1. はじめに
こんにちは。現在、英国University College LondonのOptical Biology PhD Programme 1年目で平和中島財団奨学生の黒田澄哉と申します。私のバックグラウンドは医学で、特に脳の構造や機能に興味があります。神経科学について更に深く学びたいと思った私は、学部6年の2021年冬に海外PhDプログラムに出願し、2022年秋にUCLに進学しました。
XPLANEさんのおかげもあり、海外大学院受験についてまとめた記事や体験談はかなり充実してきたように思います。出願プロセスの詳細などはそちらを見ていただくとして、ここでは私自身の経験を踏まえた後輩たちへのgeneralなアドバイス、出願先を決定する際に用いた評価基準や戦略、進学先決定後〜留学までの期間の過ごし方などについて簡単にまとめました。同じようなバックグラウンドや興味を持っている人たちの少しでも参考になればと思います。
2. アドバイス1:色々な人の意見を聞こう
この記事を読んでいる方の多くは、おそらく既に海外大学院進学に向けて情報収集や準備を始めているかと想像します。情報収集は、自分が行きたい大学・プログラムを決める上で重要なのは勿論のこと、その過程でロールモデルとなる先輩を見つけることができれば、その存在は非常に頼もしいものとなります。
私の場合、海外PhD進学という進路を本格的に考え始めたのは、4年生の夏に米国大学院学生会が開催した説明会に参加したときでした。以来、6年生の春までのおよそ2年間、興味のあるプログラムのwebsiteやオンラインオープンキャンパス、米国大学院学生会による説明会やXPLANEのオンライン交流会などを通して、進路決定の判断材料を少しずつ集めました。さらには、日本人で既に留学している先輩・先生方とミーティングをしたり、自分がお世話になっていた先生に大学・研究室を紹介してもらったりと、できるだけ色々な人の意見を聞くように心がけていました。
出願が近くなったタイミングで、志望する研究室のPIにもメールでコンタクトを取り、新たにPhD学生を受け入れる予定があるかどうか聞きました。PIに加え、志望研究室に在籍している(いた)PhD学生や日本人研究者にもメールを書きました。体感ですが、PhD学生や日本人は9割方すぐに返信をくださりました。PIは3, 4割ぐらいだったと思います。ただ、返事の有無と合否に相関はないような印象です。また学生に話を聞く際は、プログラムや研究室のいい点・悪い点両方を必ず聞いていました。
後悔しない意思決定をする為には、海外PhD以外の選択肢についても情報を集め比較を十分に行うことが欠かせないと思います。自分は基礎・臨床・社会医学のどれをやりたいのか、国内or海外、初期研修まではするor学部を出てすぐに留学するか、いきなりPhDにアプライするor一旦 RAや修士を経由するか、など。私の場合、純粋に基礎医学を究めたかったのと、多くの奨学金には年齢制限(〜25歳ぐらいまで)があることを考慮して、最終的に初期研修をせず海外大学院に進むという選択肢を選びました。
3. アドバイス2:自分が本当に行きたい出願校を選ぶ
出願校を決める上で、私が最終的に重視した点は以下の5つでした。
- 興味のあるラボが複数ある
- ラボローテーションがある
- コースワークが充実している
- イメージングのセミナー・ワークショップが充実している
- 「ここに受かったら行きたい」という雰囲気
特に、一番最後の⑤は主観的でふんわりとしたものではありますが、モチベーションに直接つながる為、その後の(超)忙しい出願プロセスを乗り切る上で非常に重要でした。私は米国に対する強いこだわりなどは特に持っておらず、米国に加えて英国、スイス、ドイツの大学院にも出願しました。
近年のPhDプログラムでは、入学時点でその分野の研究経験をある程度積んでいることが求められます。例えば、神経科学のプログラムの合格者の大半はそれまでに神経科学の研究を行ってきた人たちです。一方で私の場合、神経回路の動作原理などに興味があったものの、その研究経験はほとんどありませんでした。そこで、神経科学のPhDプログラムだけではなく、自分のバックグラウンドにマッチした生命科学全般のPhDプログラムにも出願することにしました。幸い神経科学という分野は非常に学際的で、そのFacultyの多くが他のプログラムと兼任しています(特に生命科学系プログラム)。①〜⑤の評価基準を踏まえ、最終的には次の9つのプログラムに出願することになりました(表1に出願先と受験結果をまとめる)。
表1. 出願先大学・プログラム・合否
国 | 出願先大学 | プログラム | 書類選考 | 面接 |
---|---|---|---|---|
米国 | Harvard | Program in Neuroscience (PiN) | × | – |
米国 | Harvard | Molecules, Cells, and Organisms (MCO) | ○ | × |
米国 | Northwestern | Neuroscience | × | – |
英国 | UCL | Optical Biology | ○ | ○ |
米国 | Boston University | Neuroscience | × | – |
米国 | Boston University | Biology | ○ | ○→辞退 |
米国 | CU Anschutz | Neuroscience | ○ | ○→辞退 |
スイス | FMI (Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research) | MD-PhD | ○ | ○→辞退 |
