アメリカPhD Nursingに挑戦!【海外大学院受験記2023-#11】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記」では、海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。2023年度の第11回である今回は、2023年秋からカリフォルニア大学サンフランシスコ校の博士課程(看護学)に進学された鈴木さんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

みなさん、はじめまして。アメリカのUniversity of California, San Francisco (UCSF) School of Nursing PhD program 1年の鈴木はるのと申します。 関心分野はGerontology(老年学)で、 高齢期の感覚障害とテクノロジーの活用に関心を持っています。東京医科歯科大学卒業後に3年間看護師として働いた後、東京大学で修士課程を修了し、同博士課程1年目の2022年にアメリカのPhDを受験しました。 

この数年に日本人がアメリカのPhD Nursingを受験した記事がweb上に少なかったため、最新のアメリカPhD Nursing受験体験談をお届けできたらと思います。この記事が私と関心分野が近い方や、アメリカのPhD進学に興味がある方に少しでも役立ったらうれしいです。

2. 海外大学院進学を志した理由

私がアメリカのPhD Nursingを受験した理由は主に下記の3点でした。

1- アメリカでNursing, Gerontology分野の最先端の研究を学び、高齢社会の課題解決に役立つ研究能力を高めたい

日本は世界有数の高齢化率を更新しており、孤独死や老老介護、医療介護費の増加など、様々な社会課題が顕在化しています。正解がない社会課題の解決の糸口を探るため、Nursing・Gerontology分野で最も有名な国アメリカで最先端の研究を学びたいと思いました。

  1. UCSFのPhDを受験した理由

自分の関心分野である高齢期の感覚障害とGerontologyの理論を専門とする研究者がUCSFに在籍していたので、彼女達から集中的な指導を受けることが留学の狙いの一つでした。実はUCSFはNIH(National Institutes of Health) funding獲得額の全米1位を毎年Johns Hopkins Universityと争っています。UCSFには大型研究費獲得のノウハウが蓄積されているのではないかと思い、UCSF受験への興味が湧きました。https://www.ucsf.edu/news/2023/02/424826/ucsf-no-1-public-recipient-national-institutes-health-funding-2022

  1. Nursing(看護学)のPhDを受験した理由

よく「看護にもPhDってあるんだね」というコメントをいただくことがあります。 私がHealth Scienceの中でNursingのPhDを選んだ理由は、看護の視点は必ず高齢社会の課題解決に役立つと思ったからです。例えば、心不全や認知症など、高齢者は治癒困難な慢性疾患や障害を経験するケースが多く、症状増悪を予防する役割を看護師が担っています。病院だけでなく地域や在宅など、看護師は様々な療養環境での役割を期待されています。さらに、社会的に脆弱な集団への共感的姿勢や鋭敏な倫理観、患者の健康をholisticに捉える視野の広さなどは看護の強みだと考えています。看護学は臨床実践と患者還元ありきのサイエンスです。看護学は未開拓な部分も多いですが、医療分野の中でも新たな可能性を秘めていると思います。看護は自分の関心分野に直結しており、自分にとって魅力的な分野だと考えたため、Nursingの大学院に進学することにしました

2- 海外の研究者と多分野横断型のチームで研究する経験をしてみたい 

日本の大学院での経験から、gerontologyでは他分野の研究者と協働して多分野横断型(multidisciplinary)の研究を進めることが重要だと学びました。医療分野だけでなく自然科学・社会科学などの他分野の理論や研究手法を自分の研究に盛り込むことで、自身の研究分野の枠を越えた新たなシナジーが生まれ、より生産的に研究を進められることがわかりました。多分野の研究者と関わり、分野融合的なテーマに取り組む「旨み」を知ってしまったので、PhDでもそういった研究を続けたいと思いました。

3- ずっとアメリカのPhDに行ってみたかった

学部生の時にアメリカで1ヶ月の短期留学をして、看護師にも海外でPhDを取って研究者になるキャリアパスがあると知って心踊りました。その時からアメリカのPhDに挑戦したいという気持ちが残っていました。2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、先の見えない不安から「やっぱり私には留学は無理かもしれない」と一度諦めかけました。しかし、XPLANEの皆さんの合格体験記を読んで励まされ、やってみたらまだ間に合うかもしれない‥と一念発起し、2022年春に受験準備を開始しました。長年温めていたビジョンをもとに海外大学院に挑戦するのは自己のキャリアへのモチベーションを維持する上で重要だと気付きました。この他にも、これまで1ヶ月以内の短期留学の経験しかなかったので、長期で海外留学してみたいという理由もありました。人生の中で一度は留学してみたい、という単純な志望動機も素敵だと思います。

