自分の手持ち札でいかに戦略を立てて合格するか〜学部から専攻を変えた、ヨーロッパの核融合修士コースへの進学例【海外大学院受験記2023-#1】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2023年度の第1回である今回は、この秋からEuropean Master of Science in Nuclear Fusion and Engineering Physics (Fusion-EP) (核融合)に進学予定のmomoさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

高専の電気電子工学科を卒業し、電気通信大学に3年次編入しました。編入したのが2020年度でCovid-19が始まった年であり、例年なら出来たであろうことが出来なく失われた機会もありますが、それでも自分がやりたいことに向かって、もがけば道が開かれるということが伝われば幸いです。大学での専攻は電子工学なので、学部まで大雑把に言うと電気系でした。修士からはヨーロッパで核融合という分野を学びます。個人ブログもあるので、そちらも参考にしてみてください。XPLANEのポッドキャストEp43でも話しているので聞いてみてください。

2. 大学院留学を志した理由 • どのタイミングで海外に行くのか

両親(共に日本人)がアメリカの学部を卒業しているので、「自分もいつか海外で学びたい、働きたい」と小さいときから思っていました。高専から大学に進学する際に、高専から直接海外大学に進学も出来ますが(そういう人も実際にいます)、語学レベルや資金の難しさや、親に母語で専門性高めたほうがスムーズだと言われて、「そうか~」と日本の大学に進学を決めました。コロナがあったり、専門の勉強などと最終的に納得した進学なので良かったと思います。しかしこれは人によると思うので、海外に行きたい人はいつ行くのがベストか考えてみてください。

学部3年の編入直後に核融合を知り、「自分がやりたいのはこれだ!!」と感じて初めて修士以降のイメージが湧きました。自分が学校の先生方から言われたのが、海外で働きたいならPh.Dが必要ということですが、そもそも人生をかけてやりたいことがわかっていない高校生にそんなこと言っても、博士進学を想像できないと思います。漠然と海外進学を考えていた高校生の時から数年経って初めて、これに人生を懸けたいと思えることが見つかり、修士、博士という進路を想像出来るようになりました

理系でヨーロッパを選んだ理由ですが、ITERという世界最大の核融合研究所がフランスにあるからです。学部3年で核融合を知り、ITERで働きたいと強く感じた自分にとって、いかにしてそこに入るかを考えました。フランスにあるので、早いうちからヨーロッパに拠点を持つ、進学してしまうのが早いと考えた次第です。修士、博士とヨーロッパで学び、ポスドクなどでITERに行けたらいいなと考えています。将来はマルチリンガルな専門家を目指しています。

日本人で海外留学というと、英語を主に学んでいる人だと英語圏のみを考えてしまいがちだと思うのですが、ヨーロッパにも英語で学べるコースが数多くあります。英語圏よりも語学の要求レベルやGPAの厳しさが優しいこともあるので、アメリカに行くのがきつそうと感じる人はヨーロッパも見てみてください。私自身もアメリカの大学院に行けるほどGPAも研究内容も語学力もありませんでした。

ITER (フランス)のTwitterより

3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

核融合を知ってから、そもそも自分はこの分野に向いているのか確かめました。というのもこの分野はまだ基礎研究開発の段階なので、関われる仕事としては研究者がメインです。なのでこの分野の研究が好きになれるか知るために、核融合研究所の短期インターンシップに参加しました。ここでお世話になった教授に後々推薦書を書いていただいたので、分野内の顔見知りを作ること、言い換えればコネクション作りは、海外院進学において非常に大事です。

