1. 自己紹介
現在、京都大学工学研究科博士後期課程に在籍しているスコと言います。出願時には修士2年で、南カリフォルニア大学に進学するまでの4~7月は京都大学に博士1年として在籍し、休学してアメリカに渡航する予定です。
2. 大学院留学を志した理由・きっかけ
ここでは a.博士号を目指した理由、と b.海外に行くことにした理由に分けて記述したいと思います。
a.博士号を目指した理由
卒論発表会を終えた頃に、博士課程まで行ってもっと勉強したい!と感じ、指導教員の先生と博士進学について話しました。この時点ではふつうに現在の研究室に進学するつもりでした。博士課程に進学することを決意したのは、様々な情報があふれる社会で研究者なら自身の専門分野に関して“正しい”判断を行えるのではないかと思ったからです。当時は(そして現在も?)コロナや環境問題、性的少数者に関する問題、社会構造と女性に関する問題、歴史認識に関する問題など、日本が抱える様々な社会問題について、多くのメディアで専門の知識を持たない自称「専門家」や政治家、タレントの意見が大きくフォーカスされているような状況でした。私は人気や知名度、言っていることの「ウケ度」ではなく、近年の論文や研究内容によってその学術界で評価されている専門家の意見をもっと聞きたいと考えていました。当時はまだ研究を1年やっただけでしたが、自分の指導教員や身近な研究者を参考にして、テレビに出ている人がその業界でどのような立ち位置なのか、最近論文は書いているのか、主な主張は何か、どのような学術雑誌に投稿しているのかなど、調べて評価することが可能でした。また逆にそういった点で評価できる人をSNSで調べて、その人の意見をのぞいたりもしました。そういったことをする中で、自分も専門分野を究めて社会問題に対して可能な限り“正しい”判断を行いたいと思ったことが博士進学を決意した主な理由です。その他の理由としては、純粋に研究が楽しかった、自分が苦労してやったことをいわば特許のような形で論文として世の中に残せる、なども挙げられます。こういった理由から、4回生の終わり頃に博士課程進学を決意しました。
b. 海外に行くことにした理由
もともと修士修了後の就職先として建設コンサルに興味があったので、学部3、4年の時期に4社インターンシップに行きました。建設コンサルは土木業界の中でも自由度が高く、これまでの土木業界イメージに対して比較的新しい体質だという話を聞いていたので期待していきました。しかし、全体的な雰囲気や女性の働き方に対してそれほど希望的な変化を見いだせず、日本で働くことに関してあまり積極的になれませんでした(実際には土木業界における働き方や女性活躍については改善してきているのが事実です。私の期待値が高すぎたという意味です)。日本で博士号を取ったらファーストキャリアは日本になるだろうと思い、海外で最終学位を修めることを考え始めました。また、海外の方が博士号保持者に対する待遇が良いこと、女性や社会的なマイノリティも働きやすいことなどから、博士号をとるなら海外がいいという結論に達し、修士1年の夏ごろに海外の大学院受験を決意しました。
3. 出願体験記
a. 出願時の状況
私の出願時の状況は以下の通りです。
- 学部GPA:3.3 、院GPA: 3.1
- ノートルダム大学(アメリカ)にて一ヶ月間の研究留学(出願前の9月に行きました)
- 国内の学術雑誌に主著論文1本(日本語です)
- 海外留学用奨学金(博士用)は5個応募して全落ち
全体として、まず成績が芳しくないです。学部の成績は専門分野に絞るとさらに悪くなる気がします笑。また主著論文があるものの日本語なので海外大学院受験ではあまり効果的ではなかったと思います。海外留学用の奨学金は全て一次審査で不合格となり、stipend(博士学生の給料)をもらう形での合格を目標にしていました。またノートルダム大学での研究留学は9月でしたので、それまでに締め切りのあった奨学金に関してはそれをアピールすることはできませんでした。
b. 出願結果
最終的にアメリカ・カナダの4校を受験し、すべての大学からオファーをいただけました。具体的な結果は以下のようになります。
表から分かる通り、全ての大学の先生方に直接お会いし、博士留学について直談判しました。ノートルダム大学以外の教授とは、出願時期の12月に行われた国際学会で初めてお会いしました。この国際学会については後ほど詳述したいと思います。
大学名 | コンタクト時期 | 結果 |
---|---|---|
University of Notre Dame (ノートルダム大学) | 9月、研究留学中に直接 | 合格(3/15通知) |
University of Southern California (南カリフォルニア大学) | 12月、国際学会にて直接 | 合格(2/3通知) |
