大学院で分野転向! 〜物理屋になりたかったんだもの〜【海外大学院受験記2024-#2】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2024年度の第2回である今回は、この秋からMITの博士課程(物理学)に進学予定のふっかさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

こんにちは、ふっかです。日本の高校を卒業し、シカゴ近郊のNorthwestern Universityにて4年間学部留学しています。今年6月にNorthwesternの応用数学科(Bachelor)を卒業し、9月からMITの物理学科 (PhD) に進学する予定です。

研究職を目指すならアメリカで学ぶべきだという思いでNorthwesternに学部留学をしました。日本に帰りたい、とふと思うことも何度かありましたが、頑張って大学院課程もアメリカで続けることにしました。

Northwestern University

2. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

高校時代から数値流体力学に興味があり、Northwestern Universityには環境工学/機械工学専攻として入学しました。その後、数値シミュレーションのもっと深い数学を学びたくなり応用数学科に転向しました。とても楽しく勉強できましたが、一方で実験物理への憧れを諦めきれず、PhDでは分野を変え、原子・核物理の実験に携わることにしました。

Northwesternでは主に二つのラボで働きました。1つ目は物理学科の実験ラボで、超低温下の原子トラップに陽電子を隔離する実験をPhD学生二人と2年ほど取り組みました。2つ目は応用数学科の数値ラボで、恒星核内のプラズマ流をスパコンでシミュレーションするタスクにPhD学生一人と半年ほど取り組みました。

結果から言うと、大学院出願時にpublicationは一つもありませんでした。僕の工学部友達に「5,6本出したよ」という人が何人かいたので、とても焦っていましたが、PhD合格後のOpen Houseに参加した時、「僕は1本も論文出せなかったけれど、出した学校は全部受かった。僕の友達で天体理論を研究してた子は2本論文出したけど、2校しか受からなかった」という人に出会いました。分野にもよりますが、publicationがなくても気後れする必要がないのだと知りました。

3. 英語の勉強に関して

僕は日本の高校を卒業して、Northwestern大学に入学しました。当時は、英検1級の単語帳を物理的に擦り切れるまで暗記しました。オンライン英会話も1年半ほど受講しました。当時のTOEFLスコアは102/120点で足切り寸前でした。他の方々の記事の英語勉強法を拝見すると、確かにそのようにすればよかったと思う点が沢山ありました。

4. テスト(TOEFL, GRE)の対策

米国学部からの出願はTOEFLがoptionalだったので、TOEFLは受けませんでした。GREも大半の大学がoptional又はnot consideredだったので、GREも受けませんでした。最近はGREを提出しなくて良い大学も多いですが、一応出願する可能性のある全ての大学をチェックしておくべきだと思います。

5. 出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)

奨学金の事前調達無しで大学院を受験しました。

SOPは志望先の研究室の研究と関係のあることのみ記入しました。僕が聞いた範囲では大学院アドミッションは初期値ではなく傾き(成長するスピード)が大切らしいので、SOPは「こいつは昔は凄かった」ではなく、「こいつはこれから伸びていきそうだ」という印象を残せるように書く順番を工夫しました。

僕の場合、推薦状が選考に際し最も大きなインパクトがあるという印象を受けました。PhDはアカデミックな推薦状が3通必要ですが、僕は以下の3名に推薦文を書いていただきました。

応用数学科の助教授

  • 数値ラボのPI
  • 彼の教える大学院の授業で首席

応用数学科の教授

  • アカデミックアドバイザー
  • 彼の教える大学院の授業で首席
  • 幾つかの授業にグレーダーとして雇われる

物理学科の冠教授

  • 実験ラボのPI
  • 彼の教える大学院の授業でA

僕はずっと応用数学を学んでいたので、物理専攻用の授業は2つだけしかとっていませんでした。どうすれば自分の能力を証明できるのか考えた末、4年生の秋学期(出願時期)に、開講している中で一番難しい物理の大学院の授業に飛び込み、頑張ってAを取りました。

その授業を教えていたラボの教授に「僕は量子力学の授業を1つもとっていない」と伝えると、その状態でAを取ったことに大変感動したらしく、そのことも推薦状に書いていただけたようです。

この大学院受験で僕が唯一自信を持って言えるのは、推薦文を書いていただいた人たち全員に強烈な印象を残したということです。実際、大学院の面接官に「君の推薦文はとにかく凄かったよ」と言ってもらうことがよくありました。