3. 出願結果

私は最終的に4校受験し、UCSF1校のみ合格しました。受験したプログラムの国は全てアメリカで、QSランキングNursing分野で世界15位以内のtop schoolでgerontologyを専門とする研究者がいるPhDプログラムとしました。志望校選定の方法については次のセクションで詳しく説明しています。
(QS ranking Nursing: https://www.topuniversities.com/university-rankings/university-subject-rankings/2023/nursing )

志望順位大学名事前コンタクト書類選考面接結果
第1志望アメリカUniversity of California, San Francisco1人とzoomあり(1/27)合格(2/23に大学から正式にメール)
第2志望アメリカUniversity of Washington2人とzoom×なし不合格
第3志望アメリカUniversity of North Carolina, Chapel Hill1人とzoomあり(2/2)辞退
第4志望アメリカJohns Hopkins University1人とメール×なし不合格

4. アメリカPhD Nursingの出願プロセス

・ 志望プログラムの選定

私は総合的な観点から各プログラムに点数をつけて比較し、出願の優先順位を決定しました。 指導教員との関心分野の一致や関心分野の研究者の豊富さ、PhDプログラムの魅力、大学全体の研究実績、滞在都市の特徴も含めて包括的に決定することをお勧めします。その方が現地で生活し始めてからのリアリティショックが少なく、大学院入学後の後悔が減ると思います。 何が自分にとって最も重要な価値観か、どのプログラムが自分に合っていそうかを総合的に判断して出願するプログラムの優先順位を決めるとよさそうです。

プログラムの選定は2022年4月頃より開始し、各大学のweb上の募集要項・QSランキングの指標を参考に志望校リストを作成しました。

私がプログラムの志望順位を決定する際に重視した評価軸は下記の4点でした。

  1. 指導教員の専門分野と自分の関心分野の一致(gerontology、高齢期の感覚障害) 
  2. Gerontologyの研究施設
  3. 大学全体の研究実績(論文、研究費)
  4. 多分野横断的な研究ができる環境

XPLANEのwebsiteにも志望校選定のコツについて情報提供されていますので、こちらも参考にしてみてください。

・ advisor(指導教員)の選定

PhDの受験にadvisor選定は必須のプログラムが多いです。私は2022年4月から大学院のホームページの情報を集め、関心の合う先生の論文を読んでadvisor候補の先生20名にメールを送りました。そのうち今年PhDの学生を受け入れていると返事があったのは11名、zoom面談をしたのは5名でした。 

advisor を探す時のポイントは、advisorの研究分野での専門性だけでなく、advisorの研究手法が自分の大学院で習得したいスキルと合致しているか、advisorが大型grantを獲得した経験があるか、advisorが筆頭著者で論文をconstantに書いているかなども重要なので確認しておきましょう。入学後にassignされるプロジェクトや博論でトライできる研究が変わってきます。

奨学金

奨学金は、2022年8月に笹川保健財団の「Sasakawa看護フェローに応募しました。9月上旬に書類審査、9月下旬に面接を受け、1週間後の9月末に採択の連絡をいただきました。奨学金は1つのみ受験しました。募集時期についてはメルマガに登録すると募集時期や説明会情報が送られてくるのでメールアドレスを登録しておくことをおすすめします。

SOPとCV

XPLANEのSOP執筆支援プログラムを活用させていただきました。メンター、サブメンターと2022年8月頃からアイディアの構想を練り、9月から11月までSOPの執筆を行いました。 遅筆な私にとってメンターのお二人と定期的に進捗確認できたことは非常に良いペースメーカーになりました。メンター・サブメンターから丁寧なアドバイスをいただき、最後には納得のいくSOPとCVを作成することができました。本当にありがとうございました。 またSOPとCVの他に、自分が志望大学院のコミュティでどのようにDiversity, Equity and Inclusion (DEI) に貢献できるかについて書くPersonal History Statementも作成して提出しました。

Interview

Interviewのプロセスや内容は分野やプログラムによって異なると思いますので、一例としてお読みください。書類選考をpassしてinterviewに進んだのは2校でしたが、どちらもオンラインで1回45分程度でした。 UCSFは2023年1月下旬に1 on 1のinterviewが2回ありました。UNCは2月上旬に4名のadmission committeeによるinterviewが1回ありました。