Oregon State University (オレゴン州立大学) | 12月、国際学会にて直接 | 合格(2/4通知)但しfinancial packageなし |
University of Ottawa (オタワ大学) | 12月、国際学会にて直接 | 合格(3/12通知) |
4. 出願をした年のタイムライン
2022年1月~2023年3月のタイムラインを下の図にまとめました。海外大学院受験に関することは特にオレンジ色で示しています。結構前から海外大学院の受験を決めていたにも関わらず、結局いろいろギリギリになってしまったのは反省点です。
・出願校探し
現在の研究テーマ、もしくはそれにできるだけ近い研究をやりたかったので、指導教員にお願いして現在の研究内容に近いことをしている教授のリストをいただきました。私がその中から一人選び、指導教員から紹介してもらうという流れでした。一人に絞るため、そのリストに載っている先生の研究や研究プロジェクトについて調べました。また、特に気になった先生方のPhD生に連絡して研究内容や研究環境について聞きました。また、リストに載っている先生方の大学に所属する日本人を留学中の先輩に紹介していただき、大学の立地や雰囲気についてZoomで教えていただきました。また一校しか受験しないというのは不安だったので、自分でも進学候補先を探しました。海外のPhDやポスドクの募集情報が発信されるサイトを頻繁にチェックし、興味のある投稿には自分のCVや研究内容をまとめたPDFを添付してメールしました。こちらはかなり苦戦しました。そもそもメールしても返信がない、1回返信が来ても2回目は返信が来ない、予定されたzoom面接に相手が現れない、日程再調整のメールを送っても返事が返ってこないなど、相当数トライしましたが一つもうまくいきませんでした。結局こちらの方法では出願校は見つかりませんでした。
・海外用奨学金応募
5月ごろから海外大学院留学用の奨学金に応募し始めました。私の経験上、海外大学院受験において、奨学金を持っていることはとても有利に働くと思います。客観的な実力の証明になり、教授とのスムーズなコンタクトやより高い合格可能性につながると思います。残念ながら、私の場合は博士進学用に応募した5つの奨学金全てに落ちてしまいました。当時は少しでも可能性があるならトライすべきと考えてできる限りたくさん応募することを目標にしていました(博士がダメだった時用に修士用の奨学金もいくつか応募していました)。しかし後から考えてみると、もっと応募する奨学金を絞って一つ一つの申請書類の完成度を上あげるべきだったと思います。指導教員にも毎回推薦書を書いていただく手間を考えると、なおさら少数集中型にすべきだったと感じます。
・国内用奨学金応募
これは国内の博士受験を同時にする方しか申請しないと思いますが、私は京都大学主催の博士学生のための奨学金と特別研究員(いわゆるDC1)に応募しました。私はこれらの奨学金申請のために博士課程での研究計画を詳細に立てたので、海外用奨学金の研究計画の内容にそれほど苦労することはありませんでした。この意味でも申請しておいてよかったと感じます。
・テスト対策(英語、GRE)
修士試験のときにTOEFL iBT home editionを受けたことがあったので、TOEFLを使おうと考え対策していました。しかし思うように点数が伸びなかったのとIELTSの方が簡単だという話を聞いて、途中からIELTS対策に切り替えました。これは私の体感ですが、TOEFL iBT 100よりもIELTS OA[編注1] 7.0の方が易しいと思います。はじめてIELTSを受験したのは2022年1月下旬でした。結果はOA 6.0でそれほどよくなかったですが、初めてだったのでよしとしました。二ヶ月ほど勉強したらOA 7.0は取れると考え、すぐに2回目の予約をして4月上旬に再度受験しました。結果はOA 6.5で若干届きませんでしたが、このスコアをいくつかの奨学金の申請や京都大学の博士試験に使いました。そこから三ヶ月間もう一度勉強して7月上旬にOA 7.0を取得できました。GREに関してですが、Covid-19の影響もあり受験予定だったすべての大学院でoptionalだったので受験しませんでした。学部・院の成績が良くなかったのでGREで挽回することも考えましたが、スケジュール的に厳しかったので止めました。
・SoP作成
