XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第13回である今回は、この秋からアメリカ・ミネソタ州のUniversity of Minnesotaの博士課程(コンピュータサイエンス)に進学予定のいのうえさんに寄稿していただきました。
概要
社会人から博士課程の受験を行い, University of Minnesota, City University of New York の Computer Science PhD から合格をもらい, University of Minnesotaに進むことにした.
本稿は XPLANE という大学院留学のためのポータルサイトやSlack運営を行う組織への寄稿として書く. 想定する読者は地方大学など出身の方や, GPAが低く海外大学院の選択肢を諦めようか迷っている方, 社会人から博士課程に進みたいと思われている方を考えている.
自己紹介
こんにちは. 静岡出身で先日までWeb広告系の会社で機械学習エンジニアをしていたいのうえ (@inoue0426) と申します. 今はニートです. 学部は九州の大学の理学部, 修士は関西の大学の情報科学分野で取得しました. 本稿は前述の通り、特に地方大学出身の方、GPAが低い方, 勉強時間が取りづらい社会人の方に向けて書いております. 本稿を読まれる方に留意していただきたいのですが, これは特に誰彼に対してGPAが低くてもなんとかなるとか, 時間かけなくても受かるわ〜とか言いたいわけではなく, 苦労するし大変なことも多かったけど, やればなんとかなった, というポジショントークが多く含まれている内容のため, 8割くらいは無視して2割ほどはなるほどな〜, と思っていただけたらありがたいです.
大学院受験を志した理由・きっかけ
大学院留学を志したきっかけは, 修士課程にて経験した研究留学です. 私は学部時代は生物系のラボで, 植物生理学の研究を行っていました. 具体的に言うと, ある植物がどの代謝経路を用いてエネルギー生産を行っているかというのを実験で調べるというようなものでした. 私はこの研究を通して生物の教科書などに出てくる情報はとても限定的であり, 例えば細胞の図に示されている情報は平面的な情報でしかなく, その細胞が実際どういう仕組みで動いており, ひいては人体がどういう仕組みで動いているか知りたいと思っていました. それを総体的に知るには生物学的な手法でデータを取得し, 情報学的な手法で分析する以外に手立てはないと考えたため, 修士課程では情報系に進みました.
修士では生物情報学を専門に研究を行い, また在学中にカリフォルニアの大学にて4ヶ月ほど客員研究員として研究を行いました. そこでは化学情報学の領域で著名な教授と研究を行う機会を得ることができました. この経験を通して, 私は世界的に著名なラボでの研究の進め方, 様々な思想を持つ人との接し方, 自分の研究への取り組み方など, 様々な面で改めて考えることがありました. またこの経験が, 学部時代に海外での就労, 特に研究を行いたいと考えていたことを改めて想起させました. これが私が大学院留学を志したきっかけです.
海外大学院出願で苦労した点
前述したとおり, 私は修士課程の時点で博士課程への進学を決めていましたが, その上で難しいなと思っていたのが英語試験のスコアです. 私が進学を考えたのは修士2年であり, 卒業までに出願の準備を行うことは難しいと考えていました.
そのため私は就職後2年間を博士課程進学の準備期間と考え, その間を可能な限り留学準備に当てることとしました. ちなみに, M2時点で私のTOEFL iBTのスコアは54点でした. 博士課程進学のためのスコアの最低点が100点と置くと約半分ですね, よく受かったなほんま.
就職した年の5月に, 私は渋谷にあるTOEFL専門の塾に半年間通うことにしました. ここに通おうと決めた理由は, どうしても社会人だと自分の意思で勉強を行う時間を確保することや, 適切な方向の努力を独学で行うことは難しいのではないかと思ったためです. この間私の時間の使い方としては, 平日11-19時仕事, 20-24時英語, 土日は英語8時間くらい, という生活をしていました. 結果として, 半年後にOverallでTOEFL79点を取ることはできました. しかし先述したとおり, 大学院留学には100点を最低点としている大学も多く全然足りません. このとき私は問題の傾向を分析し, IELTSの方がスコアが出やすいのではないかと考え, とりあえず一度IELTSを受験しました. IELTSはEU圏で多く用いられている英語のテストであり, 近年ではアメリカの大学でも使えるようになっています. 初めてIELTSを受験したとき私はOverall 6.0を得ました. アメリカの大学ではIELTS 6.5-7.0が最低点であり, EUの大学では, 例えばUniversity of Manchesterなど有名なところでも 6.5 あれば最低点を上回ることができます. そのため私は, 打算的にですがIELTSに切り替えることにしました. 色々すっ飛ばしますが, 結果的にIELTS 6.5 のスコアを得ることができました. 現在受験を考えている方にはTOEFLに固執するより, IELTS, Duolingo english test など, 他の可能性に切り替えることも大事ではないかとお伝えしたいです.
勉強法や受験対策は, https://www.path-to-success.net/category/ielts などを見てもらえばいいと思うのでそちらをご参照ください.
