1. はじめに
はじめまして、Keigoです。国際基督教大学 (ICU)を生物学メジャーで卒業し、横浜市立大学生命医科学研究科に進学して理化学研究所(理研)で研究を行いました。2022年3月に修了し、5月からスイスのジュネーブ大学でPhDを始めました。タイトルにある通り、私はこのPhDポジションをTwitterで見つけて応募し、選考を通過しました。私のようにイレギュラーな形でも大学院留学が出来るということを周知したいと思い、この受験記を執筆しています。逆説的ですが、海外大学院に合格することはあくまでスタートであり、そこに至る道のり(=受験記に書いてあること)は重要ではないし、むしろ参考に出来ないことも多々あると思っています。
2. 留学の動機
私は海外でマイノリティとして過ごす経験が自分のキャリアだけではなく、その後の人生の財産になると信じ、留学を志しました。また、海外におけるPhD取得者のキャリアの多様性に魅力を感じ、海外でPhDを取得して将来の選択肢を広げたいと思いました。本音を言うと、小さい頃から海外で働きたいと思っていて、高校卒業後に留学したものの上手くいかずに心残りだったため、もう一度挑戦しようと思っていました。漠然とした憧れや悔しい思いが無ければ、海外のPhDポジションを根気強く探すことはしなかったかもしれません。幸いなことに、ICU(国際基督教大学)の生物学メジャーからは(比率的に)多くの人がアメリカなど海外のPhDコースに進学しており、PhD留学への心理的ハードルは低かったです。
3. 出願までの経緯
学部時代
ICU在学中は学部生向けの研究インターンやワークショップなどに積極的に参加して、海外大学院への出願を視野に入れていました。4年生になると卒業研究を行った外研先で馴染めずに消耗してしまい、この時点での海外大学院出願は断念しました。
修士課程
日本での修士課程の間に海外PhDに出願する準備ができるように、進学先は戦略的に検討しました。具体的には、
- いわゆるビッグラボに所属し研究経験を積み、効果的な推薦状を得ること
- 海外での研究に慣れるために英語で研究する環境に身を置くこと
を考慮しました。最終的に横浜理研のラボで修士の研究を行おうと決め、連携大学院の横浜市立大学に進学しました。所属先は理研の中でも特に外国人の割合が多い部門で、日常的に研究員と英語で雑談議論する環境のおかげで、日本にいながら海外で研究するイメージが掴めました。
2020年後半、修士課程での指導教員が欧州某国に新設される生命科学系研究所のディレクターに就任し、日本と海外両方にラボを持つことになりました。欧州の研究所側からは指導教員にPhD学生の雇用資金が保障されており、修士修了後に留学を考えていた私にとっては渡りに船でした。しかしコロナ禍の影響が長引き、2021年秋の時点で、約1年後(2022年秋)のPhDプログラム開始時に現地で研究をスムーズに始められる体制は整いそうにありませんでした。日本で博士に進学して理研のラボで研究を続け、現地の体制が整った時点で訪問学生として参画することも可能でしたが、初心に戻って一から海外のPhDポジションを探そうと決心しました。
4. 採用に至るまで
PhDポジション探し
ポジションを探す際に重視したのは科学的興味です。修士ではRNAの研究を行っていましたが、PhDでもRNAを扱いたいと思っていました。留学先は主に欧州で探しました。欧州でのPhD学生募集は修士号取得者を前提としており、研究プロジェクトに対して応募する形が多いため、私の科学的興味と合致するプロジェクトを探しやすいからです。具体的には、大学や研究所ごとのPhDプログラム、Nature Careers、Science Careers、EURAXESS、FindAPhD、CNRSの求人、Twitterで#PhDpositionなどのハッシュタグをチェックしていました。グラント獲得に伴うPhD学生募集の応募は不定期なので、根気強くチェックすると運命の出会いがあるかもしれません。ERC (European Research Counsil)など大きなグラントの発表後はPIがPhD学生を募集していることが多いです。
PIにコンタクトを取る
2021年11月中旬、アメリカの著名RNAラボ出身のW教授がスイスでグラントを獲得して独立し、PhD学生を募集しているのをTwitterで見つけました。その研究内容が私の興味とドンピシャだったため、代表的な論文を読み、カバーレターに自分の興味を綴り、CVを添付してその日のうちにメールを送りました。幸運なことにすぐに返信が来て、約2週間後に面接が設定されました。面接対策にはXPLANEの特集ページが役に立つと思います。私の場合、W教授が筆頭で出した論文は全て読み、よく面接で聞かれる質問について回答を考えておきました。
1度目の面接
面接では、自己紹介の後にW教授から研究の説明があり、その後私が質問を受けました。主に以下のような質問をされました。
- これまでの研究経験
- 現在の研究について
- 私の科学的興味について
- なぜPhDを取得したいのか
- なぜスイスで研究したいのか
- 新たなモデル生物/技術を使うことになるが大丈夫か
私からも質問する機会があり、研究内容の質問以外に以下のようなことを聞きました。
- 指導スタイルについて
- 他ラボとのコラボレーションの機会
- (修士で所属していた)ビッグラボと少人数のラボの違い
コロナ禍で直接訪問することが難しいため、面接での感覚は大事にしようと考えていました。留学に行きたい気持ちがどんなに強くても、相性が合わなければ留学してから苦労することは目に見えています。私の場合、面接は全体で2時間ほどかかり緊張したのですが、それ以上に興味やヴィジョンが合い、会話していて楽しかったです。正直この時点で「受かったのでは?」と思っていました。数日後に内定のオファーレターをもらいました。