9月から始まったXPLANEのSoP執筆支援プログラムに参加しました。メンターのお二人には、SoPに関することだけでなく、その他受験に関してたくさん話を聞いていただき、精神的にも大変支えられました。12月中旬に最初の出願(南カリフォルニア大学)が突然決まり、その時点ではSoPの骨格のみ完成している状況でした。細かい部分の仕上げは現在所属している研究室の准教授(海外の方ですが英語nativeではない)にしていただきました。研究留学中に仲良くなったPhDの方にも文法について添削を依頼しましたが、screening test前のため断られてしまいました。時間もなかったので結局英語nativeの方のチェックはなしで提出しました。他の大学については、SoP全体の構成はそのままに、研究計画の部分を事前に各受験先の教授と話した内容に変えて提出しました。また各大学にSoPの内容に関する細かい指示があったので、それに合うよういくつか修正を加えました。
・出願
基本的にはどの大学もCV、SoP、推薦書3通をオンラインで提出するだけでした。推薦書はすべて現在の研究室の指導教員(教授)と日本人の准教授、海外出身の准教授に書いていただきました。推薦状は一から書いていただけましたが、しかし後から考えてみると、書いていただく内容を調整できるよう、書いてほしいこと(自分の成績ややってきた取り組み、アピールポイントなど)があれば事前に渡した方がいいと思います。
5. 海外大学院出願で苦労した点・うまく行った点
a. 苦労した点
特に苦労した点は、メンタル面だと思います。修士2年の5月にはいろいろ不安になってしまい、指導教員と相談して一ヶ月のお休みをもらいました。当時は海外に行くことを決めたものの有力な進学候補先も見つからず、プランBとしてsecond masterをとることも考えていたりして、不安要素が多かったです。また様々な奨学金申請やDC1の準備、論文の本投稿の締切等が重なり、精神的にきつかったです。
b. 上手く行った点(というより運が良かった点)
・ ノートルダム大での研究留学
結局論文の本投稿を諦めて一ヶ月のお休みに入りましたが、休み中に京都大学の短期留学支援の奨学金の合格通知がきました。奨学金の内容としては①一ヶ月間アメリカの大学または研究所に滞在して研究活動を行うこと、②航空券代と宿泊費が補助されるというものでした。すぐに指導教員に相談して、ノートルダム大学に行くことになりました。京大の博士入試を終えた9月に行きました。そこでは自分の研究内容とはやや異なる研究に取り組んだので少し苦労しましたが、ここでの経験により海外で博士生活を送りたい気持ちが非常に高まりました。PhDの人数が多く、女性PhDも多く、また博士というポジションが一つの仕事として評価されているというのも魅力でした。また、研究環境や研究内容については現在の京都大学の研究室も大変充実していることが分かりました。それを踏まえたうえで、私は海外の大学院に進学した方が、自分が博士を通して得たいと考えているものが得られるのではないかという結論に至りました。そこでノートルダム大学の研究室の教授陣(2名いました)に博士学生として来年度採用してほしいと直談判しました。大変好意的に話を聞いていただけ、帰国後も進学後の研究計画についてZoomでミーティングを行いました。現在取り組んでいる研究テーマから離れることだけ少し残念でしたが、それでも素晴らしい博士生活になると思い、とても楽しみでした。
・ 12月の国際学会でのダイレクトなコンタクト
その後転機となったのは、12月にシドニーで行われた国際学会です。学部4年で研究室配属されてから初めての対面での国際学会だったので、単純に楽しもうと考えていました。しかし、学会初日に本当にたくさんの教授や学生が参加しているのを目の当たりにし、この学会期間をチャンスとして使おうと決意しました。結果、大成功でした。その日はとにかく自分が気になっていた教授に声をかけまくって、自分の名刺を渡し、発表を聞きに来て欲しいと言って回りました(この行為自体にはそれほど効果はなかったと思います笑)。学会中は多くの博士・修士生に声をかけ、自分が何を研究しているのか、博士課程ではどういうことをしたいのか話し、それに合いそうな教授を紹介してもらうということを繰り返しました。結果的に学会中に3人の教授と博士進学について直接話すことができ、出願後全てのの大学からオファーをいただくことができました(一つはstipendが付かなかったので実質不合格ですが)。かなりギリギリですがこのタイミングで国際学会があったこと、思い切って多くの学生、教授と話したことは大変効果的だったと感じます。
6. 進学先選びについて
