東工大からスタンフォードへ!〜工学と医学を繋ぐ研究者を目指して〜【海外大学院受験記2022-#2】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2022年度の第2回である今回は、この秋からアメリカのStanford Universityの博士課程(Bioengineering)に進学予定の藤田さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介と研究分野

2022年9月よりStanford University Bioengineering Ph.D. Programに進学する藤田創と申します。
東京工業大学にて学士・修士(専攻:生命理工学)を取得し、これまでの研究では、やわらかい無線通信型血糖値計測デバイスの開発に取り組んできました (Fig. 1)[1]。現時点での専門分野は、バイオエレクトロニクス (Bioelectronics) です。スマートウォッチのような生体計測デバイスは近年急速な発展を遂げていますが、測定可能な生体情報の種類および範囲が未だ限定的であるといった課題を抱えています。そこで、合成化学・電気化学・機械工学などの諸分野を駆使して旧来のデバイスの性能を改良するとともに、未だ対処されていない医療ニーズ (Unmet medical needs) にこれらの技術を応用していくことを同分野では目指しています。

 進学先のStanford Universityは、世界トップレベルの研究競争力を有することに加え、医療機器の設計・開発に関する独自の教育プログラム (i.e., Stanford Biodesign) や起業支援プログラムを提供しています。これまでの専攻内容や研究内容を踏まえつつ、次世代のバイオエレクトロニクスとその応用を追究していく上で、Stanfordが私にとって最適な環境であることは疑い得ません。具体的な研究内容は未定ですが、医学部周辺の専門家とのディスカッションを通して解決すべき課題を明確にした上で、課題解決のための技術開発を工学部で模索していきたいと考えています。

Figure 1. Overview of battery-free tissue-interfaced glucose sensors
(https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/tc/d1tc00667c より引用)

2. 博士課程進学に至るまでの経緯

私は学部1年次からiGEMと呼ばれる合成生物学の国際コンテストに参加をし、研究を行う上での素養を身につけるように努めました。その一方で、なかなか思うように結果が出ず、研究の厳しさと、現在の能力に見合った研究テーマを設定することの重要性を痛感しました。特に生物系の研究は一回の仮説検証のサイクルが比較的長く、自分でコントロールが出来ない側面も多くあったため、異なる研究分野を覗いてみたいと思うようになりました。  

こうした経験を踏まえて、卒業論文研究では生物学ではなく、材料化学寄りの研究室を選択しました。配属直後に、血糖値計測デバイスの共同研究を前進させるために、自ら志願して橋本道尚先生(シンガポール工科デザイン大学)の研究室に短期留学をしました(Fig. 2)。HarvardでPh.D.を取得された橋本先生のご指導の元、最新鋭の印刷技術を援用したデバイス作製技術はもちろんのこと、質の高い論文を書くための文章作法や合理的な実験計画の立て方などを学びました。この経験を通して、海外のトップレベルの研究室には、「なぜその研究をするのか」という問いに対する答えをしっかりと認知・言語化出来る人材が集まっており、その環境に自分もなるべく早く身を置かなければならないと感じるようになりました。学部4年次に学位留学用の奨学金への応募も検討しましたが、その時取り組んでいた研究テーマをもう少し時間をかけて探究した方が得るものが多いと考え、応募を見送りました。結果的に学部から取り組んできた血糖値計測デバイス研究の論文化は修士2年の始めになりましたが、学部の時に一度海外学位留学を検討したことで、自分に足りない要素を自覚し、それ以降の修士課程での研究期間を有意義に使うことができたと感じています

Figure 2 Group photo of Hashimoto group at Singapore University of Tech. and Design

3. 出願に至るまでのStanfordと私の接点

Stanfordと私の接点は3点あります。どれも偶然手にした機会でしたが、それぞれの機会を通じてStanfordで博士号を取りたいという思いが強まり、出願プロセスを頑張ることができました。もし自分がやりたいことができる唯一無二の場所があるのであれば、あらゆる手を尽くしてその場所と繋がりを構築しようと挑戦することが大事だと思います。自分にとっては、その場所こそがStanfordでした。

1) Stanford Electrical Engineeringでの短期滞在(学部4年次)

