バーに行ってみよう!【XPLANE TIMES 留学生活だより】

本記事はXPLANE TIMES(ニュースレター)第1号(2023年10月1日発行)内の連載企画『留学生活だより』に掲載された記事です。
連載企画『留学生活だより』では、海外留学において大学内に限らない趣味、生活に関する事柄、地域特有の事情などについての記事を掲載しています。

今回はヨーロッパの都市のバーカルチャーについて書いてみたいと思います。私は、University College LondonのMSc Science, Technology, and Societyに2022年9月から23年9月まで在籍していた大野康晴といいます。私の趣味の1つは色々な都市のバーとカフェを巡ることで、これらのためにイギリスからフランス、ドイツ、ノルウェー、デンマークなど様々な国に出かけていました。皆さんはバーと聞くとどのような印象をお持ちでしょうか。値段が高い、カクテルやお酒の知識がないと楽しめない、ちゃんとした服装で行かないといけない…など敷居の高さを感じている方が多いかもしれません。ですが、(一部例外はありますが)原則としてヨーロッパ諸都市のバーは非常にカジュアルで、独創性に富んだカクテル・モクテル(ノンアルコールカクテル)がたくさんあるので、ヨーロッパ滞在中にぜひ一度訪れてみてほしいと思います。今回はそんなバーカルチャーについて何点かお伝えしてみたいと思います。

そもそもバーとはどのような場所なのでしょうか。読者の皆様の中には「イギリスはパブも有名だけれど、パブとバーってどう違うのだろうか」と疑問に思っておられる方もいらっしゃるかもしれません。大まかに言えば、パブはドリンクとフードの提供のどちらにも力を入れており、併設されたダイニングには子供なども入ることができる一方、バーはドリンクの提供に重きを置いており、年齢制限が厳しく適用されるというような違いがあります。イギリスのパブでは、フィッシュ・アンド・チップスなどのフードが提供されており、日曜日の昼下がりにはサンデーローストというローストビーフにポテトやビーンズなどを合わせた料理も提供されています。他方、近年例外は増加しているように思いますが、バーは原則としてオリーブやナッツなど軽くつまめるものくらいの食べ物しか提供していません。そのため、カクテルやモクテルを楽しむことがバーにおける主な体験となるのです。

では、そんなカクテルやモクテルを楽しむためにはお酒に精通していることが重要なのでしょうか。いいえ、全くそんなことはありません。バーのメニューにはカクテルに使用されている材料や風味の特徴が必ず記載されており、中には図表やイラスト等を用いてわかりやすく表現しているバーも数多く存在します。例えば、パリにあるDanicoというバーはインドネシアのカルチャーにインスパイアを受けており、1つ1つのカクテルがどのようにインドネシアのものと関わり合っているかについて説明文とイラストで詳しく解説しています。

上が実際のメニューの写真で、カクテルの背景にある着想とストーリーについての説明、使用した材料、提供するグラスの形状、カクテルの作り方が書かれています。多くのバーは、ゲストに対してカクテルに関する情報をわかりやすく伝えたうえで、納得感を持ってカクテルを選んでもらえるような仕組みをデザインしています。書かれている材料が、ヨーロッパでしか流通していないお酒や日本の店頭に並ばない果物・野菜など、馴染みのないものであることも度々ありますが、分からない部分についてはバーテンダーに質問すると詳しく教えてもらうことができます。どのメニューを見ても理解できないという場合でも、その日の気分に応じて、「甘めのカクテルで、アルコールが強くなくて、炭酸を使っているものを教えてほしい」などと注文すれば、メニューに載っていないものであっても柔軟に対応してもらえるはずです。バーに行くうえでまず大切なことは、自分が飲みたいカクテルの味をざっくりとイメージすることと、その日の趣向に合うカクテルを自分で探すかバーテンダーに聞いてみることだと私は考えています。

おそらくここまでで、特別な専門知識がなくてもカクテルを楽しむことができることはご理解いただけたのではないかと思います。そのうえで皆様が気になることはバーを利用するシチュエーションと価格帯ではないでしょうか。利用のシチュエーションに関しては、日本よりもヨーロッパのバーの方がずっと多様であると私は思います。例えば、友達と待ち合わせして食前酒としてカクテルを1杯飲んでからレストランに向かうとか、休日の昼下がりに友人と話すお供にカクテルを選ぶとか、そういう「身構えない」場面での利用をよく目にします。そのためなのかもしれませんが、バーに来る人たちの服装は本当にカジュアルで、Tシャツに短パン、サンダルでやってくる人も多くいます。一部ドレスコードを設けているバーもあるので要注意ではありますが、私の実体験として、ロンドンにあるEditionという高級ホテルのバーにジーンズで出かけていきましたが、服装についてなにか言われることはありませんでした(なぜ高級ホテルのバーに行けたかという話は後述します)。大学で研究や授業を終えたあとに友達と一杯ひっかけるくらいの気軽さで立ち寄るのもいいかもしれません。

価格については、どうしてもパブなどよりは高くなってしまいます。ロンドンのバーであれば相場は12~18ポンド(日本円で2160円〜3240円)程度です。2023年現在の驚くべき円安のため、円換算すると背筋が寒くなりますが、ポンド相場でいえばそれほど高いわけではありません。EU諸国のバーも各国の物価に左右されるため一概に相場は言いづらいのですが、だいたい1杯15ユーロ(2350円)前後だと思います。ただし、カクテルイベントというお手軽にバーを楽しむ手段も存在します。大規模なものとしては、毎年10月に2週間ほど開催されるLondon Cocktail Weekがあります。これはロンドンの100以上のバーが参加する一大イベントであり、10ポンド前後で参加用のリストバンドを購入して参加することができます。イベント期間中は、各バーでリストバンドを提示すれば、バーがイベントのためだけに用意したカクテルを1杯7ポンド(1260円)で楽しむことが可能です。やはり日本円で見てみると高く感じますが、ロンドンのその辺で売っている適当なケバブやファラフェルラップを購入するのと変わらない価格です。さらに、高級バーもこのイベントに参加しており、普段であれば1杯のカクテルに20ポンド以上支払わなければいけないバーであっても、イベント用のカクテルは7ポンドで飲むことができるため、色々なバーを訪れてみる良い機会になると思います。前述のEditionのバーに訪れることができたのはこのイベントのおかげでした。

ではなぜこんなお金を払ってまでバーに行く価値があるのか。それはカクテルという作品を楽しむ経験ができるからだと私は思っています。カクテルは単なるお酒ではなく、材料を使用した意図やゲストに伝えたいストーリーを伴うバーテンダーの作品です。愚にもつかないカクテルは山程あるものの、材料を巧みに利用して今までにないドリンクに仕上がっているカクテルもたくさん存在しています。そうしたカクテルに驚きや感動を覚えつつ、ときに親しい人と時間を分かち合うことがとても楽しく、私はバーへ足を運ぶことをやめられないでいます。

最後に、いくつか私の好きなバーを紹介させてもらいたいと思います。ヨーロッパのいくつかの都市に限定されてしまい申し訳ありませんが、もし機会があれば訪れてみてもらって、カクテルや他の良いバーに関する話などいろいろな話をバーテンダーとしてみてもらいたいです。

A Bar with Shapes for a Name, London
バウハウスに着想を得たバー。氷にプリズムを閉じ込めたカクテルが有名。極めてシンプルに見えるが、その味は非常に複雑かつ練り上げられている。

Little Red Door, Paris
パリで最も有名なバーの1つ。ひとつひとつのカクテルを代表する材料を契約農家から取り寄せており、生産者のストーリーも併せて伝えている。

参考サイト

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