次に行ったことも無い、これまで興味を持つきっかけも無かったヨーロッパに何年も住めるのかという不安がありました。なのでVulcanus in Europeという経済産業省出資の1年インターンシッププログラムに、学部3年と4年の間で参加しました。こちらの詳細は自分のブログに書いています。半年間マドリードに滞在している間に、ヨーロッパの研究所の見学をしたり、念願のITERに行きました。これらの訪問で、自分が進学する修士プログラムを知ることができ、そのプログラムの先生とのコネクションを得ることが出来ました。この訪問も、日本でお世話になっている核融合の先生方に、マドリードの研究者を紹介していただきました。自分の知る範囲ですが、どの大学、研究所の先生方も学生が海外で学ぶことを応援してくれます。研究室見学で一度お話しただけの先生が、他大の先生を紹介してくれて、そこからマドリードで研究室見学を行うきっかけになったりもしました。総じてですが、自分は頼れる人になりふり構わず頼っていました。半年間マドリードに住んで、フランスにも遊びに行ったことで、ヨーロッパでも南欧はもう自信を持って住めるなと感じています。このプログラムのお陰で、スペイン語A2[編注1]レベルまで取れたので、ヨーロッパでの言語に関する不安も少し減りました。

マドリードの街並み

学部4年での研究室選びですが、入る前の見学時に教授に「海外院の進学を考えている」と伝えてから入りました。あまり居ないと聞きますが、院から外部に行くことを好まない教員もいるらしいので、すれ違いを起こさないためにも、何事も早めに伝えておくと吉です。自分の研究室は良くも悪くも放任タイプだったので、個人的に大学院出願に時間を割くことが出来たので良い環境だったと思います。また学部と修士で専攻を変えることもあり、出願時に研究実績などをあまり見られないとも感じていました。とくに核融合は学部で専攻できる分野ではないというのが大きいと思います。専攻や学校によって実績の有無や重要度が変わると思うので、調べてみてください。

4. 海外大学院出願のために準備したこと

学部4年に復学直後、つまりマドリードから帰国してから始めに英語の試験を受けました。初めて受けたIELTSで6.5だったので余裕をかましてしまったのが悪い癖だなあと思っています。出願先の足切りがIELTS7.0だったのですぐ行けるんじゃないかと思ってましたが、まあそんな簡単には行かないので、真面目に勉強しましょう。ちなみに英語は独学で限界を感じ(自力でTOEIC900超えられないと感じました)、語学学校に週1で3年間ほど(学部3年~大学卒業まで、マドリードの間もオンラインレッスンで)通っていました。そのおかげで英語レベルが上がったので、英語に伸び悩んでいる人は学校などのレッスンを検討するのも良いかもしれません。英語の試験でTOEFLもあると思いますが、自分はシステムの好みでIELTSにしました。IELTSもパソコンで受験できて、面接のみ対面で人と話せるので好きでした。またヨーロッパにはイギリス英語を話す人が多い印象があったというのもあります。結局9月頃にスコアを取りましたが結構遅いと思うので、早めに取ってください。

英語のスコアが取れた直後からスペイン語の試験対策を始めました。というのも出願先の教授からヨーロッパの言語の証明もあると良いと言われたからです。そのためスペイン語の語学学校に通ってDELEA2[編注1]を11月に受けました(結果は2月、合格していたので出願に添えました)。これはヨーロッパに興味があるというアピールになるからです。英語圏以外の場合、現地の言語が出来るに越したことはありませんが、必須ではありません(授業が英語の場合)。可能な人だけが検討すれば良いと思います。

自分はGPAや英語のスコアが低いので国内の奨学金にそもそも出せないことが多かったです。それでもなんとかなると思った理由は、進学先が外国人向けの奨学金を持っていたからです。そのような情報も出願先の運営から聞けるので、出願先にコネクションを作ることを非常にオススメします。奨学金を貰えなかったら、ヨーロッパで他の奨学金を探したり(マリーキュリー奨学金など)、最終手段はお金を借りようと思っていました。

ちなみに大学院の出願で「ヨーロッパ以外で学んだ学生はGREのPhysicsのスコアもあるといい」という情報を目にしたのですが、日本国内の受験の席の空きが無くて諦めました。どうやら席が埋まるのが早いようです。これも出願先に連絡して相談したら、無くてもよいと言われたので大丈夫でした。

