことができました。出願までに論文などの業績には繋がりませんでしたが、出願書類は大きく改善したと思っていました。また、学部4年時にMIT単願だったことを猛省し、アメリカの大学院9校に出願しました。しかし、いずれもトップ校ばかりで競争は激しく、唯一UC Berkeleyの面接に呼んでいただいた以外は書類選考すら通過しませんでした。3月には全ての大学院から不合格通知を受け取りましたが、次々と不合格の連絡を受けながらも、最後の1校まで連絡を待ち続ける期間は本当に辛かったことをよく覚えています。
2回目の受験の最大の反省点としては、1回目の受験から十分な時間があったにもかかわらず、書類の準備がギリギリになってしまったことが挙げられます。これは実験をして推薦状の内容を充実させることに重点を置きすぎたことが原因だと考えています。恥ずかしながら本格的にSoPを書き始めたのは締め切り1ヶ月前頃からで、それぞれの研究室や将来の研究について熱意を持った文章を仕上げられなかったことは大きな後悔です。
三度目のアメリカ大学院出願(書類)
このように、思えば過去2回は落ちるべくして落ちたような気もしますが、最後の1回と決めて受験した2020年度にはなんとか合格をいただくことができました。前回までの受験と異なる点は複数あるので、合格をいただけた要因についても推測の域を出ませんが、最も大きいのは多くの方々に助けていただいたことだと考えています。
ギリギリまで書類準備を後回しにしてしまった2019年までとは違い、今回はXPLANEのSoP執筆支援によって9月から本格的に執筆を開始しました。この時、メンターのお二人が本当に真摯に向き合ってくださり、自分の強みとPhD取得までに成し遂げたいことを主張する方法を一緒に深く考えていただきました。ここで自分の将来について深く考えたこともきっかけとなり、今回進学することになったEMBLへの出願も思い立ちました。また、お二人から多くのアドバイスをいただきながら早めにSoPを形にできたことで、知り合いのネイティブの研究者や、アメリカで研究をされている先生にもご意見をいただく余裕があり、締め切りの12月初旬までにより完成度の高い書類を仕上げることができました。さらに、CVについても研究に関連する重要な情報が目に留まりやすいよう内容を取捨選択するとともに、デザイナーの友人にもアドバイスをもらいながら見やすさも改善していきました。
今回と前回のSoPで特に大きく変わった点は、書き方のトーンだと考えています。前回は情報として簡潔にまとめることを意識していましたが、今回は自分の研究への熱意と、これまでの経験の一貫性が伝わるように意識しました。また、読みやすくなるよう、奨学金の金額や年数などの細かい数字はCVに記入することも心がけました。最終的に何が奏功したかは分からないのですが、今年は5つのアメリカのプログラムに面接に呼んでいただきました。
三度目のアメリカ大学院出願(面接)
書類提出後から合格発表までの過程は分野によっても異なると思いますが、私が出願した分子生物学関連の分野においてはinterview weekend*3というシステムが一般的なようです。これは大学側の勧誘も兼ねており、多くの場合は3日ほどかけてプログラムの説明会や面接、交流会などが行われました。日程はそれぞれの大学から2-3つ提示されましたが、他の面接と重なった場合には個別で日程を用意してくれたプログラムもあり、相談に応じて日程の調整は可能という印象でした。これらはコロナ禍で全てZoom開催だったため、現地に赴かずに参加できるという点では良かったのですが、実際に街やキャンパスの雰囲気を知ることができなかったこと、時差の関係で日本時間の夜中に参加しなければいけなかったことが苦労した点です。特に時差については深刻で、ただでさえ緊張する先生方との1対1の面接を、夜中の2時や3時から3–5人と続けて行った後には、夜(日本時間の朝)の懇親会に参加する気力と体力が残っていなかったこともありました。面接では自分の研究の内容や経験について話した後に博士課程や博士号取得後に何をしたいかなどについて聞かれることが多かったです。自分の研究について世界トップの研究者たちと議論させていただけたことはとても楽しく、重要なフィードバックをもらえた場面もありました。また、多くの場合は面接の最後に、大学やプログラムなどについて何でも良いから質問がないか、と聞かれました。私は可能な時はプログラムについてと面接官の先生の研究について一つずつは質問が出来るよう用意していましたが、やはり研究に関する質問をすると反応が良かったような気がしました。
いずれも面接の手応え自体はそれほど悪くないと感じたのですが、結局アメリカの大学院で合格したのはジョンズホプキンス大学のみでした。全てのイベントに参加できなかったことが影響していたのかはわかりませんが、学生の給料を出せる財源の関係で、internationalの学生はごく少数しか取れないプログラムも多かったため(HPにはっきりと書いてある場合もあります)、狭き門をいくつも通れるほどの実力はなかったのだろうと感じています。
