1. 自己紹介
2023年9月からUniversity of Massachusetts Amherst, Organismic and Evolutionary BiologyのPhD過程に進学します。今年4月に北海道大学の理学部を卒業し、現在は名古屋大学の環境学研究科で修士課程に在籍しています。
あまり輝かしい戦歴ではないので体験記を書くか悩んだのですが、自分の受験はイレギュラーが多いので参考になる人がいるかもしれないと思い書かせていただきました。読んでみて「結局、自分の状況と違いすぎて参考にならなかった!」ということを避けるために、最初に自分の出願時の実績と制限を並べておきます。
実績
- 1ヶ月半Georgia Techでインターン&推薦状をいただいた
- 海外大学院用奨学金あり
- GPA(3.92/4)
- TOEFL(103点)
制限
- 論文・学会発表なし
- 教授とのコネなし
- GREは受験していない
特にイレギュラーな部分
- NeuroscienceからEcologyに分野を変更して出願
- 志望校選びを含む受験期間が2週間
- 締め切りを過ぎてから出願したところに(だけ)合格している
2. 大学院留学を志した理由・きっかけ
両親が研究者だったので、人生をかけて自分の興味を追求するような研究者像に憧れがあり、博士課程に進学することは大学1年生から漠然と決めていました。また、小さい頃に一年ミシガン州に住んでいて、その刷り込みからかアメリカで学生をすることへの憧れがありました。しかし逆に言えばそれくらいのぼんやりした理由から大学院留学を目指し始め、私の大学院受験はむしろ「本当に大学院留学をしたいのか?」と自分に問い続けるものになりました。
3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容
私は野生動物の能力に惹かれ、彼らがなぜそれを身につけられるのかということに興味がありました。特に自分は方向感覚と記憶力が壊滅的にないので、目印がなくても目的地が分かる渡り鳥や、生まれた時は歌えない複雑な歌を練習によって歌えるようになる鳥がどうやってそれを身につけるかを知りたいと思いました。
早く研究したかったことと大学院留学のために実績が欲しかったことから、教育熱心な教授にお願いして学部3年生から研究を始めました。元々は野生動物の行動に興味があったのですが、最初は実験室で行われる神経科学の研究室を選びました。理由としては、いきなりフィールドワークに飛び込むのではなく、まず分子実験のスキルを身に付けて視野を広げたかったからです。
研究内容としては、歌う鳥の一種であるキンカチョウを用いて遺伝子と歌発達の関連を調べました。具体的には、歌唱経験の有無で脳内発現が変わる遺伝子があるのですが、その一つを自作ウイルスによって脳内で過剰発現させ、その後の歌の発達が変わるかということを調べていました。ここで神経科学に触れることができたこと、そして自分はおそらく実験室での実験に向いていないと感じた(器具を壊しまくりました)ことから、大学院では当初の興味に近い環境学の研究室を探すことにしました。
4. 海外大学院出願までの紆余曲折
高モチベ期(〜4年生5月)
4年生初期までは謎にモチベーションが高く順調に準備を重ねていました。中谷財団主催のGeorgia Techでの研究留学プログラム(体験記:https://phdiscover.jp/phd/article/1594)に参加してさらにモチベーションが上がり、4月から威勢よく出願準備を始めました。GPAを保ったりTOEFLのスコアメイキングをする上ではこのモチベーションで特に問題はなかったのですが、いざ推薦状をお願いしたり、エッセイを書き始めるタイミングで問題が頭をもたげてきました。
低モチベ期(4年生5月〜6月)
奨学金用の推薦状をお願いしに行った時指導教官に言われた「アメリカに行きたいのはわかるけど、なんで行きたいかが伝わってこないんだよね」という言葉に、私はしばらく悩み続けることになります。それでもなんとかエッセイを書き、教授達にもどうにか推薦状を書いていただき、6月の締め切りギリギリにQUAD Fellowshipという奨学金に応募しました。推薦状は指導教官(教授)、A+をとった授業の教授、Georgia Techのインターン先の準教授に書いていただきました。
停止期(4年生7月~11月)