 研究室の先輩がStanford Electrical EngineeringのAda Poon研究室に数ヶ月留学されていた際に、便乗して1週間ほど同研究室に滞在し、無線通信に関わる実験を行いました。パンデミックの影響もあり、その後実際の共同研究には至りませんでしたが、同研究室のメンバーからのアドバイスのおかげで、私が取り組んでいた血糖値センサの無線化に関わる実験が大きく前進しました。この経験から、Stanfordの中で巻き起こっている質の高いディスカッションにPh.D. studentとして自分自身も没頭したいと考えるようになりました。

2) Stanford Biodesign SeminarおよびHealthcare Hackathon (health++) への参加(学部3年次)

 学部3年生の時に、Stanford Biodesign SeminarおよびHealthcare Hackathon (health++)への参加公募があり、運良くその選考を通過して1週間ほどStanfordに滞在しました。短い期間ではありましたが、デザイン思考を援用した医療機器開発について現地のInstructorや参加者と議論を交わすことができ、とても刺激的な時間でした。health++では、エジプト人、カナダ人、ブラジル人とチームを組んで、多剤耐性菌に対処するための遺伝子配列の解析プラットフォームを提案し、幸運にもGrand prizeをもらうことが出来ました(Fig. 3)。嬉しかった反面、自分の技術力が足りないことを痛感したので、日本に戻ってまずは血糖値計測デバイスの研究を頑張ろうと思いました。

Figure 3 Presentation at Stanford health++

3) Stanford d.school デザイン思考ワークショップへの参加(学部1年次)

 東京工業大学では、定期的にStanford d.schoolの教員を招聘して、デザイン思考に関するワークショップを開催しており、学部1年生の時にそちらに参加させていただく機会がありました。

4. 推薦状について

第一志望のStanfordが推薦状を6通まで提出できたため、以下のような布陣(3通+Stanford用追加3通)で推薦状を依頼しました(Table 1)。頻繁にリマインダーのメールを送るように心がけました。

Table 1 推薦状の依頼状況

推薦者の所属肩書き過去の所属先私との関係
東京工業大学准教授イタリア技術研究所ほか指導教員 (3年ほどの繋がり)
シンガポール工科
デザイン大学
Associate ProfessorHarvard (Ph.D.) MIT (Postdoc)共同研究者 (3年ほどの繋がり)
Stanford UniversityClinical Assistant ProfessorColumbia (M.D.)Stanford Biodesign Seminarのオーガナイザー
慶應義塾大学専任講師東京大学 (Ph.D.) Stanford (Postdoc)所属する研究会の世話役 (2年ほどの繋がり)
Illumina Inc.ResearcherUIUC (Ph.D.) Stanford (Postdoc)Stanford Healthcare Hackathonのチームメイト
東京工業大学教授東京大学ほかiGEMのメンター (6年ほどの繋がり)

日本の大学/大学院出身の志願者にとって、優れた推薦状を準備することは非常に困難であるのが現実かと思います。主な要因としては

1) 推薦者の執筆経験が少なく、効果的な推薦状を書けない
2) 志望先と推薦者の間の関係性が薄い

などが挙げられます。1点目については、質の高い推薦状のトピックリストを事前に推薦者に渡しておくことでそれなりに解消されるかと思います。その内容については、具体的な客観的事実を記述することが求められているように思います(もっと詳しく知りたい方はこちら)。また具体的な競争率に関する数字(例:所属していた学科内で上位□%の成績、研究室に週○日来て△時間実験)も盛り込めることが好ましいです。 2点目の志望先と推薦者の間の関係性の薄さに関しては、志望先の研究室/大学院にゆかりのある人と繋がることである程度解消されるかと思います。志望先の研究室/大学院にゆかりのある先生は世界のどこかに必ずいるので、その人と積極的に繋がりを持つことをお勧めします。まずはその人に志望先の研究室/大学院にて評価されるポイントを聞き込むと良いかと思います。もし関係性が深まれば、推薦状執筆を依頼してみてもいいかもしれません。自分の場合は、志望先の研究室/大学院でのポスドクなどの立場でご活躍されていた方々とイベント等で仲良くなり、その方々にStanford用に追加提出した推薦状の執筆を依頼しました。

5. 海外大学院留学向け奨学金の出願結果

海外大学院留学向け奨学金の出願結果に関しては、以下の通りです(Table 2)。

Table 2 海外大学院留学向け奨学金の出願結果

出願先奨学金結果
船井情報科学振興財団採択
中島記念国際交流財団採択
吉田育英会学内選考通過後に辞退
伊藤国際教育交流財団書類選考通過後に辞退
村田海外留学奨学会二次面接通過後に辞退
日本学生支援機構書類選考辞退

