【イベントレポート番外編】人文系・社会科学系の日本人大学院生の就職活動~Q&A

記事執筆:Yuki Abe(当日の司会進行役)

2021年1月10日にXPLANEでは、人文・社会科学系の分野において海外大学院で博士号を取得された大学の先生3名をお呼びし、就職活動についてのパネルディスカッションを開催しました。時間の関係上、イベント中にカバーしきれなかった質問に答えていただきました。

Q. 周りのPhD学生に、アカデミア以外の道に進む人はどのくらいいましたか?

山崎先生:私の周囲では、半々くらいでした。就職先は例えば、学区の教育長、教育センターのディレクター、病院のダイバーシティー部門のディレクター、NPO法人の立ち上げ、出版会社やコンサル事業のスタートアップなどさまざまです。卒業後すぐアカデミアに行ったり、そのあとアカデミアを去ったりと、またインダストリーからアカデミアに行ったりと、企業とアカデミア間を行き来している人もいます。

水松先生:専攻(国際教育)が影響しているかと思いますが、PhD取得後にアカデミアに進んだ人は、3分の1くらいだと思います。ほとんどの方は、専門である教育関係の仕事についていることが多かったですが、それまで築いてきたキャリアを続けているように思います。

南先生:たくさんいました。統計的に見ても、アカデミアに残る人の方が少ないのではないでしょうか。しかし、「アカデミアに残らないのは恥」と考える文化が依然として根強いので、それ以外の道に進むことを公表している人は少なかったように思います。

Q. それぞれのキャリアの分岐点において困難なことや、悩んだことなどありましたか?

山崎先生:キャリアの節目・分岐点はPhD取得後の就職先を決める際、州や国をまたいで今後の事を考える機会がたくさんありました。就職後にも移動・移籍を考えるような機会が(周囲を含め)ありましたし、これからもあると思います。もちろんその際はたくさん思い悩み考えながら、そのときにベストだと感じた決断を下しました。分岐点はある意味チャンスでもあります。皆さんも普段準備してきたことが機会に恵まれるよう、心から声援を送ります。

水松先生:アメリカの大学院の修士課程に進学する前は大学の職員として働いていました。修士号を取得後に職員ではなく、教員のポジションについたことは、その後のキャリアに大きく影響を与えていると思います。この選択をしていなければ、PhD課程に進む可能性もかなり低くなっていたと思います。

南先生:私は就職活動1年目では失敗したので、この仕事が向いていないのではないかと悩んだことはありました。しかし、アカデミアの仕事を得られるかどうかは半分以上が運など外部要因によって決まるので、必要以上に落ち込む必要はないと思います。

Q. 人文系の研究を行いながらEmployability を上げる方法、そして研究がどう就活のサポートになるのかについてお聞きしたいです。

山崎先生:2~3つの分野をまたぐような学際的な研究をしてみるのもいいかもしれません。外部との共同研究やコラボレーションの機会も増え、結果的に様々な方向で就活できるケースもあります。例えばCALLのようなTechnology×言語教育という専門分野ですと、言語教育現場やその他教育研究機関だけではなく、IT企業などにも就職可能な場合もあります。

機会があれば、Research、Teaching、Serviceなどの分野で様々な経験を積むのもよいと思います。一貫した研究でpublicationを重ねていくのも強みですが、遠すぎない距離で少し違った方向性の研究チームに入って経験を重ねたり、違う分野で出版してみたりするというのも強みになるときがあります。

水松先生:研究を進める上で必要なスキルは、アカデミアの仕事以外でも役に立つと感じています。例えば、素早くて的確な情報収集能力やデータ分析力、文章を書く力などが挙げられます。私自身、習得できるように日々格闘中です。

南先生:これは分野によりますが、純粋なリベラルアーツの場合、文章を読み書きする能力や多文化思考の能力など、可視化できないスキルが主なので、研究が就活に直接影響するということは稀かも知れません。ただし、近年は国内外で多様なバックグラウンドの人を雇用する企業が増えているので、悲観する必要はないと思います。

Q. 大学院留学中や就活中のモチベーションの保ち方について教えてください。

山崎先生:大学院留学中のモチベーションとはしては、無理をせずしっかり休むことが大切だと思います。心も体も健康でいることではじめていろいろな事に挑戦したいと思える土壌が生まれるからです。また情報交換したり共に勉強会などを企画できるコミュニティに積極的に参加したり、自ら企画したりと、アクティブに参加していくこともモチベーションアップにつながると思います。

就職活動を「自分の価値を評価される場」ではなく、「ネットワーキングの機会」と思えると楽になると思います。実際、自分が普段行っているエクサイティングな研究内容や今まで積み重ねてきたユニークな経験を学外で知ってもらえるチャンスであることは間違いないですし、様々な分野のフロントラインで活躍されている方々と実際直接つながることができます。うまくいけば面接で直接お話できるチャンスもある。そう考えると、楽しくなってきます。実際そこから共同研究に発展することもありますし、失うものは何もないはずです。がんばってください。

水松先生:メリハリをつけること。学ぶ時は学ぶ、遊ぶ時は遊ぶ。大学院は長い道のりなので、それだけに集中しすぎないことが大事だったと思います。学内で日本語や日本文化を教えたり、マラソンに参加したり、和食を作って友人を招いたり・・・勉強以外にも刺激のある毎日を送ることでモチベーションを保てていたと思います。

南先生:心身ともに健康でいるために、運動・睡眠・食事に注意するのが一番大切ではないでしょうか。また、人文社会系は理系のラボの概念がなく、博論執筆は孤独との戦いでもあるので、定期的に友人と会ってリフレッシュするのが良いと思います。

主催者からのコメント

人文・社会科学系のキャリアイベントを主催させていただきました、阿部由季と申します。私がこのイベントを主催させていただいたきっかけは、社会科学系の修士留学生として就活の情報収集が大変だったこと、そしてCOVID-19の影響でアメリカでの就活が全然うまくいかずに日本に帰国せざるをえない状況になったことでした。私と同じような状況にいる人も多いのではないかと思いました。そして今回、先輩方のご経験を聞く機会を作らせていただきました。COVID-19の影響でポジションの縮小が進んでいる分野もあることでしょう。厳しい時代になってきてしまいましたが、そんな中でも自分にできることをコツコツこなしながら前に進んでいってほしいなと思います。

イベントレポート本編、アーカイブ動画はこちらの記事をご覧ください。XPLANEでは今後も海外大学院キャリア関連のイベントを続々と開催を予定しております。最新のイベント情報の確認、また「こんなイベントを開催してほしい!」などのリクエストはXPLANEのSlackTwitterをチェックしてください!

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