Interviewerの内訳については、UCSFは1名が既にメールでやり取りしていた現在のadvisor、もう1名が面識のないprofessorでした。UNCも2名はメールでやり取りしていたadvisor候補、残りの2名は面識のないprofessorでした。 Interviewの質問は、SOPに書いた内容を深掘りする質問が中心でした。例えば大学院受験の志望動機、過去の研究経験・臨床経験、入学後にPhDで行いたい研究計画、卒業後のキャリアプランなどでした。他には、日本からアメリカのPhDにtransferしたい理由、修士の研究で苦労した点、advisorとmenteeの関係性を継続していく中で重要な点、DEIに関する過去の活動経験、などを尋ねられました。 私が面接に進んだ2校は通常のmeetingの延長のような、フランクなinterviewだったのでリラックスして自分の考えを話すことが出来ました。

5. 合格要因

1- 指導教員との研究分野のマッチング 

高齢期の感覚障害という自分の分野ではニッチなテーマに関心を持っていたため、関心が合う学生がいること自体が珍しいと思われた可能性があります。

2- 推薦状

推薦状を書いてくださった日本の大学院の指導教員の1人は現在のadvisorと共同研究をしていた経験がありました。他にも、他学部の先生やアメリカの大学院制度に理解のある海外の先生にも推薦状を書いてもらい、CVやSOPでは書ききれない情報を捕捉してもらうようにしました。

3- 過去の研究経験

日本の大学院時代の研究経験はinterviewでも詳しく尋ねられました。特にinternationalの学生は論文執筆や学会発表などCVに業績が豊富にある方が現地のアメリカ人の候補者と対等に戦いやすいと思います。

4- 奨学金

PhD programではPhDの学生の学費と生活費を大学側が支払う必要があるので、自国の外部奨学金を得ていると大学側の経済的負担が減り、奨学金がある学生は合格の目途が立ちやすい印象があります。 合格通知が出る2週間前にadmission officeからメールが来て、本当に3年間の学費と生活費がカバーされる奨学金を持っているのか、詳細を確認されました。

6. 合格へのTIPS

・ 留学に関心を持った早い段階で留学経験者の話を聞いて長期的なキャリア戦略を練ろう

社会人時代にアメリカでPhDを取得した日本人研究者に相談に乗っていただきました。その時に、日本で修士を取ってから博士からアメリカに行くのは、先行事例も複数あり、海外留学経験のない日本人でも合格の可能性があると教えていただきました。その時から博士からの海外留学を検討し始めました。

SOPは自分の志望動機とこれまでの経験を紐づけしたストーリーラインを作って他の人に何度も読んでもらおう

SOP執筆の際、パラグラフごとの大まかなstructureを理解し、志望動機とこれまでの経験に論理的一貫性を持たせるよう意識しました。SOPでは、自分がなぜGerontologyに関心を持ったのか、過去にどんな困難を乗り越えたのか、過去にどのようなインパクトのある功績を生み出したのか、過去の経験がどのように現在の志望動機に繋がっているのか、について具体的なエピソードを交え、論理的な繋がりを意識して書きました。これまでの経験を振り返り、なぜこの大学院に行きたいのか、なぜこのプログラムでなければならないのか、なぜこの分野の研究をしたいのか、留学へのパッションを自分に問い直す作業が必要でした。英語圏に留学経験のある同じ分野の研究者や大学院生、他分野の研究者、自分の分野の背景知識がない友人など、色んなバックグラウンドの人にお願いして自分のSOPを読んでもらい、初見の人にもわかりやすい文章になるように工夫しました。

出願に関する疑問はadmission officeに問い合わせて解消しよう

同じプログラムの出願準備をしている人が周囲にいないことの方が多いと思うので、出願手続きなど何か分からない事があったら大学のadmission officeにメールで問い合わせて正しい情報を確認しましょう。志望プログラムのvirtual sessionに参加して質問するのもおすすめです。積極的に色んな人に質問して自分の抱える疑問を解決する癖を身につけておくといいと思います。

臆せずに色々なことに挑戦してみよう

留学を開始してみて、日本での臨床経験・研究経験は他国の人にはない独自の視点となって役立つことがわかりました。これまでの経験は後々思いもよらぬところで繋がってきます。新しい仕事の誘いを受けた時や新しい仕事のopportunityを見つけた時に、自分の専門分野から少し離れた仕事や、自分には難しすぎて荷が重い仕事であっても、良い経験になると思って臆せず挑戦してみると後々自分を支えてくれるかもしれません

7. これから海外大学院に出願する人へのメッセージ

私もまさか1年前に第1志望のプログラムに合格するとは思っていませんでした。いつ海外大学院に挑戦しても遅すぎることはないと思います。ものは試しで、まずは挑戦してみてください!

大学院での様子は笹川保健財団のホームページに掲載されていますので、ご関心のある方は覗いてみてください。

https://www.shf.or.jp/information/22332

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