私の場合、日本の修士課程を経てからの進学なので、その点にご留意いただいた上で、本結果をご参照いただけますと幸いです。私は海外大学院への出願と並行して、東京工業大学の博士課程への進学も検討していたので、海外大学院留学向け奨学金の出願ピーク前に、日本学術振興会特別研究員制度(DC1)[2]に出願していました。DC1の書類に関しては、博士進学を予定している友人とのピアレビューや、研究室のポスドクの方からの添削を活用して準備を進めました。DC1への出願プロセスで、既に研究計画に関する文章を高い質で準備できていたので、それを叩き台として、海外大学院留学向け奨学金の書類作成も効果的に取り組むことができました。DC1も奨学金も、論文業績が差別化要因になる可能性が高いので、可能であれば修士2年の序盤を目処に論文業績を一つ出すことを指導教員に意識付けしておくことが重要であるように感じます

6. 出願結果と選考プロセスについて

出願結果は以下の通りです(Table 3)。色々な種類のプログラムに出願してみました。

Table 3 出願先大学・プログラム・合否・面接回数

出願先大学プログラム結果面接備考
StanfordBioengineering合格 12/1→2/15
(〆切→発表)
6回 (1/28-2/4)推薦状を6通提出 POIと毎月やり取り
MITMaterials Science and Engineering合格 12/1→1/29なし学科の出願メンターシップ制度を利用
MITChemistry合格 12/1→1/291回 (1/18)学科の出願メンターシップ制度を利用
Carnegie Mellon UniversityBiomedical Engineering合格 12/1→1/202回 (12/6, 1/5)共同研究者の 元同僚の先生と コンタクトあり
Boston UniversityBiomedical Engineering合格 12/15→2/12なしコンタクトあり
University of PennsylvaniaChemical and Biomolecular Engineering (CBE)合格 12/15→2/151回 (2/14)コンタクトあり
CaltechMedical Engineering選考辞退 12/15→N/AN/Aコンタクトあり
NorthwesternBiomedical Engineering選考辞退 12/18→N/AN/Aコンタクトあり
UC San DiegoNanoengineering選考辞退 12/15→N/AN/A共同研究者の 元同僚の先生と コンタクトあり
HarvardBiological and Biomedical Science不合格 12/1→3/7なしコンタクトあり
HarvardChemistry and Chemical Biology不合格 12/1→1/28なしコンタクトなし
PrincetonCBE不合格 12/15→1/29なしコンタクトなし
UC BerkeleyCBE不合格 12/14→1/4なしコンタクトあり

合計で13プログラムに出願しましたが、StanfordのBioengineering Ph.D. Programの選考が最も大変かつ有意義でした。特筆すべき点は、面接が6回あったことです。約1週間の間、ほぼ毎日異なる専門分野の教員・学生と話しました。事前情報のインプットが大変でしたが、今まで触れてこなかった分野の文献を読む中で新たな発見もあり、楽しかったです。振り返ってみると、SoP執筆を始め、出願準備のプロセスに真剣に向き合った経験が、不確実性の高い面接プロセスを乗り越える鍵になったと思います。

7.  Stanfordへの進学を決めた理由

第一志望であったStanford Bioengineeringの他に、MIT Department of Materials Science and Engineering (DMSE) にも興味のある研究室が複数あったため、念のためMIT DMSEのVirtual visit (2月下旬)にも参加しました。Virtual visitでは、学生や志望先の教員にかなり突っ込んだ話を聞くことができました。最終的に、選択可能な研究室の多さと圧倒的なFunding resourceを誇り、Ph.D. studentがそれなりの裁量を持って研究を行えるStanford Bioengineering への進学を決めました。

 Stanford Bioengineering とその周辺には、バイオエレクトロニクスに関わる教員と研究室が数多く存在します。正直選択肢が多すぎて困っていますが、柔軟なRotation systemの元、自分に合った研究室をじっくりと吟味していきたいと思います。

(編注)

[1] Fujita , H.; Yamagishi, K.; Zhou, W.; Tahara, Y.; Huang, S. Y.; Hashimoto, M.; Fujie, T. J. Mater. Chem. C, 2021, 9, 7336-7344

[2] 日本学術振興会による博士課程在学者向けの特別研究員制度。多くの博士課程の1年次向けのDC1に採用された大学院博士課程在学者には、研究奨励金として月額20万円が3年間支給される(2022年4月時点、https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_oubo.html)。

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