僕は英語が下手くそで、教授とのコミュニケーションもあまり上手くできず、周りの生徒のようにOffice Hoursに通い詰めて積極的にアピールしたりしなかったので、教授に対する印象自体はさほど強くありませんでした。僕にとって、推薦文はずっと悩みの種でした。

「周りのアメリカ人はアピールが上手いから、僕がその中で目立つには彼らより頭3個分抜け出てなあかん」と思い、ラボで周りの院生より長い時間働くとか、大学院の授業で首席を保つといった努力を何年も続けた末、教授たちに「こいつ凄い奴かもしらん」という印象を残せたのだと思います。

6. 進学先選びについて

PhD課程は長いので、本当に学びたい大学に出しました。僕は、「全て失敗すれば日本のどこかの大学で無給で1年働こう」と考え、行きたいプログラムにしか出願しませんでした。この背景には、PhDに入る前にいろんな場所で研究経験を積んだ人が最終的にPhDを成功させているケースが周りに多く、ギャップイヤー/浪人に対して抵抗が薄れていたことがあります。

カタリン・カリコ博士のように自分の興味ある現象一つに人生を賭ける研究者がいる一方で、僕は最後までいろんな分野に興味が分散し、一方でどの分野が自分を必要としているかも見えませんでした。また、大学院では「何を学ぶか」よりも「どんな環境で学ぶか」に重点を置いていました。どれだけやりたい研究でも、蓋を開けたら誰も助けてくれない、資金が足りない、では成長がどうしても限られます。ですから、とにかく良い場所に行って、熱意ある人と出会えれば、自分もそこで成長するだろう、という思いで、出願にあたり全落ちするリスクを一般的なreach/safety schoolという「難易度」で分散させるのではなく、「研究手法/分野」で分散させ、各分野で一流のプログラムに提出しました。

僕は学部での研究と関連した、これから進歩しそうな分野を幾つかに絞り、2手法(数値/実験)3分野7校に出願しました。Stanfordだけは教授と事前コンタクトを取りました。

[分野1] 航空宇宙工学Aerospace Engineering

Stanford University (数値) – 合格
MIT (数値/実験) – Waitlist

[分野2] プラズマ物理Plasma Science/Nuclear Engineering

Princeton University (実験)  – 不合格
University of Michigan (数値) – 不合格

[分野3] 原子/原子核物理 Atomic/Nuclear Physics

MIT (実験) – 合格
University of Chicago (実験) – 合格
UC Berkeley (実験) – 内定辞退

合格した学校の中で、最終的にStanford Aerospace (数値)とMIT Physics (実験)の二択に絞り、応用数学科としてコンフォートゾーンである数値解析に進むか、やや未知の世界である物理実験に進むかで1ヶ月悩んだ後、思い切ってMITに飛び込むことにしました。後悔は一切なく、良い選択ができたと思います。

7. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

  • 大学院の教授に事前面接するべきかどうかは、その人のラボのホームページに「if interested, contact me」といったことが書いてあるかどうかで判断すれば良いと思います。
  • 教授と面接したい場合は、You can email professors, but it can backfire. というのが結論です。うまく面接まで持ち込み、面接でも強く印象を残せたらベストですが、(「ぜひとも事前コンタクトをとるべき」との投稿が多い分敢えて逆の立場をとると、) 教授の意向がアドミッション側に伝えることが出来ないプログラムが多い一方で、教授一人と事前コンタクトするのに論文読んで学会の動画見て…という膨大な準備時間を考慮すると、優先度はやや低いといえます。
  • 特に興味はなかったけれど長い間続けていた研究や仕事などをCVに書き入れる際は、読み手がその事をどう捉えるかよく意識した方が良いと思います。もし面接で聞かれても、面白い印象を残せる回答が出せそうなものを優先しましょう。
  • Personal EssayやDiversity Essayなどを適当に書く人もいると聞きますが、僕は出願後面接された教授に「君のPersonal Essayが面白かったから面接したくなった」と言われたこともあったので、ちゃんと書いた方が良いと思います。
  • いつも自分に言い聞かせていることではありますが、良い環境は人を育てる一方で、与えられた環境をうまく使いこなせるかどうかはその人次第です。与えられた環境がどうであれ、今いる場所でベストを尽くすことが留学のポイントだと思います。
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