5. 出願書類作成について

語学の試験が終わってからようやくmotivation letterを書き始めました。これが可能だったのも出願先の出願期間が11~2月と、締め切りが遅かったからです。そして早めに出しても遅く出しても評価が変わらないという理由があります。例えばイギリスなどでは早く出願するとポイントが上がるという話も聞く[編注2]ので、大学院ごとに異なります。なので自分は12~2月で書類を作成しましたが、卒業研究と被るので大変でした。計画的に出来る人は計画立ててやるのがいいと思いますが、自分は出来ないタイプなのでシンプルに頑張りました。

書類作成ですが、motivation letter, CV, recommendation letterを色んな人に添削していただきました。推薦書は関係性にもよると思いますが、推薦状に書いて欲しい内容を事前に伝えておいた方が良い先生もいれば、ゼロから書いていただける先生もいます。実際にお願いをする何か月か前からお願いしたい旨を伝えておくとスムーズに行くと思います。添削は大学の英語の先生や、留学支援課の先生、英語の語学学校の先生などに行ってもらいました。ここでもですが、頼れる人はとにかく頼ってください。私にもツイッターなどで連絡頂ければアドバイス等など出来ると思います。

6. 進学先選びについて

自分はヨーロッパで英語で学べるという条件の大学院を探していたので、進学先のプログラムしかそもそもありませんでした。なのでそこの1校しか出願していません。日本にも大学院は多くありますが、ヨーロッパに移住したかったので日本は受けませんでした。落ちたらインターンの経験を活かしてマドリードで働こうと思っていました。

アメリカなどは大学院がPh.Dの5年一貫制が多かったり、要求スコアが高かったり、そもそも出願者が猛者ばかりのイメージだったので、自分のGPA(3.0/4.0も無いです)では無理だなと思っていました。一方ヨーロッパの非英語圏ではアメリカなどのように出願者が殺到するイメージはなく 、修士と博士で分かれているところが多く、専門を変える点でも良いと感じています。

自分はGPAを強みとして使えないので、分野を変えるという条件を利用し、インターンシップの経験などで売り込みました。国や大学院、専攻によって、何を重要視しているかは全く異なるので、「自分の手持ち札はどこなら評価してくれるのか」という視点で出願すると合格しやすいのではないのかなと思います。また海外大学院は基本的に知っている人を取りやすいイメージがあるので、現地見学(留学や学会のついでに行くなど)なり、先生の紹介なり、国際学会で話すなりして、相手側に出願前から知ってもらいコンタクトを取ることが重要だと思います。うまくいけば相手側がいろいろアドバイスをくれると思います。

7. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

海外に行きたい人はそこで何かやりたい人だと思うので、やりたいことに向かってがむしゃらにもがくことが大事だと思います。自分が動かないとチャンスはやってきません。頼れる人を頼りまくって、XPLANEなども使い、自分にチャンスを引き寄せてください。動けば道は開かれると信じています。海外に進学した人たちは、自分のみならず聞けば教えてくれると思うので、とりあえず動いてみてください。ここに書けないことなどもあるので、もっと詳細聞きたいぞって人はXPLANEのSlackなり、ツイッターなりで連絡ください。応援しています。

【編注】

[1] DELEスペイン語検定(スペイン教育・職業訓練省の下に、スペイン国外ではインスティトゥト・セルバンテスが実施する、スペイン語の検定試験)におけるレベルの1つ。スペイン語圏への留学、就職などの際に語学のレベルを保証するものとして国際的に認められている。
A2レベルは、「日常で身近な表現、自分自身や家族のこと、買い物、興味のある場所、仕事など簡単な日常的事柄や、すでに経験がある事項に関して理解をし、即座に応対をすることができる。 簡単な既知の内容や習慣の会話、自身の過去の出来事や身の回りで起こったことの描写など、必要に応じて表現することができるレベル」に相当。(参考サイト

[2] Rolling Systemといい、出願を随時受け付けており、応募してきた学生から先に審査を行って合否を決め、合格者の数が入学定員に達した段階で出願を締め切るシステム。イギリスの大学(院)に多いシステムだが、アメリカなど他の国の大学でも一部採用しているところもある。Rolling Admissionの場合、出願の締切日が設定されていないことも多い。

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