アメリカではなくヨーロッパへの進学を決めた理由
2020年度はアメリカの受験と並行してEMBLへの出願も行なっていました。書類の締切は10月半ば、最初のZoom面接が11月末、1月末から2月初めにかけてさらに面接がありました。書類を提出するときは少し軽い気持ちだったのですが、選考過程を経るにつれて、今の自分にはEMBLが最適だと思うようになりました。面接の内容はお話しできませんが、私が魅力的だと感じた点をいくつか挙げさせていただきます。大前提として、研究レベルに関しては、ジョンズホプキンス大学もEMBLも世界トップクラスであり、本当に面白い研究がたくさん行われています。純粋に研究のみの観点からではどちらかを選ぶのは難しかったと思います。
まず、EMBLの出願書類に関してですが、全て簡潔にまとめるよう字数制限が厳しく、かつ「お気に入りの論文とその理由」や「普段どのように論文を読んでいるか」などの質問から研究者の性質を評価された印象が強いことに惹かれました。また、EMBLには2つの研究室間での研究を行う研究員のポジションが用意されるなど、共同研究を強く推進する風土もあります。このような、自分の好きな研究について気軽に議論し、学際的な研究を始める機会の多い環境で研究をしたいという思いも強く持っていました。
さらに、メンターとなるSinem Saka博士は1月からEMBLで新しく研究室を開始しました。立ち上げ時期の研究室に参加できることはとても貴重な体験であると同時に、充実した指導を受けられるという期待もあります。深く掘り下げませんが、以前からSaka博士の論文は読んだことがあり、もちろん研究の興味という点でも合致していると感じました。
留学生としての視点を付け加えると、EMBLの選考は全てが明快、公正で応募者に優しいと感じた点もあります。「出願前に受入希望先の先生とコンタクトを取ることは推奨されない」、「応募者は奨学金の有無等ではなく、qualificationとscientific potentialのみに基づいて評価される」などの表記が公開されており、面接の結果を通知する日も指定してくれていました。特に結果通知日の指定は、アメリカの大学院からの合否通知を待ち続けた挙句全て不合格だった経験をした身としては非常にありがたく、このような対応をしてくれる機関で研究をしたいと強く感じました。また、上述の通りアメリカの大学院では(少なくとも私の分野では)internationalの学生の数が限られていることが多かったですが、EMBLはそもそも研究機関がinternationalで、選考にも国籍は一切関係ないため、多様な背景を持った学生/研究者たちが集まっています。個人的に、研究者コミュニティにおけるdiversity、equity、inclusionなどの問題にも興味を持ち始めたため、より多様性を感じたEMBLで博士課程を過ごすのも良いと感じました。
最後に、自分のキャリアや性格を考えた際に、EMBLの博士課程は最大で4年だという点も重要でした。私自身は既に数年研究の経験をしているため、アメリカでlab rotationを含めた平均6年程度の博士課程に進学するより、EMBLで4年程度で学位を取得し、また少し異なる分野の研究室に行くのが適していると感じました。ずっと行きたかったアメリカにも博士研究員として行きたいと考えています。
今後海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス
出願に限らず研究にも当てはまることですが、なるべく早く準備を始めて、多くの方に助けてもらうことが重要だと思います。私自身、失敗した年には準備が遅く、多くの人に助けを求める余裕がありませんでした。自分1人で気づくことには必ず限界があるので、多くの方の意見をいただいて、より良い準備をしてください。XPLANEには親身になって相談に乗ってくださる先輩方がたくさんいらっしゃるので、是非コンタクトを取ってみることをお勧めします。もちろん私で良ければ可能な範囲で相談に乗りますので、XPLANEのSlackやtwitterのDMなどでお気軽にご連絡ください。
(編注)
(参考:https://en.wikipedia.org/wiki/European_Molecular_Biology_Laboratory )
(参考記事:Caltech物理学専攻の高橋さんのVisiting Weekend体験談、生物学系のOn-site Interviewについての説明記事)
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