この頃追い討ちをかけるように、自分のやりたいことドンピシャの研究室が名大にあることを知ってしまいます。そこでは、鳥の渡りなど動物の移動をバイオロギング、AI、神経科学といった多角的な分野から解き明かそうという、私にとってあまりに面白そうに思えるプロジェクトを行なっていました。
そこから私の興味は完全に名大に浮気し、出願のプロセスを全て停止しました(奨学金の面接だけは、当時の指導教官に強く受けなさいと言われたので受けていました)。自分の実績でいきなり海外大学院に行くことは厳しいと思っていたこともあり、自分に言い訳しながら名大の研究を調べてはニヤニヤする日々を送っていたのですが、忘れもしない11月19日、QUAD Fellowshipから採用の通知をいただきました。
再興期(4年生11月〜12月)
そこから悩みに悩み、すでに進学が決まっていた名大の教授を含めた周りの方々とも相談しつつ結論として「貴重な機会をいただいたので活かしたいが、やりたい研究ができるのが一番大事。ついていきたいと思える先生がいれば進学しよう」という考えの基でもう一度海外大学院の進学先を探すことにしました。しかし、たいていの大学院の出願締め切りは12月1日、残された期間は2週間のみでした。
5. タイムスケジュール
図で受験時のタイムスケジュールをまとめました。ここまでならギリギリ出願に間に合う(かもしれない)という意味で捉えていただけると幸いです。
まず志望校選びとメールを送ることを第一優先にして動き始めました。学校の選び方は、
- “migration”, “ontogeny”といったキーワードで検索し出てきた論文の中から興味のあるものを選んで著者の所属がアメリカか調べる(孫引きを乱用)
- 先生方に聞く
という2通りで行いました。遊びに来ておいて「急に進学できなくなりました〜」などとのたまう学生の志望校選びにまで付き合っていただいた名大の教授と、忙しい中時間を割いてくださった北大の教授方には本当に頭が上がりません…。
メールの返信を待っている間にエッセイの骨組みを書き、返信の状況を見て志望校を絞りながらそれぞれの学校に合わせて文章を少しずつ書き換えました。さらに、第一志望と第二志望のものだけは留学経験のある母に一日で、春の留学で知り合った友達に二日で添削してもらいました。この二人にも頭が上がりません…。
十通以上メールを送り、快い返事はほとんどいただけませんでしたが、二通だけ望みのある返事が来ました。そのうち一通がUMass Amherstに所属する先生からでした。彼の返事はこうでした。
「僕のラボはもう定員オーバーだけど、別の先生が今年からラボを開くみたいで生徒募集してるよ。紹介するからZoomしてみれば?」
一も二もなく「zoomしてみたいです!」と返信してから、紹介された方(Principal investigator、以下PIと呼びます)のことを調べ始めました。あまり期待はしていなかったのですが、ありがたいことに彼女は野生の鳥の温度適応能力を実験室で調査していて、フィールドワークと分子実験の融合という私の興味にピッタリの研究を行っていました。そのためか学部時代の研究の話にかなり食いついてくださり、「渡りのgeneticsもこれからやる予定だからうちのラボ受けちゃいなよ!」というメールがZoom後に届きました。
しかし問題は時間でした。PIとZoomしたのは12/1、そしてUMass Amherstの出願締め切りも12/1でした。「今日出すのは流石に無理です(泣)」というメールを送ったところ、締め切り過ぎてもいいから出しちゃいなよ!と言われたので、それを信じて12/5に提出しました。
6. 出願結果
6校に出願し、UMass Amherst以外全て不合格をいただいています。一方でUMass Amherstは面接がなく2月にいきなりVisitの連絡を受けました。そんなうまい話があるわけない!と思いながらガチガチに準備して行きましたが、いざ蓋を開けると大学院生や先生とZoomで1時間くらいお話しするだけで拍子抜けしました。そこで、最初にPIを紹介してくださった先生とPIは夫婦だったという衝撃の事実を知ったり、PIがホームページに載っていないためやはり詐欺だったのでは…?と疑ったりしましたが、3月上旬に無事合格をいただきました。
7. 考察
このようなギリギリの出願でなんとか一校合格をいただけた理由を考察しました。
- 奨学金をいただくことができていた