ドイツ | LMU (Ludwig Maximilian University of Munich) | Graduate School of Systemic Neuroscience | ○ | 辞退(欠席) |
4. 出願タイムライン
海外大学院出願におけるビックイベントは、①奨学金応募、②願書提出(特にSoP&CV)、③インタビューの3つです。特に、②願書提出は12月あたまに各プログラムの締め切りが集中します。その為、10〜12月は病院実習+出願準備+研究で忙殺されていました。夏の間に奨学金応募などをさっさと片付けて、SoP執筆に早めにシフトするのが望ましいでしょう。
SoPは、XPLANEの執筆支援プログラムにお世話になりました。メンターによる添削・アドバイスのおかげで10月にはSoPの軸がまとまり、その後英語ネイティブの知り合い(PhD学生やポスドク)にブラッシュアップをお願いしました。ブラッシュアップも2ヶ月ぐらいかかったので、結局願書提出の締め切りギリギリまで忙しい日々を送ることになりました。
願書を無事提出したも束の間、12〜1月には書類選考の結果が次々とメールで届き、1〜2月には実質最後のメインイベントである③インタビューが控えています。国試の前々日までUCLの、翌日からはMCOのインタビューがあったり、国試1日目朝に試験会場に着いたらBUからオファーのメールが届いていたりと、願書の締め切り直前並みにドタバタしていたことを記憶しています。参考までに、私が出願した際のスケジュールを載せておきます(図1)。マッチングを受けたり、日本国内の大学院に出願したりする場合は7〜8月がもう少し忙しくなると思います。
図1. 出願タイムライン(受験期)
5. インタビュー
私が受験した当時は、奨学金やSoPなどと比較して、インタビューに関する情報がインターネット上にあまり存在しませんでした。そこで、私が出席したインタビューの形式や内容についても簡単にまとめておこうと思います。
私の代は、コロナウイルスの影響によりインタビューは全てオンラインで行われました。インタビューの形式はプログラムによってバラバラでしたが、米国大学院はいずれも「1vs1」を計4, 5人のFacultyと行うといったものでした。CU Anschutzではこれを1日ぶっ続けで行ったのに対し、MCOでは1週間かけてのんびりと行われました。一方、イギリスのUCLは「1vs4」を数日間、スイスのFMIは「1vs1」と「1vs複数」のミックスを数日間といった形式でした。また、Interview day/weekの初日にはプログラムの内容に関する説明会が、最終日にはPhD学生や他受験生との交流会がほぼ必ず開催されました。
インタビューは基本1回(1通話)30分で、その内容は大きくQuiz とQuestionに分けられます。
・Quiz・・・A faculty already knows the answers and wants to see if you do.
・Question・・・A faculty wants to learn something from you, if you know the answer.
Quizと比較するとQuestionの対策は難しいですが、昨今のPhDインタビューで聞かれる質問はある程度パターン化しています。具体的には、「なぜこの分野か/なぜこのプログラムか/なぜこの研究室か」や「過去/現在/未来・・・今まで何をしてきたか/今は何に興味がある/今は何に興味があるか/将来は何をしたいか」といった質問が頻出でした。また私の場合、その経歴から「なぜ臨床の道に進まないのか」や「将来Physician scientistとして働くことを考えているか」といった質問がほぼ毎回聞かれました。
面接官には、学生自らが興味のあるPIを指名することができます。しかし、例えば面接官5人中5人全員が希望通りになるということは少なく、大抵1人ぐらい全く分野外のPIとインタビューをすることになるようです。そのようなPIは、自分が全く想定していなかった質問をしてくることがあるので要覚悟です…。私がインタビューを受けた時は、「今までのプログラミングで最も苦労した点は何か」「大腸菌などは脳がなくても動くことができるのに、ヒトが歩くのには神経系が必要なのはなぜか」「冷蔵庫のドアを開けたら部屋の温度は下がるか」といった想定外の質問が飛んできた為、かなり回答に苦労しました。
6. 留学開始まで
私が最終的にオファーを受理したOptical Biologyは9月スタートだったので、大学を3月に卒業してから半年ほどのギャップセメスターが発生しました。この期間の過ごし方は人それぞれですが、おそらく最も一般的とされるのは国内博士課程での研究活動だと思います(渡航と共に中退することになる)。ただ私は、6年生の夏に短期の研究留学をしていたこともあり、国内大学院は一つも受験していませんでした。そこで、興味のあったUCLの先生にコンタクトし、7月から1つ目の研究室ローテーションを早めに始めることにしました。早めに渡航した分もStipendを追加で支給してもらうことができた上、PhDが本格的に開始する前に現地の生活にじっくりと慣れることができたので非常に良かったです。
ちなみに、それまでの4〜7月は日本でゴロゴロしていました(図2)。ただ、学部時代の研究活動成果を論文にまとめたり、渡航ビザの手配をしたり、ロンドンでの滞在先を探したりしているうちにあっという間に7月になってしまいました。PhDが始まればまた忙しい日々を送ることになる訳なので、数ヶ月ぐらい無職として過ごすのも悪くないと思います。
図2. 出願タイムライン(渡航準備期)
図3. UCLメインキャンパス