進学先の南カリフォルニア大学の教授とはさきほど書いた通り、12月の国際学会でお会いしました。実はこの先生は、指導教員からいただいた、現在の研究内容に近いことをしている教授のリストに載っていた先生でした。しかしその研究室のPhDの方から「PhD生が既にたくさんいるので、先生は来年度は新しい学生をとらないと思う」という旨のお話を伺っていたので、その先生にはコンタクトしていませんでした。その教授は私の研究テーマに興味があったらしく、学会で私の発表を聞いてくださったそうです。学会最終日、昼食時に研究に関して少し議論してくださいました。その時に「南カリフォルニア大学に興味があったら申し込んでいいよ」と言われました。驚きましたし、今の研究テーマに引き続き取り組めるとのことだったのでとても嬉しかったです。しかしこの時点で南カリフォルニア大学の出願締切まであと1週間ほどでした。到底無理だと思ったので今年は諦めて翌年の2024年秋入学のプログラムに申込みますと伝えたら、「君はただCVとSoPを出すだけだよ、すぐ出せるよ」的なことを言われました(笑)。「軽!!!!」と思いながらも日本に帰国後すぐに取り組んで5日ほどで出願しました。実は学会から帰国後京大の参加メンバーはそのまま全員Covid-19に感染してしまったので、療養中の出願となりました。療養中にも関わらずすぐに推薦書を書いてくださった指導教員、准教授のお二人には感謝の気持ちでいっぱいです。また療養生活を支えてくれた家族にも大変感謝しています。一方で、研究留学先のノートルダム大学の先生方には大変好意的に博士進学の話を進めていただいていたため、かなり申し訳ない気持ちがありました。しかし、現在の研究テーマに引き続き取り組める南カリフォルニア大学に進学を決定しました。
7. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス
・教授と直接話す
研究留学でも国際学会でも感じたことですが、教授に直接会って話をするというのは、コンタクトするうえでとても効果的だと思います。メールでは返事をもらえなかったけど、直接話しかけたら会話してもらえたということもあると思います。また、今年学生をとるのかなど正確な情報を得るという意味でも教授と直接話すことは重要だと思います。
・自分の身の回りのコネを最大限使う
信頼を手早く得るという意味では、自分をよく知ってくれている人(指導教員など)のコネを使うのが最も効果的だと思います。指導教員に共同研究者がいる場合は、その教授を紹介してもらうのが最もはやく確実にコネクションを作る方法かと思います。また、指導教員が紹介するような教授なら、こちらとしてもある程度その教授の人格や、ブラック研究室ではないという保証になり安心ではないでしょうか。また海外大学院受験準備中はとにかくあらゆる場面で自分の使えるコネをなんでも使ってみることをおすすめします。思っている以上にみんな助けてくれると思います(もちろん断られる場合もあります)。できるだけたくさんのコネクションを駆使して様々な人から意見をもらった方が、より良い選択、より良い準備が可能だと思います。
・塩対応、不合格などで立ち止まらない
奨学金がない場合は、海外PhD受験は学生のやりたい研究テーマと先生の興味(これから研究を進めたいと思っている研究領域)がマッチするかが大変重要になります。なので、塩対応されたり、不合格通知をもらったりしたからと言って、自分や自分のやりたい研究内容に価値がないわけではないです(へこみますし、気力・体力は使いますが泣)。同じ研究内容でも大学・研究室・先生によってwelcomeになったりunwelcomeになったりします。ですので、とにかくまずは自分の信念にしたがって必要だ・大切だと思うことに取り組み、そのうえでマッチする進学先を探すのがいいと思います。
・普段から自分の考えを周囲に伝えておく
日頃からいろんな人に「海外行きたいんだ~」「こんな研究してるんだ~」という話をしていれば、ひょんなところから話が舞い込んでくるかもしれません。実際、南カリフォルニア大学進学決定後も、「もしまだ進路が決まってないなら~」という感じで新しい海外博士募集の話をいただきました。また、南カリフォルニア大学の教授が私を誘ってくれたのも、私がその学会で「海外PhDに興味あります」と終始動き回っていたからかもしれません(実際、なぜか彼は私と話す前から私が海外PhDに興味があることを知っていたようでした)。自分の考えていることを早い段階からいろんな人に伝えておくことは、どこかのタイミングで自分を救ってくれるかもしれません。実現可能性がどのくらいあるかは一旦横において、自分の計画を早めに口に出しておくと良いと思います。
参考になったか分かりませんが、ここまで受験記を読んでくださりありがとうございました!皆さんが納得する形で大学院受験を終えられることを願っています。ありがとうございました。
【編注】
[1] IELTSの4技能(Reading, Listening, Writing, Speaking)の平均スコア(Overall)のこと。IELTSではそれぞれの技能について1.0〜9.0の0.5点刻みで採点され、それらを平均して1.0〜9.0の0.5刻みにしたものをOAスコアとして算出する(端数が出た場合は切り上げ)。海外大学院入試においては、OAスコアでの基準のほか、それぞれの技能についても基準が設けられる場合もある(例:Overall 7.0以上、各技能6.5以上)