元も子もない話ですが、私の実績であの短期間で合格が貰えたのはほとんど奨学金の力だと思います。奨学金には「私はまだ学部生で実績がないが、その分柔軟だから投資してくれ!」のような傲慢なことを書き、典型的なポテンシャル採用を頂きました。奨学金の場合は、実績がなくても学部時代の研究を上手く伝えてやりたいこととポテンシャルを示せば採用していただける可能性もあるようです。
- たまたま興味が合う教授がいた
師事したいと思えるPIにあの短期間で出会えたことは幸運でした。また、UMass Amherstの進学先プログラムはPIを指定しないと出願できない特殊な形式であったため教授の発言力が高く、教授と考えが一致するような学生が合格しやすい環境があった可能性があります。
- 新しくラボを開いたassistant professorのところに出願した
これはメリットデメリットがあります。メリットとしては、学生を探している段階だから合格しやすいこと、スタートアップのグラントがあるのでしばらくの資金は担保されていること、論文を出すモチベーションが高いため学生でもpublishできる可能性が高いことです。
一方で、デメリットとしては(今想像している範囲では)先輩が少なく相談できないこと、ラボの運営が失敗した場合共倒れすること、設備が整っていないのですぐには実績を上げづらいことです。
色々な人にfirst graduate studentはしんどいぞと脅されるので実は少し怖がっています。サバイバルのためのアドバイス募集中です。
一方で、反省していることもたくさんあります。例えば以下のような点です。
- 第一志望だからと怖がらずにコンタクトを取るべきだった
第一志望だったCornell Universityは鳥研究で大変有名な研究室があるため受けることを早くに決めていたのですが、本命すぎてなかなかメールが送れず、結局11月になってしまって当然返信がいただけませんでした。今はCornellへの未練はあまりないですが、第一志望を後回しにしないことは大事です。 - XPLANEの執筆支援プログラムを使ったり、学会で人脈作りをしておくべきだった
これは時間がなかったので仕方ないですが、やるべきでした。エッセイは海外大学院生に読んでもらって内容までアドバイスをもらうべきだったし、今回の経験からもわかるように教授とのコネクションはとても大事です。
8. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス
長駄文を読んでくださりありがとうございます。お手本にできない出願ですが、ギリギリになっても出願までは漕ぎ着けられるのだということで参考にしていけたら幸いです。
私の出願より参考になる話が、XPLANE記事含め色々なところに転がっているので、出願予定の方はぜひそちらも見てみるといいと思います。
- https://kdricemt.github.io/juken/:ここで引用されている記事を含めとても参考になります。
- https://www.youtube.com/watch?v=H2vFswJULqw:不合格をもらっても諦めずCaltechに入学された方です。
- https://www.youtube.com/watch?v=bi3Xuum-GL4:面白くて個人的に好きです。
ただ自分の体験からアドバイスをするとしたら、以下の三つです。
- 実績がない/時間がないことで諦めない
- 国内にもいい研究室はたくさんあることを知っておく
- 落ちた場合の行き先を決めておく(メンタルの安定に繋がります)
進路に迷ったとき、友達に言われた次のような言葉がとてもしっくりきました。
「そこに行って失敗した自分をまず想像してみて、その時に、自分が選んだ道だから仕方ないと思う方を選べばいいよ。」という言葉です。これから行くのは新しく開くラボなので失敗するリスクは高いです。しかしこの先生についていって失敗するなら仕方ないという人なので、後悔はないです。大学院受験は時間との戦いですが、あまり焦りすぎず後悔の少ない自分なりの道を模索してみてください。
最後に、研究の世界を教えてくださった北大学部時代の先生方をはじめ、現在の所属先である名大の先生方、拾ってくださったUMass Amherstの教授夫婦、財団の方々、ラボの皆さんや色々教えてくださった先輩方、支えてくれた友達と家族に深く感謝申し上げます。