出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)
奨学金に関して
奨学金は, 私は一つしか出していません(平和中島財団). これが最も大きな現役大学生との違いかもしれませんが, 基本的に日本の財団などが提供している奨学金は年齢制限などがあり, 既卒の方が出すには不利な点が多いです(参考:XPLANEの奨学金リスト)
そのため, ここに時間を割くのは, 既卒の方であれば, 得策ではないと考えます. もし実績が多分にあるなど, 受かる可能性が高ければ出してもいいと思いますが, そうでなければここで頑張るのは神経をすり減らすだけなので頑張らなくても大丈夫です.
SoPに関して
大学院進学で最も重要とされているのがStatement of Purpose (SoP) です. 私の場合SoPは自分で草稿を書き, それを元に XPLANE のメンターの方に添削をいただいていました. これはとてもありがたいので, お手伝い頂いたほうがいいと思います. 自分の主張や, なぜその大学に行きたいか, など目的などの言語化は自分で行い, その上でどうすれば伝わりやすいか, 文章構造的に適切か, など多岐に渡る支援を受けることができました. 他意なくおすすめすることができます.
推薦状に関して
推薦状は,
- 留学先のメンター
- 修士の教授
- 会社のマネージャー
にお願いしました.
これに関しては, 一緒に働いたことがある博士持ちの方にお願いすることが適切と考えています. こちらもご参照ください. https://xplane.jp/application-prep/reference-letter/
進学先選びに関して
出願にあたり私が連絡を取った教授はアメリカ, イギリス, フィンランド, デンマーク, フランス, ドイツ合わせて50人くらいで, そのうち連絡が返ってきたのは1/3くらいでした. この連絡を行った人の中から出願したのが以下の大学です. これには結果とInterviewの有無を載せています.
Name | Department | 事前コンタクト | 面接 | 結果 |
---|---|---|---|---|
University of Colorado Denver | Computational Bioscience | あり | あり | ✕ |
Boston University | Bioinfomatics | あり | あり | ✕ |
University of North Carolina | Bioinfomatics | あり | なし | ✕ |
Pennsylvania State University | Bioinfomatics | あり | なし | ✕ |
University of Colorado Boulder | Computer Science | あり | なし | ✕ |
Georgia Institute of Technology | Computer Science | あり | なし | ✕ |
University of Minnesota Twin Cities | Computer Science | なし | あり | ○ |
The City University of New York | Computer Science | あり | あり | ○ |
Boston University | Data Science | あり | あり | ✕ |
まとめると私は9校に出願し, 2校からAcceptをもらいました. その上で, 私のキャリアや考え方に真摯に寄り添ってくれると感じ, また私がこの分野で研究を行いたいと考えた論文を書かれた教授が在籍するUniversity of Minnesota Twin Citiesを選びました.
"File:UMN Northrop Mall summer.JPG" by Gopherbone at English Wikipedia is licensed under CC BY-SA 2.5
最後に
改めて本稿の趣旨である, 社会人から海外の大学院に進もうという方に対してお伝えしたいことですが, 大学を選ばなければ, どなたも海外の大学院に進むことは可能である, と考えています.
これは, 特に社会人の方が大学院に進む場合, 何かしら自分の中でやりたいことがあるという前提で話をしています. UC Berkeley, Stanford しか行きたくないという人はわかりませんが, 例えば機械学習のある手法を用いてこういう課題を解決したい, という考えを持っていたら, その分野の教授のラボを受ければかなりの確率で受かると考えています. 私の場合は, 機械学習を用いた生物学的ネットワーク(代謝物や遺伝子のグラフ構造)の解析を研究として行いたいと考えており, それを行っている研究室から合格をいただきました. というか, それ以外合格を貰えませんでした. これは良くも悪くもありますが, 私の場合はかなり狭い分野でやりたいことがありました. それを押し通すことも大事ではあると思うし, より広くに興味がある場合は, 広く見聞を広げることもいいのではないかと思っています. むしろ, そちらの方が選択肢を広げられるため可能性は多くあるかもしれません.
またGPAに関して言うと, 私のGPAは高くありません. 修士のGPAは 3.8くらいですが, 学部のGPAは2.5くらいです(見たければ私のCVもお見せします). またコネに関して言うと, 留学はしていましたが分野が違うため, そこまでの利点はなかったかと思います. ですが, 自分のやりたいことが明確にあり, それを自分の生涯の研究として行っていきたいと考えていたため, 結果としてそれが今回の合格につながったのではないかと考えています.
一度社会人になられた方が改めて大学に進学する, 特に海外となると多くのハードルがあるかと思いますし, 実際多くありました. その上で, それでも研究を行いたい, 海外の大学に進学したいと思えばすればいいのではないでしょうか. それを行うためのサポートはXPLANEなど, 情報は以前より多く, 出願はそれほど難しくはないと思われます. またもし何らかの手助けが必要であれば私に可能なことは何でもお手伝いするので, 気軽にご連絡いただければと思います.
本稿がどなたかの今後の決断の一助となれば幸いです.
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