PhDプログラムへの正式出願と2度目の面接
内定後に正式にジュネーブ大学の生命科学系博士課程に出願しました。このプログラムには2つのルートから入学できます。年2回の公募に出願し、学生を探しているPIとマッチングするルート(Open call)か、私のようにPIに直接コンタクトをとって内定をもらう(Ad hoc)ルートです。Ad hocは通年応募可能です。 Open callでは、書類スクリーニングに通過した候補者はインタビューに呼ばれ、そこで修士で行った研究をプレゼンします。それに興味を持ったPIが候補者をリクルートします(出願者側からも興味があるPIを数人指名できます)。同じラボの同期のPhD学生はopen callに応募して採用されました。Ad hocでは、PI側で学生を選抜し内定を受けた後、Ad hoc committeeによる2度目の面接を受け、それに合格すると大学院から入学が許可されます。
私の2度目の面接では、W教授の他に研究内容が近い2人の教授とPhDプログラムのディレクターから構成されるAd hoc committeeに対し、自分の修士研究をプレゼンする形で行われました。プレゼンの最中に質問が飛んでくるスタイルで緊張感がありましたが、修士論文を執筆していたおかげで考察がまとまっており、無事乗り切ることができました。プレゼンは20分の予定でしたが、実際には45分ぐらいかかりました。面接後、正式な合格メールが届きました。
オファーの受諾
私がラボの最初の世代のPhD学生になるため不確定要素が多く、オファーを受ける段階では正直迷いもありました。コロナ禍で現地に行くことができないため、判断材料も限られていました。しかし、面接での好感触やプロジェクトとの相性、更にオファーレターと別にW教授からのメールに
“Once you are in my team, I make a commitment to help you reach your full potential as a researcher, no matter what your next career step might be.”
と書いてあったことがとても心強く、最終的にオファーを受ける決め手になりました。進学を決めた後も色々な点で厚いサポートがあり、この選択は間違っていなかったと感じています。一般的に、立ち上げ期からラボに参画する場合、学生の成功がラボの成功に直結するため充実した指導が期待できるという大きなメリットがあります。その分責任も大きいです。
5. PIから見た学生採用プロセス
私の採用プロセスについてW教授に聞いてみました。教授にとって初めてのPhD学生リクルートだったため、同僚からのアドバイスも取り入れたそうです。欧州のPIがPhD学生を応募する際の一例としてここに提供します。
応募
Twitter募集は同僚の提案らしいです。PhD学生募集のツイートは約70リツイートされ、最低でも30~40人から応募があったそうです。新規立ち上げラボの募集に対してこれだけの応募者がいるので、establishedなラボではより多くの応募者がいると思われます。(フォロワー数が多いPIだと応募者がもっと多いかも?)
書類スクリーニング
応募メールにあるCVを元に、バックグラウンドが大きく異なる人(生物系の募集に対して工学系の人など)や基準に達していない候補者はここで弾かれます。今回の応募内容はRNA生物学とマウスの発生生物学でしたが、必ずしもその分野の研究経験は必須ではなく、一般的な分子生物学の研究経験があれば問題ないです。ただ、「近い分野の研究経験は間違いなく有利」なため、これまでの研究分野と近い分野に応募する方が採用される可能性は高そうです。候補者の学生には学術論文などの「完璧な」研究経験は求めていないそうです。私のリクルートの際は、5人がスクリーニングを通過して面接に進みました。
面接
面接では、熱意を伝えることが重要だと強調していました。応募した研究分野について強い興味があるのは勿論ですが、「なぜPhDを取りたいのか」や「なぜスイスで研究したいのか」、といったより漠然とした質問についてはあまり考えていない人も意外といるようで、そうした候補者への印象は悪いようです。勿論、面接のみでは測りきれない点もあるため推薦状とセットで精査したそうです。
推薦状/推薦者
スイスのPhD学生募集には世界中から応募があり、色々なスタイルの推薦状が来ます。米国からの推薦状は大袈裟に褒めてあることもありますが、アジアからの推薦状はかなり控え目だったりします。そのため、推薦状のみを頼りに候補者を判断するのは難しいようです。実際、今回のスクリーニングでは推薦者と直接Zoomで話をすることで、推薦状からの情報を補足していました。PhD学生を選抜するためには研究能力を評価する必要があるため、講義を受けただけ、などの浅い付き合いの人からの推薦はほぼ無意味で、候補者の研究(実験)能力を知っている人からの推薦でなければ考慮されません。私の場合、直接の指導教員(理研チームリーダー)と大学院担当教員(大学院客員准教授/理研の異なるラボで上級研究員)に推薦状を依頼していました。指導教員からはもちろん、大学院担当教員ともコラボで実験を組んでいたため、推薦者2人から研究面でのフィードバックをW教授に伝えてもらうことが出来ました。
6. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス
繰り返しになりますが、海外大学院合格はゴールではなく、留学先で自分がやりたいことをやることが重要です!自分にもそう言い聞かせています。海外大学院の合否は往々にして自分でコントロール出来ない要素に左右されます。人事を尽くして天命を待ちましょう。詳しく知りたいことがあれば、Twitter(@kgojlp)に連絡ください!